電話応対でCS向上コラム

第16回 人が変化していく過程を支える変容型メディエーション

第三者が当事者同士の話し合いを促し、トラブルを解決に導くメディエーション(調停)。前回は、2回目の調停において当事者が欠席した場合の対処、そして時間を置くことで起きる当事者たちの心の変化についてお話ししました。今回は、人が成長し、変化していく過程を支える「変容型(transformative)メディエーション」についてご紹介したいと思います。トラブル収拾の極意を学び、当事者同士の相互理解を促すコミュニケーションの基本を身に付けましょう。

「突き合う」を支えるメディエーション

「つきあう」という言葉をご存知でしょうか?ひとつは義理や交際上の理由から、お互いが親しい関係を作ったり、行動を共にする意味の「付き合う」。もうひとつは、動物同士が、角を突き合わせるようなイメージの「突き合う」があります。

時にメディエーションではこの「突き合う」が必要になるケースがあります。紛争や不満を抱えた当事者は、対話の中で、後者の「突き合う」ことをしないと、対話によって対立を越えていくことはできません。自分の角を相手に交え、同時に相手の角も受けて、違いと共通点を認めながら、お互いが「突き合って」いく。そのプロセスをメディエーターが支えていく。それがメディエーションとも言えるでしょう。

メディエーションは対話の中で、双方が傷つくことを当然の前提としています。違いを認め、自分が変わっていくには、自分という枠にこだわらず、今ここで相手と対峙する中で、変容していくため、傷つかずには変われない場合も多くあります。メディエーターはその中で「安心して安全に、後に残さないように、お互いが傷つくプロセスを支える」役目を果たすのです。

お互いが自分の主張を正当化し、相手の主張を否定していては、対話は進みません。時に相手方を恨んだり、時に相手をはり倒してやりたい、と思うこともあるでしょう。しかし、現実を見つめて、ある時は打算的に、ある時はきっぱりと決めなければなりません。この、いわば、進むにも危険、退くこともしにくい「崖っぷち」で、人間関係を切るか、経済関係を切るかに迫られます。そしてこのような土壇場に追い詰められた時、人は自分の中に秘められた創造性を発揮し、“変わる”ことができるのです。

人の変化を支える変容型メディエーション

これまで、特定の問題を協調的に解決していく「問題解決型メディエーション」をこの連載では多くご紹介してきました。しかし結果的に、メディエーションのプロセスを通じて、人が変わったと実感できる場合があります。特に家事関係(離婚等)で経験します。

このような変容を支えることを目的とするメディエーションを「変容型メディエーション」と言います。この手法は、人が成長し、変化していく過程を支えるというものです。そのゴールは、「当事者の能力を引き出し、相手方を認めること」です。成功したかどうかの基準は以下の2点になります。

① 当事者はメディエーターから成長する機会を与えられたか
② 当事者は相手を認め、相手方から認められたか

対して、問題解決型のメディエーションのゴールは、「紛争解決の合意」にあります。

メディエーターの役割も、変容型と問題解決型では異なります。変容型では「当事者こそ、自らの紛争を解決できる紛争解決の専門家であり、メディエーターはそれを支える二次的な役割を受け持つ」と考えられています。しかし問題解決型では「メディエーターは紛争解決のプロセスを管理する、紛争解決の専門家である」と考えます。

メディエーターは問題のタイプを見極め、問題解決型と変容型を上手に使い分ける必要があるのです。

稲葉 一人(いなば かずと)氏

中京大学法科大学院教授。東京・大阪地裁判事、法務省検事などを経て、現在本務のロースクールのほか、久留米大学医学部、熊本大学大学院などで教壇に立つ。また、日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会委員・専門委員会委員を務めている。米国に留学し、ADR(裁判外紛争解決)を研究し、メディエーションの教育者・実践者である。JICAを通じた海外の裁判所における調停制度構築のプロジェクトを進め、2012年10月にモンゴル国最高裁から「最高功労勲章」を授与された。

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