電話応対でCS向上コラム
第6回 関わったすべての人を調停は成長させる第三者が当事者同士の話し合いを促し、トラブルを解決に導くメディエーション(調停)。前回は、調停でのメディエーター(調停人)の役割は、第三者として場を見守ることであることと、その重要性についてお話ししました。今回は、第三者として調停で中立的な立場を取ることで、どういった効果があるのかについてお話しします。トラブル収拾の極意を学び、当事者同士の相互理解を促すコミュニケーションの基本を身に付けましょう。
簡単なようで難しい「聴くに徹する」こと
メディエーターとしてあなたを頼った申立人がいたとします。あなたはきっと「申立人の力になりたい」と思い、そのお願いを了承するでしょう。しかしあなたはやがて気づくはずです。「権限や専門的な知識がある訳ではない自分に何ができるのだろう」と。
仮に、立場が強い人であれば、双方を説得したり、指示をすることで問題を解決に導ける、という考え方もあるかもしれませんが、これは間違えです。頼る当事者に対して、調停人はむしろ、無力な存在である方が望ましいです。なぜなら、無力だからこそ、できることがあるからです。それが「聴くに徹すること」です。聴くことは一見、簡単なようですが、なかなか難しいことです。例えば飛行機は、離陸のために助走が必要で す。大きな飛行機ともなると、2,000メートル以上の助走距離を要します。これと同じことが、調停で も言えます。もし調停の場でお互い が沈黙し、話し合いが停滞したとしても、それは問題解決のために必要な時間なのです。この助走の時間を大事にすることが、より上手に飛べる必要条件になってきます。
ですから、もし調停の場で沈黙が訪れても、臆することはありません。それは必要な時間なのですから。メディエーターからは、促すことも、追い詰めるようなことも決してせず、ただ、口を開いてくれるのを待ちましょう。そうすればきっと、やがて申立人は気づくはずです。「答えはメディエーターではなく、自分の中にある」ということに。
人が変わるためには、自分で気づくことが必要
会社内で起きた問題には、相手だ けではなく、その背後に同僚や会社の存在があります。それは調停の場において、多くの場合、現実の大きな壁となります。しかし、その壁を動かすことは非常に困難です。そうなると、最終的には場所でも他者でもなく、自分が変わる他ないことに 申立人は気づきます。その変化する気持ちの中で、調停人は否定も肯定もせず、ただ聴くことで、支えるのです。何を言っても非難することなく、かといって、ほめることもしない。ただ、一緒にいること、それが支えとなり、結果的に気持ちの変化や整理を促すことになります。
個別紛争に、第三者が全面的に介入することは非常に困難です。もし 第三者が解決案を示したとしても、双方を説得することは難しいですし、一見収束したように見えても根深い不満を抱えることになるケースが多くあるからです。
これは自分に置き換えてみても良いかもしれません。人から説得や、説教、指示をされて自分が変われた経験がある方、というのは少ないのではないでしょうか。第三者の指摘からではなく、自分で至らなさに気づいた瞬間、人は変われるのではないでしょうか。そしてそのきっかけは、相手としっかり向き合うことから生まれます。調停人はその、お手伝いをするだけなのです。
調停を重ねることで、人は成長します。それは当事者同士だけではなく、調停人も、です。最初は不慣れでも、徐々に慣れていけば、当事者双方から信頼される存在となり、最終的には調停人が、調停を成功させる大きな要因となるでしょう。
※メディエーションは、「もしもし検定」のカリキュラムに導入されています。
稲葉 一人(いなば かずと)氏
中京大学法科大学院教授。東京・大阪地裁判事、法務省検事などを経て、現在本務のロースクールのほか、久留米大学医学部、熊本大学大学院などで教壇に立つ。また、日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会委員・専門委員会委員を務めている。米国に留学し、ADR(裁判外紛争解決)を研究し、メディエーションの教育者・実践者である。JICAを通じた海外の裁判所における調停制度構築のプロジェクトを進め、2012年10月にモンゴル国最高裁から「最高功労勲章」を授与された。
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