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-内閣府 宇宙開発戦略推進事務局-
日本版GPS「みちびき」から広がる新しいビジネスの可能性

記事ID:D10041

提供:内閣府 宇宙開発戦略推進事務局

スマホの地図アプリや車のカーナビは、測位衛星と言われる人工衛星が発信する電波を受信することで、位置を測定します。衛星測位システムとしてよく知られているのが米国のGPS(Global Positioning System:全地球測位システム)ですが、日本にも「みちびき」という衛星測位システムがあります。今回は、「みちびき」の開発・運用を行っている内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室の齊田さいだ 優一ゆういち氏と和田わだ 弘人こうじん氏に、「みちびき」によって広がるビジネスの可能性について話をうかがいました。

高精度の位置情報を提供できる「みちびき」

内閣府 宇宙開発戦略推進事務局準天頂衛星システム戦略室技術参与 齊田 優一氏(右)企画官 和田 弘人氏(左)

 「みちびき」は日本の衛星測位システムであり、衛星がほぼ日本の上空(天頂)に滞在していることから準天頂衛星システムと呼ばれ、2018年からサービスを開始しています。「みちびき」が果たす役割について、齊田氏は次のように解説します。

 「『みちびき』を一言で表すと、日本版GPSとなります。米国が運用するGPSは約30機の測位衛星で地球の上空をカバーしており、衛星からの測位信号(電波)により現在の位置を計測し、軍事、防災、測量、土木・建設など、さまざまな分野で活用されています。このような位置情報は、最も基本的かつ重要なインフラであるため、各国ともできれば他国に頼りたくないという思いがあります。そのため欧州やロシア、中国、インドも自国の衛星を打ち上げており、日本も『みちびき』で現在4機の衛星を運用しています」(齊田氏)

 それに加えて、日本には山や建物が多く、山間部や都市部では樹木やビルに電波が遮られ、GPSだけでは安定したサービスが受けられないという課題がありました。そのためGPSを補い、どこでも安定したサービスが受けられるようにするため、日本の上空に測位衛星を滞在させる必要がありました。
 「みちびき」はこういった課題を解決し、大きく三つのサービスを提供しています。一つ目はGPSと互換性のある測位信号を送信する「衛星測位サービス」です。GPSの電波が届きにくいところを補完できるため、安定した測位を可能にします。二つ目は日本が世界に先駆けて提供している「測位補強サービス」です。

 「GPSの測位精度は5~10mぐらいで、おおよその場所を知るには問題ないですが、 より緻密な位置情報が必要な産業用においては誤差が問題になるケースが多く見られます。その問題を解決するために、CLAS(シーラス:センチメータ級測位補強サービス)という4~5cmの高精度と、SLAS(エスラス:サブメータ級測位補強サービス)という1m弱の精度を実現する補強情報を配信しています」(齊田氏)

 CLASとSLASは受信機など機材の大きさや価格に差があり、CLASは受信機やアンテナが名刺サイズ、SLASは腕時計に搭載できるくらい小型化が可能です。それぞれ誤差の許容範囲で使用シーンが分かれ、CLASはより精度の高い測位情報が必要な自動車や農機、建機、ドローンなどの自動運転、SLASはそれよりも誤差の許容範囲が広いドライブレコーダーやスマートウォッチ、ゴルフウォッチなどで使用されています。
 三つ目のサービスは、緊急時や災害時に情報を伝えたり、避難所の救援や安否確認に役立つ「メッセージサービス」です。今後はLアラート情報(避難指示など)やJアラート情報(ミサイル発射情報など)も配信する予定です。

「みちびき」は4機体制から7機体制そして11機体制へ

図 1:「みちびき」の8の字軌道

 現在「みちびき」は4機の測位衛星が、日本上空から測位信号を降らせています。4機のうち1機は静止衛星で、3機は8の字状に日本上空を飛来(図1参照)しています。測位には4機以上の測位衛星が必要ですが、4機のうち1機は常に日本上空から離れているため、他国の衛星が必要です(図2参照)。

 「『みちびき』だけでの測位を実現するためにも、7機体制を目指して準備を進めています。2025年度までに順次3機を打ち上げ、2026年度からサービスを開始できるように考えており、将来的には11機体制を目指しています」(和田氏)

 さらに、2024年度からは測位信号のセキュリティを強化する新サービス「信号認証サービス」を開始する予定です。

 「測位衛星からの民間用の信号はすべてオープンになっているため、悪意を持った者が同じ電波を出して、なりすますことが可能です。そこで電波に電子署名を入れ、受信機側に公開鍵を設定するサービスを開始します」(齊田氏)

図 2:「みちびき」は4機体制から7機体制へ

マッチングイベントに参加 コミュニティ活動も実施

 準天頂衛星システム戦略室では、サービス開始以来、毎年「みちびき」を利用した実証事業に取り組む企業や高専・大学などを募集し、その活動の支援を行っています。

 「位置情報はさまざまな産業に関わっていますので、土木・建設、船舶、ドローン、農業、福祉など分野を問わず、幅広い実証事業を支援してきました。ただし衛星を使う都合上、オープンスカイと呼んでいる周囲に建物などがない開けた空間で行うほうが精度が安定し、事業化もしやすいのです。応募される企業は中小企業、中でもスタートアップ企業※2が多いという傾向があります」(齊田氏)

