企業ICT導入事例

-そうえん農場-
新潟の米作農家が次代を見据えて生産から販売までICTを活用

就農人口の減少が進む過疎地にあって、稲作の受託耕作地を増やし、イチゴや枝豆などの生産では特色ある品種を商品化しているそうえん農場。通信販売でも全国に顧客を増やしています。成功のカギは、圃場(ほじょう)(田畑・菜園)管理システムの活用など積極的なICT活用にありました。

【導入の狙い】:稲作の圃場管理を「記憶」から「記録」に替えて作業記録を共有
【導入の効果】:収穫が質・量ともに安定し、耕作面積も拡大。事業化に成功

圃場管理に役立つシステムをICTのプロとともに開発

▲代表・下條 荘市氏

新潟県新発田市北部で農業を営む下條氏は、夫人と息子夫婦、それに従業員1人の5人でそうえん農場を運営しています。自家の水田2haと、農業を辞めた近隣の農家から委託された水田を含めた約20haを耕作するほか、イチゴと枝豆も栽培し、その多くを契約した企業やホームページを使った通信販売で流通させています。

地元JAに22年間勤めてから1997年に42歳で脱サラし、専業農家になった下條氏。当初は、それまで手伝い程度で関わっていた稲作の難しさを痛感しました。

「同じ地域にある田んぼでも、生育具合にばらつきが出ます。そのデータを基に翌年の施肥量を調節するのですが、手書きのノートと記憶に頼る方式だったため、手間もかかる割に正確さに欠けるので大変でした。さらに、近隣の農家が離農することになって引き受けた耕作地が増えるにつれて管理上の難しさが増しました。例えば、どこの圃場にいつ施肥したかなどの情報が分かりづらくなりました」(下條氏)

この課題が解決に向かった転機は、下條氏が2008年に、にいがた産業創造機構(略称NICO)の担当者と出会ったことでした。「圃場管理に役立つ技術はないだろうか?」と相談した結果、システム開発のコンサルタントを紹介され、一緒に、圃場管理専用ソフト「アグリノート」の開発に関わることになったのです。

作業も効率化し、収量・質も安定。耕作地を広げる自信も生まれた

▲作業所には、乾燥機、籾摺り機、フォークリフトなどがあり、春の育苗播種から刈取り後の乾燥調整まで、ここで行います

ICTに興味はあったものの詳しいわけではなかった下條氏ですが、困っている現状から「どんな機能がほしいのか」を、ICTのプロに明確に示すことができました。まず圃場の位置が地図から見つけられること、作業内容がメニュー化できること、作業内容及び要した人数や時間も記録できることなど、普段の作業で考えていた「こんなシステムがほしい」という要件定義が的確だったのです。試作版を5軒ほどのモニター農家にも使ってもらい、2年間かけてその意見も取り入れて改良した結果、Googleマップを使い、クラウド経由でスマートフォンやタブレット端末でも使える現行の「アグリノート」が完成したのです(現在、同製品の開発・販売はウォーターセル社。http://www.agri-note.jp/)。

「圃場管理記録を見ながら、皆で対応を考えられるようになり、作業が効率化しました。収量も品質も安定し、自信を持って受託耕作地を広げられるようになりました。現状のマンパワーでも、40haまでは引き受けられると思っています。将来、このシステムに衛星画像解析情報が組み込めれば、生育状況が確認でき施肥のタイミングが分かるし、GPSやドローン(無人飛行機)を使って肥料の自動散布も可能になるはずです。圃場管理のICT活用には、まだたくさんの可能性があります」(下條氏)

ホームページを使った通信販売ではイチゴや枝豆もすぐに売り切れる人気

下條氏は、農家が家業から経営的に自立できる事業になるには、生産(1次産業)だけでなく加工(2次産業)、販売(3次産業)も手掛ける「6次産業」を目指すべきとの信念を持っています。現在、同農場ではホームページやFacebook、ブログなどを活用して、生産物の情報や自分たちの日々の活動を広く伝えており、全国にファンが広がっています。目玉商品はブランド米のコシヒカリと、イチゴ、枝豆で、それぞれに特色があります。

「農閑期の副業で始めたイチゴは、2006年に突然変異で白い実をつける株ができました。新潟県の園芸研究センターに調べてもらうと、もとになった『越後姫』とは異種とのことで、『えちご美人』と名づけて株を増やすことにしました。赤い『越後姫』と組み合わせると紅白そろって、ギフトなどに最適だと喜ばれています。また枝豆は、この地域で昔から作られてきた晩生品種で、とても香りが良いのです。これも県の農業普及指導センターに相談したら『ぜひ商品化すべき』と言われ、『大峰かおり』と名づけました。40aで栽培していますが、全国からの注文ですぐに売り切れ、生産が間に合わないほどの人気です」(下條氏)

田んぼや畑には“宝物”が一杯あるICT活用とIoTで農業が変わる

▲インターネット通販でも人気のえちご美人(左)&越後姫(中央)。また大峰かおり(右下)から生まれたジェラートも販売中です

ここまでの紹介からうかがえるように、下條氏はアイデアと行動力と豊富な人脈を持っています。そして、自立した農業経営のためにはICTが重要な道具になると考えています。

「何をしたいかが明確になっていれば、どんな技術が必要か見えてきます。必要な知識と技術を持った人と仲間になって、一緒にカタチにすれば良いと思います」(下條氏)

そう語る下條氏が「例えば、これ」と見せてくれたのが、「水田センサー」です。圃場に差し込んで、水位、水温、気温、湿度などを計測してデータを送信するもので、前年までバッテリー式だったものを、メーカーと一緒にソーラー式に改良したとのこと。

「この『水田センサー』はIoT※ですね。これからの農業は、いやが応でもICT活用とIoT化に向かうと思います。それによって、やるべきことやできることはたくさんあります。田んぼや畑には作業効率や収益を向上できる可能性、つまり“宝物”が一杯落ちている。農業は奥が深いものです。悲観せずに、面白がって取り組む人が増えてくれれば、日本の農業は変わります」(下條氏)

下條氏の実践は、厳しい環境に置かれている1次産業と思われている農業が、アイデアと行動力そしてICTの活用で、大きな事業になり得ることを証明しています。下條氏の実践とメッセージは、後に続く人を力づけてくれるものです。

※IoT:Internet of Thingsの略。さまざまなモノや事象がセンサーなどを介してインターネットにつながる状態。そこから収集されるビッグデータを解析することで産業や社会生活に役立つ。

組織名 そうえん農場
創立 1997年(平成9年)
所在地 新潟県新発田市横岡1910-1
代表 下條 荘市
URL http://www.shimojo.tv/

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