企業ICT導入事例

-丸文株式会社-
“できること”から始めたペーパーレス化で組織のガバナンスを向上、コスト削減も達成

エレクトロニクス商社の丸文株式会社は、内部統制強化及び業務効率化を目的として証憑書類※1のペーパーレス化を企画。2017年度に財務経理部のペーパーレス化を達成し、さらに営業部など他部門にもその適用が広がっています。

【導入の狙い】監査で求められる証憑書類を電子化することで、検索性を高め、内部統制強化及び生産性向上を目指す。
【導入の効果】証憑書類の検索性が向上、書類保管スペース縮小に伴うコスト削減。

「総論賛成、各論反対」で挫折を繰り返したペーパーレス化実現論

  • ▲ICT統轄本部 情報企画・インフラ推進部
    担当課長 仲山 晶子氏

    丸文株式会社は、江戸時代に創業した呉服問屋をルーツとし、現在は電子部品、マイクロプロセッサ、情報通信機器、医用機器などを取り扱うエレクトロニクス商社です。

    「弊社は、創業当時から変わらぬ経営哲学である『先見』と『先取』の精神で、日用雑貨、電子機器など、時代に応じた商品を取り扱いつつ成長してきました。現在の事業分野は、皆さんがお使いのスマートフォン内部にある細かな半導体部品から、宇宙開発用ロケットのパーツ、産業用機器まで多岐にわたっています」(仲山氏)

▲財務経理部 業務課 係長 塩田 寿惠氏

このように最先端の商材を扱う同社ですが、社内に目を向けると旧態依然とした業務、特に“紙”に纏わる手順が残り、業務効率化や内部統制強化といった観点で、改善テーマが山積みでした。

国税関係帳簿は、2004年に14帳簿の電子保存を実施していましたが、証憑のスキャナ保存については、e-文書法※2の適用範囲が限定的であり、電子化するメリットがありませんでした。

各部門内で、自発的にITを使った業務改善を行う社風もあり、ペーパーレス化の試みについては、これまで何度も行われてきました。しかしながら、『ペーパーレス化でコスト削減』という全社横断的で改善効果のあるテーマには賛成が集まるのですが、『どこからどうやって』という具体論になると各部門で温度差があり、消極的な反応が多くなり、実現できないままでいたのです」(塩田氏)

スキャナ保存の要件緩和により証憑の電子化が実現

2015年、e-文書法のスキャナ保存要件が緩和されたことを契機として、ペーパーレス化実現に向けて大きく動き出します。

「請求書や領収書といった証憑のペーパーレス化が容易になり、まずは財務経理部を対象にプロジェクトを発足させました」(仲山氏)

「財務経理部は、交通費や国内出張精算などの立替経費については、2011年にワークフローシステムを導入済みでした。しかし、税法上保管義務のある証憑は、台紙に糊付けして保管していました(年間約28,000枚)。売買取引についても、電子化されていない取引先については、経費と同様紙で受領した証憑を、取引先/発生年月など仕分けのルールを作って保管していました(年間約70,000枚)。そうした書類保管の手間やスペースの削減、監査時の検索性向上もさることながら、証憑を電子化することにより、各部門管理による証憑の紛失や取引で発生し得る内部統制面でのリスク排除が可能になると考え、ICT部門と協力してプロジェクトをスタートさせたのです」(塩田氏)

こうした現場の意向を受け、同社はペーパーレス化のプロジェクトを開始します。しかし、それは全面的な移行を一気に目指すものではありませんでした。

「まず“小さなこと”からスタートしました。最終的に全社に展開するとしても、まず成功事例を作り、その経験と効果を十分に周知することが重要だと考えたからです」(仲山氏)

現在の業務フローを尊重しつつ、綿密なRFP(提案依頼書)を作成

具体的なペーパーレス化にあたって、どのような機器を導入すべきかについては、まずRFPを作成し、合計3社から提案を受けたと言います。

「業務フローをきちんと整理し、どの部分をペーパーレス化するか、既存システムとの連携も含め、スキャナ保存することによる業務負荷を、システムでどこまで解消できるかをMUST/WANT要件を切り分け、RFPを作成しました」(塩田氏)

「ペーパーレス化は業務改善の手段であり、ペーパーレスそのものが目的ではないということを重視しました。何もかもと欲張らず、できるだけ現在の業務フローに影響を与えない範囲で、かつ求める結果が出せることが目標でした。また、紙文書の電子化にあたって必ず発生するスキャン作業及び検索条件付与作業の負担を、どう軽減できるかもポイントでした。このような視点から判断し、最終的にリコージャパン株式会社の提案を採用することになりました」(仲山氏)

こうして財務経理部中心で始まった証憑書類の電子化は、その後、営業部門で保管している注文書の電子化へと適用範囲を広げていくこととなります。

「多くの証憑書類が電子化されたことで、検索性は大きく向上しました。監査などへの対応もスムーズになり、かつ探すという作業からスタッフが開放されたことも大きな効果です。『依頼した書類がすぐ出てくる』と、他部門からの評価も上がりました」(塩田氏)

「この成功で、ペーパーレス化を社内全体に広げていく地ならしができたと思いました」(仲山氏)

▲電子化のために証憑書類をスキャナで読み込んでいる様子

“しっかりとした動機”こそがペーパーレス化成功の鍵

現在、同社のペーパーレス化は、さらに営業部門にも利用が拡大しています。両氏は、ペーパーレス化が順調に進んだ要因を、あらためて以下のように振り返ります。

「まず『コストありき』ではなかったことでしょう。『ガバナンス上の危機を解決する』という目に見える強い動機があったからこそ、わずかな時間でペーパーレス化が達成できました。最終的には外部委託している倉庫の削減、社内スペースの有効活用などコスト削減につながっていますが、それは結果論であり、コストだけが目標であれば、途中で頓挫した可能性は高かったと思います」(仲山氏)

「業務フローを洗い出し、しっかりとしたRFPを作成したことで、ペーパーレス化工程の9割は終わっていたと思います。逆にここが不十分だったら、導入過程で何度もやり直し、見直しを迫られたことでしょう。さらに社内のICT部門との打ち合わせで、どんなデータを基幹システムから呼び出せるかを検討し、スキャン作業時の追加手入力を不要としたことも、導入時に課題となる作業者のストレス、負担軽減を考える上で大きなポイントだったと思います」(塩田氏)

同社は今後、申請書などの電子保存も予定しています。小さなことから着実にペーパーレス化を進めてきた同社の戦略は、多くの企業にとって参考になるのではないでしょうか。

※1 証憑書類:税務上必要となる、取引の証拠となる書類。領収書や請求書など。
※2 e-文書法:2004年(平成16年)制定、翌2005年に施行された、法人税法や商法、証券取引法などで紙による原本保存が義務づけられている文書や帳票の電子保存を容認する法律。別名「電子文書法」。

会社名 丸文株式会社
創業 1844年(弘化元年)※設立:1947年(昭和22年)7月
本社所在地 東京都中央区日本橋大伝馬町8-1
代表者 水野 象司
事業内容 エレクトロニクス商社(先端エレクトロニクス分野のソリューション提供、電子部品、産業用・研究開発用機器、医用機器などの提供及びテクニカルサポート)。
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