ICTコラム

ICTを駆使したSXの事例

記事ID:D40053

前号(第1回)では、企業経営に今、なぜ持続可能性が求められているのか、それに向けてどんな取り組みが必要なのか、そしてI C Tツールが持続可能性への変革(S X:サステナビリティ・トランスフォーメーション)を推進するのになぜ役立つのかというポイントを紹介しました。しかし、これだけでは具体的にイメージできないかもしれません。そこで今回は、より理解を深めていただくため、I C Tを使ってS Xを実現した実際の事例を二つ紹介します。

SXの推進に役立つICTとは

 まずは、ICTについて説明しましょう。ICT(情報通信技術)は、通信の技術を使って、情報を集めたり、伝えたり、処理したりするものの総称で、具体的には、コンピューター、ネットワーク、データベース、ソフトウェアなどが含まれます。情報の収集、処理、保存、伝送、及び利用に関連する技術を包括しており、現代社会において非常に重要な役割を果たしています。
 例えば、スマホは電話をかけるだけでなく、写真撮影やメッセージ送信、インターネット検索などさまざまな機能が付加されています。これにより、私たちはスマホを通してコミュニケーションを充実させ、生活の質も向上させることができるようになっています。
 ICTは私たちの生活を便利にするだけでなく、さまざまな業種に革新的な変化をもたらしています。そこで、ICT技術を駆使してSX(持続可能性を重視して、環境、社会、経済に配慮した企業経営を行えるように変革していくこと)を実現した事例について紹介していきます。

ICTを活用したぶどう農園のSX

 ぶどう農園を経営しているA社は、近年の消費者意識調査から、環境配慮につながる商品を意識している人が年々増加していることに着目し、環境に配慮した農産物を販売することで他社との差異化を図り、市場での競争力を向上させたいと考えました。従来の栽培方法から、化学肥料や農薬の使用を最小限に抑える「有機栽培」方法へ転換することで、市場のニーズに適応しようと考え、ICTツールを導入しました(図1参照)。

図1:ぶどう農園のICT ツール導入によるSX の取り組み概要

 活用するICTツールの一つ目はセンサーです。土壌の湿度、温度、光量を計測するセンサーを導入し、ぶどうの生育状況をリアルタイムで観察・記録することで、必要な水や肥料の適正な量を供給できるようにしました。これにより、水や肥料の無駄がなくなりました。
 二つ目はドローンです。ドローンによって、地上からでは視認が難しいぶどう園全体の視覚的なデータを収集することができ、高解像度の画像や赤外線画像から、生育状況や病害の発生を視覚的に確認できるようになりました。これらのデータを基に、必要以上の量の農薬や化学物質の散布を防ぎ、環境への負荷を軽減することができました。
 三つ目はブロックチェーンです。一つ目、二つ目で得られたぶどうの生産過程のデータや、さまざまな品質情報をブロックチェーンで管理・公開し、消費者に製品の透明性を提供できるようにしました。これにより、安全・安心を消費者に届けることができるようになりました。同農園はICTツールを導入することで、環境へ配慮ができるようになっただけでなく、経済面においても好影響がありました。例えば、ぶどうの生産状況を「見える化」したことが、人やモノ、時間などの資源の最適な利用につながり、コスト削減を実現しました。また、品種ごとのデータ分析も可能になり、品質向上にも役立っています。

ICTを活用した装飾品メーカーのSX

 ハンドバッグの生産・販売を行うB社は、以前から修理サービスを通じて製品の廃棄を減らし、製品寿命を延ばすことで環境負荷を軽減しようとしていましたが、手間がかかることもあって、修理サービスの利用客は思うように伸びていませんでした。そこでICTに活路を求め、修理サービスをオンライン化するプラットフォームの構築に取り組みました(図2参照)。

図2:ハンドバッグメーカーのSX の取り組み- ICT 活用前後

 ICT導入後の修理サービスの流れは以下のとおりです。最初の工程、オンライン修理依頼の手続きでは、顧客がオンラインプラットフォームを通じて製品の写真や修理内容をアップロードし、修理依頼を出します。すると、B社の修理対応チームはシステム上で製品の写真や修理内容を確認し、修理可能かどうかを判断します。次に修理作業が始まると、依頼者は専用のアプリケーションでリアルタイムに修理状況を追跡できるようにしました。作業が完了すると、依頼者へ自動で通知が届き、修理品は指定した住所に返送されます。これにより、顧客は修理を待つ間に不便を感じることがなくなりました。その結果、B社の修理依頼数は年々増加し、顧客満足度も向上しています。このようにICTを活用したオンライン修理サービスは、SXを促進し、環境配慮の面と事業性の両面で成果を上げています。
 環境の面においては、まず修理によって製品が再利用され、新たな製品を生産する必要を減らすことができました。新品製造には原材料の調達、製造、エネルギーの使用などが伴いますが、修理によりこれらの過程が削減され、CO2排出量が大幅に低減されます。また、電子取引により紙の使用が減り、人や製品の移動・輸送に伴うCO2削減にもつながります。
 事業性の面においては、ICTで収集したデータは、社内の改善においてさまざまな活用が可能になります。例えば、蓄積した修理や顧客へのフィードバックなどのデータを分析することで、製品の改良に活かすことができます。また、修理サービスの需要変動をデータから予測し、在庫を最適に管理することができます。
 以上のことから、ICTの活用によりサービス提供の変革が進み、環境への配慮が実現されたと同時に、経済性の向上も図られました。このように、環境への影響を最小限に抑えつつ、経済的な効率を高めるようなSX事例が増えることが期待されます。

※ ブロックチェーン
さまざまな取引履歴を信頼性のある形で保存することが可能なシステム。保存されたデータの偽造や改ざんがほとんど不可能なことが特徴。

きょ

株式会社日本能率協会コンサルティング 生産コンサルティング サプライチェーン・デザイン&マネジメントユニット コンサルタント。中国/上海出身。入社以来、製造業を中心に在庫マネジメント強化、物流体制の改革推進などのテーマで支援実績を積んでいる。最近では、工場現場の生産性向上支援、サプライチェーンCO2排出量算定・削減の支援も行っており、サステナビリティ経営支援も推進している。

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