ILSで紹介された「みちびき」関連の展示ブース

 2022年度からは国内や海外の有望なベンチャービジネス事業者や投資家が注目するアジア最大規模のオープンイノベーションイベント「ILS(イノベーションリーダーズサミット)」に参加し、これまでの実証事業や日々の利用拡大活動で出会った企業同士のマッチングなどを行っています。2023年12月に開催された第11回ILSでピッチ(短時間のプレゼンテーション)を行った和田氏は、イベントの印象を次のように振り返ります。

 「内閣府として『みちびきスタートアップピッチ』を開催し、実際に『みちびき』を活用したビジネスを展開している5社の方にもピッチをお願いしました。1社15分ほどのピッチが終わると、その企業のブース前に名刺交換を行う列が作られ、会場のあちこちで商談が繰り広げられていて、参加者の関心の高さが感じられました」(和田氏)

 さらに、みちびきを活用したサービスのアイディアを検討する場として、年3回程度「みちびきコミュニティ」を開催しています。衛星測位の業界外の方々を交えながら、有識者とともにアイディアをブラシュアップし、事業化に向けたビジネスモデル構築を目指します。検討されたアイディアはWebサイトで発信し、Webセミナーなどのイベントも実施しています。それらの活動を通じて、みちびきの新しい活用方法の創出を図っています。

人手不足が課題の産業や意外に身近なところでも活用中

画像1:実証実験では無人のショベルカーとトラックが自動運転での掘削を実現

 齊田さんは、これまで支援してきた実証事業について、新しいビジネスにつながる可能性が高いものが数多くあると話します。

 「静岡県の合同会社ビスペルは、ショベルカーと積み込み用のトラックに受信アンテナを設置して、『みちびき』のCLASを活用して相互の位置関係を把握するとともに、それらICT化された建機で自動運転による掘削作業の無人化を図る実証実験を行いました(画像1参照)。ちなみに、土砂の位置もセンサーで計測して積み込むという徹底ぶりです。建設業界は少子化により人手不足が深刻ですので、このような取り組みは大いに可能性があると思います」(齊田氏)

 このほか、熊本県の株式会社KISは、「みちびき」のSLASを活用して水道メーターの位置情報を管理するシステムを開発しました。従来検針員が一つずつ検針していた水道メーターは分かりにくい場所にあることが多く、情報が属人化して業務を引き継ぐことが困難でした。そこでSLASに対応したゴルフウォッチをカスタマイズして、検針用のスマホと連携させ、検針したタイミングで位置情報をサーバーに記録する仕組みを開発し、2022年に実証実験を行い、正式サービスを開始しました(画像2参照)。

画像2:水道メーターの位置情報は自動的にサーバーにアップされる

 また、スポーツイベントの分野では、安全な運営が求められるトライアスロン大会で選手に「みちびき」の受信機を付け、競技中の選手の位置を把握したり、止まっている選手はいないかを確認したり、水泳種目ではコースを示すブイを越えていないかをチェックするという試みも行われました。
 さらに、再生可能エネルギーとして期待されている洋上風力発電においても、「みちびき」の活用が検討されています。洋上風力発電所の通常点検やメンテナンスは、船で現地に出向いて行われますが、津波などの被災により船で向かうことが困難なケースが考えられます。そういった場合はドローンの利用が考えられますが、ドローンを正確な位置へ飛ばすため、「みちびき」の受信機を搭載することも考えられています。
 すでに、事業化されているものも多く、北海道のエゾウィン株式会社は集団で農作業を行う組織向けの作業支援システム「レポサク」を開発し、2020年から発売しています。「みちびき」のSLASに対応した機器を農業用車両に取りつけ、取得した高精度位置情報をクラウドへ送信し、共有することで作業者の位置情報をリアルタイムに把握します。これにより、作業の進捗状況が作業者間で共有され、作業を終えた作業員が自発的に遅れている農地を手伝いに行くなど、作業効率の向上に役立てています。
 このほか、パナソニック株式会社は「みちびき」の災害・危機管理通報サービスも受信できるETC(自動料金収受システム)2.0※3車載器を開発し、2021年から販売しています。この車載器 は、「み ちびき」の災害・危機管理通報サービスによる緊急地震速報や津波警報、気象特別警報などの防災気象情報を音声で知らせる機能が付加され、ETCカードなしでも受信可能になっているため、高速道路や一般道を問わず、携帯電波が入らない地域でも災害情報を受け取れるようになっています。
 「みちびき」は、このような事例以外にもさまざまな分野で活用が考えられるため、これから新しいビジネスに挑戦する際は、「みちびき」の活用がチャレンジを後押ししてくれるかもしれません。

※1 GNSS
Global Navigation Satellite Systemの略で、衛星測位システムの総称。「みちびき」やGPSのほか、Galileo(欧州)、GLONASS(ロシア)、BeiDou(中国)、NAVIC(インド)などのこと。
※2 スタートアップ企業
革新的なアイデアで、起業から短期的に急成長を遂げる企業。
※3 ETC2.0
従来のETCの通行料支払いに加えて、渋滞回避や安全運転の支援など多彩な情報サービスを提供してくれる次世代ETC。
組織名 内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室
設 立 2016年(平成28年)9月1日
所在地 千代田区霞が関3-7-1霞が関東急ビル
宇宙開発戦略推進事務局長 風木 淳
事業概要 「みちびき」(準天頂衛星システム)に関わる開発や運用、「みちびき」 を活用するための実証事業などを行っている。
URL https://qzss.go.jp/index.html
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