電話応対でCS向上コラム

第3回 依頼は率直に具体的に

記事ID:C10055

アサーティブな伝え方は、相手を尊重しながらも、こちらの要望を具体的、かつ率直に言葉にしていきます。相手に察してもらうことを前提とせず、自分が伝えたいことを具体的にストレートに伝えるほうが、誤解を避けることができるからです。

曖昧な依頼では伝わらない

 自分の要望を、はっきりと相手に伝えることはできているでしょうか。
 「もっと相手の立場になって考えてほしい」とか「状況を見て動いてほしい」など、曖昧な伝え方になっていないでしょうか。
 同僚と毎日顔を合わせて、先輩や後輩と気軽に相談ができる環境にいれば、たとえ要望が曖昧であっても、相手は「察して」くれます。「相手の立場になって考える」とはどういうことか、「状況を見て動く」とは具体的にどうすることなのかも、見たり話したりする中で理解することができます。
 ところが、リモートワークで文字コミュニケーションが主となり、相手の状況が見えない、文脈や背景を共有できなくなる中で、相手が言わんとすることを「正しく察する」ことは、とても難しくなってきたように思います。少し前までは、「察する力」は重要な対話の能力でしたが、今はむしろ発信する側の「伝える力」が問われるようになっています。つまり「言えば分かる」ではなく「分かるように伝え」なければ相手に届かない。それを前提として、対話を始める必要があるのです。

頼み方にはコツがある

 例えば、仕事が大変で手伝ってほしいという場合を考えてみましょう。攻撃的であれば「どうしてこれくらいやってくれないの」という物言いになるでしょう。受身的になると、「自分がやるしかない」と自分の要望を引っ込めます。作為的であれば、わざと忙しそうにして、不満の気持ちだけを表現するかもしれません。いずれにせよ、業務を適切に進めて人間関係を良好にするには、逆効果になりそうです。
 率直に対等に、アサーティブに頼むためには、どうしたらいいのでしょうか。

頼む時には3点に整理する

 アサーティブに自分の要望を伝えるためには、次の3点に整理して具体的に伝えてみると伝わりやすくなります。
①今の状況と問題について客観的に伝える
 「仕事が忙しくて…」という説明では、こちらの状況は伝わりません。仕事の忙しさは皆同じですので、自分の抱えている状況については具体的に伝える必要があります。
 「実は今週、面談が3件と会議が2つ、研修生の受け入れに加えて金曜日に研修、というように業務が重なっており、研修の準備をする時間が全くない状態です」今自分が抱えている業務に関して、具体的な状況を客観的に、端的に伝えます。
②自分の感情を言葉にする
 次に、自分の気持ちを言葉にします。自分は今どのように感じているのかを、シンプルに言語化するのです。
 「研修準備の時間が全く取れず、正直悩んでいます」
 「面談の質が低下するのではないかと、心配しています」
 このような自分の感情を表す言葉は、こちらの懸念を適切に伝えるもので、感情的になることとは異なります。落ち着いて言語化することで、相手にストレートに届きやすくなります 
③的を絞って要望を率直に伝える
 その上で、お願いしたいことを素直に伝えます。「相手が行動できる現実的な要求」になるようにしてください。「全部やってください」などとできないことを求めても、相手は引き受けることができません。
 「今週私が担当している面談3件のうち、先輩もご存じのXさんとYさんの2件のフォローアップ面談をお願いできないでしょうか」
 必要であれば代替案も加えます。
 「来週になれば私も一息つけるので、その後のまとめの資料作成は私が引き取ります」
 下手したてに出るのではなく率直に、誠実に、自分のお願いしたいことを口にしてみましょう。「あなたがやるべきだ」でもなく、「すみません、すみません」と恐縮しすぎることもなく依頼してみると、思った以上に相手にさわやかに伝わっていくはずです。アサーティブなコミュニケーションの第一歩は、このように自分の主張を明確にすることから始まります。

森田 汐生氏

NPO 法人アサーティブジャパン代表理事。一橋大学社会学部卒業後、イギリスの社会福祉法人でソーシャルワーカーとして勤務。その間、イギリスでのアサーティブの第一人者、アン・ディクソン氏のもとでアサーティブ・トレーナーの資格を取得。主な著書に『「あなたらしく伝える」技術』(産業能率大学出版部)、『なぜ、身近な関係ほどこじれやすいのか』(青春出版社)など多数。

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