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ICTソリューション紹介

“分身ロボット”により変貌するヒトの表現とコミュニケーション

働き方改革

公開日:2020/12/25

─どうして“分身ロボット”を作ろうかと思ったのか、そのきっかけについて教えてください。

  • 吉藤オリィ氏
    株式会社オリィ研究所代表取締役CEO。
    デジタルハリウッド大学大学院特任教授。
    ロボット研究者、実業家。
    ロボットコミュニケーター。
    2016年、Forbes 30 Under 30A siaIndustry,Manufacturing & Energy部門 選出。

     「私はもともと身体が弱かったこともあり、3年半くらい不登校を経験しました。そしてその時に味わったのが“孤独のつらさ”です。つまり『誰からも必要とされていない、どこにもいる場所がないというのが、これほどつらいのか』ということを身をもって知ったのです。そして人と会わないことが、人の能力を低下させるということも実感しました。学校に行かないことで学力が低下するのはもちろん、人と話すという基本的な能力や、例えば笑うという感情表現、さらには滑舌、日本語そのものまで忘れてしまうことが分かったのです。なぜそのようなことが起きてしまったのか。それは『社会に参加すること』ができなかったからです。そしてその時、『社会に参加することとは、その場に身体を運ぶことだ』と理解しました。そして自分のように不登校になっている状態だけでなく、たとえば身体的な制約があって外出困難な人も、同様に社会参加ができていないということにも気づきました。こうした“孤独のつらさ”を味わっている人をなんとかしたい。それが分身ロボット開発の原点です」

─その後、どういったことに取り組まれたのでしょうか。

 「中学校卒業後、私は工業高校に進み、車椅子の制作に没頭しました。その工業高校が丘の上にあったこともあり、斜面でも傾かない車椅子を作り、発表しました。これは『障がいがあって自分の身体を運べない人に、社会参加の機会を作る』という意味で、分身ロボットの原点にもなっています。高校卒業後は工業専門学校で人工知能を学びましたが、1年くらい経って違和感を覚えてきました。なぜなら人工知能を持つロボットを作っても、結局それは人がロボットに合わせ会話するだけで、孤独の解消、つまり人の社会参加につなげることは難しいと分かってきたからです。ただ、ちょうどその頃、インターネットが広く普及し、私たちは家に居ながらいろんな情報を得ることができるようになりました。私はこのインターネットに“自分の存在”を載せれば、社会参加ができるのではないかと考えるようになりました」

─「自分の存在を載せる」とは、どういったことでしょう。

高さ23cmの分身ロボット「OriHime」。
能面をモチーフにした顔、首や腕の動きで、パイロット(操作する人)がそこにいるように振る舞う

 「例えばインターネットを使いVR(バーチャル・リアリティ)で一人旅をすれば、そこで見たもの知った情報で“行った気”にはなれます。でもそれは“参加”ではありません。またどこかの会社にVRで訪問して、その社内を体験しても、そこの会社の社員から同僚として認めてもらえるわけではありません。つまり参加とは、そこの周りに実際にいる人たちの『お前、ここにいるよね』という感覚と、自分自身の『そう、自分はここにいる』という感覚が一つに揃うことなのです。つまりこの感覚を共有するために、私たちは身体を運ばなければならないのです。では、実際に身体を運べない人にこの状態を提供するにはどうしたらいいか。その答えは『“自分の分身”となるロボットを作り、そのロボット経由で他人と交流する』ということだと気づきました。これが分身ロボットの具体的な構想の第一歩になりました。そして工業高等学校卒業後に私は早稲田大学に入学し、その分身ロボットの開発に一人で試行錯誤することになります。こうして生まれたのが、マイクとスピーカーを搭載し、遠く離れた場所にいる人がインターネットを通じ他人と交流できる『OriHime(オリヒメ)』です」(図1参照)

─OriHimeの姿形に込めた想いについて教えてください。

 「始めは自分自身の顔を付けて“自分っぽい”感じにしたこともあるんですが、最終的に今の『能面をモチーフとした形』に落ち着きました。これは人工知能の研究をしていた時に得た“人間は錯覚し、想像する生き物である”というヒントからです。例えば電話する時、相手の顔は見えませんし、電話は言うなればただの機械です。でも私たちは想像力をかきたてて、電話の向こうにいる相手の笑顔を想像し、ありがとうと言いながら実際に頭を下げます。また能や人形劇では、シンプルな表情に想像力を働かせ、登場人物の気持ちを推し量ります。また本当に命が失われている日々の事件に涙することはなくても、マンガに没入し、涙を流すことがあります。そこでOriHimeは、喜怒哀楽さまざまに見える能面を参考にシンプルなデザインとし、会話する相手が実際にはインターネットの向こう側にいるパイロット(OriHimeを操作する人)の表情を想像し、本人に見えてくることを狙いました。こうして情報を“そぎ落とした”OriHimeの姿形ですが、実際にOriHimeをご利用いただくと、パイロットごとにOriHimeの動きは異なります。そして1台のOriHimeを複数人で共有している環境では、動きを見るだけで『今OriHimeを動かしているのは○○さんだよな』と分かるようにもなります」

