ICTソリューション紹介

農業活性化のキーワードは「スマート」
ICTが担う日本農業の明るい未来

IOT

公開日:2022/04/25

I C Tを活用したスマート農業が、産業の救世主として期待されています。今回は、官民連携による地域ぐるみのスマート農業で成果を上げつつある山梨市と上越市の取り組みについて、山梨市役所政策秘書課副主査・小林 弘氏、NTT東日本経営企画部営業戦略推進室主査・中西 雄大氏、上越市役所農政課係長・宮川 裕一氏、同課主任・松井 克仁氏に話をうかがいました。

高齢化社会でも持続可能な農業を求めて数々の自治体が「スマート農業」に参入

 就農者の高齢化と次世代の都市圏流出などを原因とする担い手不足が、日本の農業の将来に暗い影を投げかけています。65歳以上の高齢農業従事者が就農者全体に占める割合は、2020年には約70%、平均年齢も67.8歳に達しています(図1参照)。就農者減による生産力の衰退は農業を基幹産業とする自治体ほど深刻で、高齢者でも持続可能な営農スタイル、新規就農者を獲得し得るビジネスとして魅力あるシステムの構築が急がれています。

 「市の約80%が中山間地域で占められる山梨市だけに、体力が衰えた高齢就農者でも従来と変わらぬ生産量と品質を期待できる技術の確立は、市に与えられた喫緊の課題です」(山梨市・小林氏)

 「コスト削減も重要なテーマです。上越市では圃場※1の大区画化を推進し生産の効率化を図っていますが、目標値を達成するには革新的なイノベーションが必要でした」(上越市・宮川氏)

 両市が課題解決に選択した手段が「スマート農業」の活用です。ICT、AI(人工知能)やロボット技術を駆使して、省力化とコスト削減の両立を実現すると同時に、品質や収量の向上も期待できる試みです。両市はどのようにスマート農業を活用し地域活性化の糧としているのか。それぞれの導入実績と成果を紹介します。

山梨市の取り組み

 地域ぐるみの官民連携プロジェクト「山梨市アグリイノベーションLab」の活動を推進。ICT機器を活用した圃場環境の「見える化」を実現し、経験や勘に頼ってきたノウハウをデータ化して農産物の品質、ブランド力の向上や新規就農者の獲得を実現しています。

「スマート農業」導入成功を期して官民連携プロジェクトを設立

山梨市役所 政策秘書課
政策調整担当 副主査 小林 弘氏

 果樹農業を基幹産業とする山梨県山梨市は、全国でも有数のシャインマスカットの名産地です。市の取り組みは、近年のトレンドである農作物ブランド化の成功例として、広く知られています。そんな山梨市の農業でも、農作業の負担が就農者に重くのしかかっていると言います。

 「果樹農業には、収穫など機械化が難しいプロセスが多く、作業時間の軽減が困難です。また労働のピークが夏から秋に集中するため、その時期にはどうしても労働力不足に陥りやすくなります。水稲を主体とする経営体と比較すると、10a当たりの労働時間はおよそ6倍(「平成30年度食料・農業・農村白書」)とする数字も発表されています」(小林氏)

東日本電信電話株式会社
経営企画部 営業戦略推進室
主査 中西 雄大氏

 「何度も見回りに出かけるなど、アナログ的な仕事の実態も省力化の足かせになっています。経験と勘によって培われてきた日本の農業ですが、就農者数が減少傾向を示す中、ICTなどの活用による生産性向上の仕組みが必須と考えるに至りました」(中西氏)

 これらを背景に2017年、「農作業の負担減」や「新規就農者の獲得」、そして「農業技術の次世代への継承」など諸問題の解決をスマート農業の導入に託した、地域ぐるみで新時代の農業を切り拓く官民連携プロジェクトである「山梨市アグリイノベーションLab」が設立されました。

