電話応対でCS向上コラム

第8回 健康診断の受診とメディエーション

第三者が当事者同士の話し合いを促し、トラブルを解決に導くメディエーション(調停)。前回は、裁判とメディエーションの違い、それぞれのメリットとデメリットについてお話しをしました。今回は、裁判とは違い、白黒をつけるのではなく、対話によって解決を図るメディエーションのメリットを、具体的に事例を絡めてお話しします。トラブル収拾の極意を学び、当事者同士の相互理解を促すコミュニケーションの基本を身に付けましょう。

メディエーションで円満解決を目指す

企業内のトラブルは多種多様です。
白黒をつける法律的な解決法もありますが、メディエーションを使うことで、双方にとって気持ち良く問題を解決できるケースも多くあります。

例えば、企業の定期健康診断。健康診断ではX線の検査がありますが、放射線を使う検査ということで、これを拒否する社員がいました。保健師はこの社員に健康診断を受けるよう促しますが、社員は断固として拒否。

放射線の影響を気にする社員と、社員の健康を守りたい保健師、どちらの言い分も正しいように思えます。
こういったケースの場合には、白黒をつけるよりも相互理解を促すことの方が重要です。

話し合いのスタートは、双方とも、いかに自分の言い分が正しいかを法律的な見地から訴えるかもしれません。しかしあくまで大切なのは、相互理解を深めることです。そんな時はメディエーターが第三者として「お二人は、この問題を法律の問題として解決したいのでしょうか?」と尋ねることから始めましょう。おそらく双方とも、裁判は望むところではないはずです。もしそうであれば、「お二人のお気持ちも含めてお話しいただいて、もう少し深い部分をしっかりと相手に伝えてみてください。そして私は、お二人のその対話を全力で支えていく役割を担おうと思います」とはっきりと宣言しましょう。

対話することで共通の思いが見つかる

メディエーターは、まず健康診断を拒否している社員の思いを聞いてみるでしょう。すると社員は「高い線量の放射線を被爆すると、白血病の発生率が増加する」という調査を耳にし、不安になっていたことが分かります。しかし現在の科学では、通常の放射線診断で白血病が誘発される可能性はほとんどありません。しかし、ここでも大切なのは、科学的な根拠うんぬんではなく、お互いの思いを理解することです。保健師からすれば、例外を認めることでさらなる事例が出てくるかもしれない、という不安もあるでしょう。そのためにお互いが歩み寄れないこともあります。

ですが、話し合いを進める内に、実は双方の向いている方向は同じであることに気づくでしょう。二人とも、会社とそこで働く従業員の健康を考えている、という点で共通しています。つまり二人は問題解決のためのスタート地点を共有しているのです。この共通点を理解するために、メディエーターが「聴き」これを相手が「聴き」、これを相互に繰り返すことです。従業員がまず自分の健康に関心を持っていかないと、会社としても従業員全員の健康を管理することはできません。また、会社が従業員の健康に無関心では、従業員の健康は管理できません。そこに気がつくことができれば、ゴールはもう目の前です。

まずは、会社のルールに則って考えてみる。かかりつけの医師からの書面の提出など、正当かつ正式な手続きを踏むことで、社員にとっても保健師にとっても望ましい解決法があるかもしれません。

裁判で白黒をつけ、どちらか一方だけが勝者になることが必要な場合もあります。ですが、企業内で起こるトラブルの多くは、もっと穏便にもっと円満に解決できる場合があることも知っておきましょう。

※メディエーションは、「もしもし検定」のカリキュラムに導入されています。

稲葉 一人(いなば かずと)氏

中京大学法科大学院教授。東京・大阪地裁判事、法務省検事などを経て、現在本務のロースクールのほか、久留米大学医学部、熊本大学大学院などで教壇に立つ。また、日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会委員・専門委員会委員を務めている。米国に留学し、ADR(裁判外紛争解決)を研究し、メディエーションの教育者・実践者である。JICAを通じた海外の裁判所における調停制度構築のプロジェクトを進め、2012年10月にモンゴル国最高裁から「最高功労勲章」を授与された。

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