─OriHimeは、NTT東日本とのテレワークの実証実験(図2参照)や、分身ロボットカフェの社会実験で活用されました。

 「仕事も、社会への参加の一つの手段です。しかし働く意欲はあっても、病気や障がいなど、自分自身の問題で身体を運ぶことができない人がいます。また、そうした身体的な問題はなくても、例えば育児や介護で家を離れることができないなどの“環境的な課題”で出社しての仕事ができない人も大勢いらっしゃいます。そういう人たちにどうすれば仕事を通じての社会参加を可能とすることができるのかを考えて、NTT東日本との打ち合わせを経て2016年にスタートしたのが、OriHimeのテレワーク活用です。この実験では、すでに在宅勤務制度を導入済みのNTT東日本が、在宅でのテレワーク勤務者がOriHimeのパイロットとなり、オフィスにあるOriHimeを通じ上司や同僚とコミュニケーションや、会議への参加を行っています。『分身ロボットカフェ』は、身体を動かす必要のある業務のテレワーク化を目指し、パイロットが操作するOriHimeがカフェで接客するという社会実験です。この接客のため、OriHimeを大型化し、前進後退、旋回の移動能力と、ものをつかんで運ぶ機能を持たせた『OriHime-D』を開発しました。つまり身体が動かなくなっても、仕事を通じて社会参加し、働くことできるという未来図の提案です(図3参照)。さらに2020年には、モスバーガーでOriHimeが接客する『ゆっくりレジ』という実証実験も行いました。普通ならファストフードのレジでお客さんとスタッフが必要以上の会話を楽しんだり、自己紹介し合って友だちになったりすることはありませんが、ゆっくりレジでは兵庫にいる寝たきりのマーヤさんというメンバーが看板娘となり、『パイロットとの会話目当てでお客さんがいらっしゃる』という、新たな価値を生み出すこともできました」

─OriHimeは今後どのように進化していくのでしょうか。

 「日本の社会は今、『少子高齢化が進み、これから労働力人口がどんどん減ってくるから、ロボット化、人工知能化を進めなければならない』という文脈で語られることが多くなっています。つまり人間の行っていたサービスを最適化したツールに置き換え、省力化し、人件費も減らそうという考えです。しかし私たちは逆に、むしろ人件費を増やそう、人をたくさん雇ってもらい、サービスを高め、全体として売上げを増やしていきたいと思っています。じつは少子高齢化の現在であっても、働ける人がいないのではなく、何らかの事情で家を離れられないため、働ける人でも雇用されないという現実があるからです。OriHimeを使い、そうした人が働ける環境を作ることで、先ほどのモスバーガーの『ゆっくりレジ』の例にあるように、コミュニケーションの先に新たなサービスや価値が生まれることもあります。そうした価値が、多くの人によりありがたみを持って実感してもらえる時代になってくるのではないでしょうか」

─そうしたOriHimeの活用は、人の生活をどう変えるのでしょうか。

 「人って、生きていく上で『もう少し先の自分はどうなっているだろう』というわくわく感や憧れを持っています。小学生なら『中学校に入ったらどんな人になりたい』、高校生なら『こんな高校生になりたい』、大学生なら『就職したらこんなかっこいい大人になりたい』といったものです。そしてその先に『引退したら何しよう』という憧れもあると思っているんです。ただこのとき『老後、もし寝たきりになってしまったらどうなるのか』は入っていません。身体が動かなくなって社会参加できなくなるという未来は考えたくないんです。そうした老後に対しての一つの提案が、OriHimeを使った分身ロボットカフェだったり、ゆっくりレジだと思ってます。たとえ会社というポジションがなくなっても、寝たきりになっても、『働く』という社会参加を通じ、生きる理由を見つけ、生きる喜びを感じることができるのです。そして私はこのように、“人を活かす技術”ではなく“人が生きる技術”をどのように考え、そこにフォーカスできる社会をつくらなければならないは考えています。そのためのテクノロジーを、今後も作り続けていくでしょう」

─将来におけるコミュニケーション像についてのお考えをお聞かせください。

 「同じOriHimeを複数のパイロットが使う場合、その動きで『誰が操作しているか』が分かるということは、先ほどお話ししました。その一方で、実はOriHimeを使うことで、パイロット本人とまったく異なる個性が出てくることもあるんです。例えば引っ込み思案の人でも、匿名のインターネットであれば勇ましいことをどんどん言うとか、普段はおとなしい人なのに、クルマに乗ってハンドルを握るといきなり荒っぽい性格に変わるとか、そういったものでしょうか。人間って、ある部分、それぞれが持つ外見に期待される人格を演じるようなところがあります。年齢よりも年上に見えるから大人っぽい振る舞いをする、可愛らしく見える女の子だから可愛く振る舞う、みたいな感じで。こうして話している私たちだって、ピカチューの着ぐるみを着たらピカチューらしい動きをするでしょう。つまり、その人の振る舞いが、本当にその人の真のキャラクターではない場合があるのです。しかしOriHimeをアバター(自分の分身)として使えば、そうした外見や年齢、さらには性別も関係なく“なりたい自分”になって、コミュニケーションできます。そして現在は、誰にでもできる分野にAIがどんどん入ってきて、逆に人間の強みが『個性そのもの』になってきています。つまり自分自身がどう人と違うか、そしてその自分をどう表現していくかが大事になるでしょう。OriHimeを使い、こうした生身の人間、外見や年齢、性別と切り離した本人そのものの人格、本人がそうありたいと思った人格同士が深く交わり、新たなコミュニケーションの世界を作っていく(図4参照)。そうした時代が近づいてくるのではないでしょうか」

※1 IEEE802.11n/g/b:Wi-Fiの規格のこと。これらの通信規格は、使用する周波数帯や通信速度などで分類されている。中でも「11n」は現在のメイン規格となっており、多くの対応製品が発売されている。

※2 GigabitEthernet(ギガビットイーサネット):通信速度が1Gbps(=1000Mbps)のイーサネット規格の総称。一般的にイーサネットという時は、ほぼLANケーブルのことを指している。

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