地域ぐるみで取り組む姿勢が生んだノウハウの開放と山梨市独自の通信網

ハウス内に設置されたセンサーが、温度、湿度、照度などを常時観測

 「山梨市アグリイノベーションLab」は、山梨市を中心にN T T東日本、J Aフルーツ山梨などが一体となってI C Tの活用を通じて農業を活性化させる試みです。活動は圃場の環境データの「見える化」から始まり、栽培ハウス内の温度や湿度、照度、土中温度などの栽培に必要な環境データをセンサーで観測し、クラウド上で可視化しました(図2参照)。おかげで、就農者はいつどこにいてもスマートフォンからハウス内の環境を把握することが可能になりました。また、カメラ映像によるカーテンの開閉確認や作物の生育状況の視認も容易となり、約2割の省力化を達成したほか、J Aが保有する栽培マニュアルと実際のデータを照合することで、失敗の少ない栽培が実現しました。

 「窓の開け忘れやボイラーの故障などでハウス内の室温が設定値を超えると、アラート通知が関係者のスマートフォンに届きます。環境データはすべてクラウド上に蓄積されますので、過去データの閲覧も可能です。今年に限って実が自然に離れ落ちる脱粒が目立つと悩んでいたぶどう農家さんが、過去のデータを検証し見事原因の究明に成功した事例も報告されています」(小林氏)

 また、市が無償で貸し出している人感センサーの導入も、就農者に好評です。シャインマスカットは高額作物だけに、収穫間際の盗難は就農者全員の悩みの種でした。夜間など人感センサーが異物の動きを感知すると、直ちにアラートが発信されます。鳥獣害対策にも有効なこのシステムは、何より就農者の精神的ストレスの軽減に貢献しています。これらのICT機器の給電は常時太陽光発電で賄うので、電源の有無を気にする必要はありません。一度フル充電した機器は2週間程度の稼働が可能です。
 もっとも、中山間地域が8割を占める山梨市だけに、通信網の確立も急務となりました。山梨市は独自の自営「LPWA※2」ネットワークを導入、現在市内に六つの基地局を設置し、圃場の大部分を通信可能エリア内に収め、スマート農業の推進を支えています。

ICTを有効活用した新時代の農業が多くの新規就農者を生み出す予感

 スマート農業は、山梨市の就農者の経済力向上、農産物のブランド化に大いに貢献しています。同時に「農業の魅力」を発信し新規参入者を誘致、高齢化問題を乗り切るための有効手段としても注目されています。

 「スマート農業に挑戦して以降、明らかに品質の安定化が見られるようになりました。栽培マニュアルと日々の観測データを照合しながら育成に励んだ賜物です。スマート農業は、シャインマスカットのブランド力の強化にも大変貢献しています」(中西氏)

 「ここ数年、新規就農者数の増加を実感しています。農業生産法人の参入も目立ちます。スマート農業の導入により、新規参入のハードルは明らかに下がりました。また、山梨市ではスマート農業導入のための補助金制度を実施しています。30万円を上限に、基本的に機器購入費の半額を補助、新規参入を容易にする努力を続けています。ぜひ活用していただきたいですね」(小林氏)

 自治体、通信事業者、JAなど、官民連携・適材適所で推進された「山梨市アグリイノベーションLab」だからこそ成果を上げつつある山梨市のスマート農業事業は、開設5年目の今年、さらなる高収益化の追求、就農者への手厚いサポートなどの実現に向け、新たな一歩を踏み出しています。

上越市の取り組み

 2019年から地域一体の実証コンソーシアム(共同事業体)、「上越市スマート農業プロジェクト委員会」や市をスマート農業の実証フィールドに見立てた「先進的スマート農業タウン推進事業」の取り組みを通じて、品質・収量の向上とコスト削減が両立した持続可能な農業の姿を追求しています。

目標は収量・品質の向上とコスト削減の両立 「上越市スマート農業プロジェクト」が発進

上越市役所 農林水産部 農政課
農業生産振興係長 宮川 裕一氏

 新潟県上越市は、全国第4位の水稲作付面積を誇る、日本を代表する米どころです。多様な有望品種の栽培にも積極的に取り組んでいる上越市の農業は、現在「圃場の大区画化」による次世代型大規模水田経営を推進しています。

