電話応対でCS向上コラム
第4回 話し合いが上手くいく環境を整える第三者が当事者同士の話し合いを促し、トラブルを解決に導くメディエーション(調停)。前回はメディエーター(第三者)として、テーブルについてもらうことの難しさと、それを実現するための工夫についてお話ししました。今回はメディエーションを行うのにふさわしい環境作りについてお話しします。トラブル収拾の極意を学び、当事者同士の相互理解を促すコミュニケーションの基本を身に付けましょう。
言葉を発する前から話し合いは始まっている
実は、メディエーションは対話をする前から始まっています。
言語のコミュニケーションというのは、「交互で一方的、かつ意図的」なのに対して、ボディランゲージは、「同時に双方向、かつ無意識的」なものです。ある専門家は「人と人とのコミュニケーションは多くの回路を媒介とする複雑なプロセスである。言語がいかに重要であろうとも、その回路の1つに過ぎない」と言います。
つまり、人は、言葉を発する以前に、たいてい視線やしぐさのやりとりによる相互の認知があり、会話はその後から始まるものなのです。調停の場では、当事者同士には色々な思いがあり、挨拶すらまともにできない場合があります。そんな時には、メディエーションを始める前に、まず第三者であるメディエーターの挨拶から始めるといいでしょう。そこで公平に「お疲れさまです」と挨拶をし「お忙しい中、対話の場においでいただいてありがとうございます」と声を掛けて、場を和ませましょう。当事者同士は調停という対話の場が真剣勝負になると考え、緊張しているものです。まずはその緊張を解くこ
とで、調停のリズムを作るのが、必須のプロセスです。
場所の設定が話し合いを左右する
知らない人が、ある一定の距離に入ってきて、耐えられなくなって逃げ出したくなった、という経験はありませんか。人は空間――パーソナルスペース(個人空間)――を必要とする生き物であると言われます。
メディエーションにおいても、この空間や距離はとても大事な要素です。心理学上、位置関係について、正面は、対立的な関係にある場合に選択されやすく、斜め向かいはリラックスした話し合いの際に選択される割合が高いとされています。距離についても、会話をするのに適した距離感は50 センチ~150 センチほどと定義されていますので、そのふたつを最低でも考慮した場所選びをする必要があります。
また、当事者のどちらかにとってホームになるような場所選びも避けるべきです。公平な話し合いを実現するためには、どちらにとってもアウェーの場所、非日常的な場所を選ぶことで、お互いの気持ちが刷新され、初めて普段の力関係から離れた対話が実現します。特に社内でのトラブルの場合、会社というのは上下の権力関係が色濃く出るところですし、会社内(部屋)の場所は、その関係を象徴するものですので、対話の場としては避けた方が良い、あるいはその場所を選ばざるを得ない場合にも、相応の配慮(どちらを高い位置に座らせるかどうか等)が必要でしょう。裁判官が法廷という、窓もなく、当事者よりも高い位置にいるだけでその権威を示すことができるのも、空間の影響だとわたしは考えています。それくらい空間は人の心に影響を与えるものなのです。
いざ調停が始まった際には、自分の視線に注意しましょう。話し合いの最初には、調停人に対し思いを訴える形で対話が進むケースがあります。対立する当事者同士が相手を見て話し合うことは簡単ではありません。ですが、調停人は違いますよね。しっかりと当事者の目を見て、話しを聞きましょう。
※メディエーションは、「もしもし検定」のカリキュラムに導入されています。
稲葉 一人(いなば かずと)氏
中京大学法科大学院教授。東京・大阪地裁判事、法務省検事などを経て、現在本務のロースクールのほか、久留米大学医学部、熊本大学大学院などで教壇に立つ。また、日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会委員・専門委員会委員を務めている。米国に留学し、ADR(裁判外紛争解決)を研究し、メディエーションの教育者・実践者である。JICAを通じた海外の裁判所における調停制度構築のプロジェクトを進め、2012年10月にモンゴル国最高裁から「最高功労勲章」を授与された。
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