 「コシヒカリなどの良食味米の生産で高い評価をいただいていますが、現実には業務用米や飼料用米の栽培など、市場の要求にも柔軟に対応する必要があります。多様な品種の生産体制を整えるためには、圃場の大区画化が必須です。現在平野部では約35%の水田が整備され、4,300haの大区画圃場が誕生しました。今後も3,000haの整備を予定しています」(宮川氏)

 しかし、多品種生産はそれぞれの収穫期が異なるため、労働効率が分散しコストがかさむケースも見受けられます。そこで上越市は2019年、大区画圃場で多品種米の「低コスト・高品質」を生産実証する「上越市スマート農業プロジェクト委員会」を発足させました。

あらゆる工程に「スマート農業」を導入 作業時間80%減を達成した実証も誕生

 「上越市スマート農業プロジェクト委員会」は、上越市を研究リーダーに、農業法人、JA、農機メーカーなどが結集した実証コンソーシアムで、山梨市と同様に地域を挙げての取り組みとなりました。前年度策定の栽培管理計画に基づいた「経営・栽培管理システム」のデータを活用し、「整地・耕起など」から「水管理」、「田植え」、「育苗・生育管理」、そして「収穫」に至る生産プロセスをスマート化(図3参照)。約4haの超大区画圃場でスマート農業の実証を行い、収量・品質の向上とコスト削減の両立を追求しました。事業の取りまとめ役は農研機構で、プロジェクトは補助金により運営され、コスト削減の目標値は現状から4割減に設定しました。実証では整地段階から収穫に至る生産の全工程に8種類のスマート農機を導入しましたが、特に三つの技術の有効性が確認されています(図4参照)。

上越市役所 農林水産部 農政課
主任 松井 克仁氏

 「まずGPSを利用した自動操舵『直進キープトラクタ』です。大区画圃場の一辺は200mにも及び、正確な整地や田植えには高い経験値が必要です。自動操舵の導入により初心者でも精度の高い作業が可能となり、10%以上の労働時間が削減できました。収量増に貢献したのは、食味・収量コンバイン※3で収集した前年の圃場のデータを利用した『可変施肥※4』システムです。コンバインで取得したデータを基に生育状態をマップ化し、データに基づき施肥量を調整したところ、15%の収量増を確認しました。
 また、大区画圃場は水管理に大変な労力を要します。車で圃場を駆け巡るケースも珍しくありません。しかし『遠隔操作型自動給水栓』の導入で、スマートフォンで水田の確認や水量調整が可能になり、実に8割もの作業時間を削減したと報告されています」(松井氏)

 現在プロジェクト自体は終了していますが、スマート農業の取り組みは現在も継続中で、実証で得られた生産プロセスやコスト管理のあらゆるデータを収集し、いつでも記録の振り返りと作業状況の確認が可能な環境を整備して、就農者の経営サポートに役立てています。

魅力ある、儲かる農業の実現に向かって「スマート農業」が生産者の意識を変えた

ラジコンで草刈機を 操縦する実演見学 会など、上越市は ICT技術の活用で得 た知見を幅広く公開 しています

 「プロジェクトに参加し、作業効率の改善や収量増、労働時間の軽減を実体験した生産者のコスト意識は明らかに向上しました。また、一般の就農者がスマート農業を取り入れた水田を熱心に観察し質問するなど、スマート農業への前向きな評価が地域全体に浸透しつつあるのは嬉しい限りです」(松井氏)

 「特にドローンを活用する就農者数の増加を実感しています。スマート農業は、確実に地域に身近な技術になりつつあります」(宮川氏)

 上越市では現在、プロジェクトで得られた知見をより進化させるための「先進的スマート農業タウン推進事業」を立ち上げ、市内8ヵ所の圃場をスマート農業技術や農機の実証フィールドとし、地域の就農者に限らず広く国内外からの見学者にスマート農業の素晴らしさを啓蒙しています。見学会や実際の作業の様子を撮影したYouTubeチャンネルも好評です。現在、YouTube上には「上越市スマート農業プロジェクト委員会」の実証成果の紹介や、「ラジコン草刈機」「直進キープトラクタ」「ドローン活用例」など、各種スマート農業の作業実例を簡潔にまとめた13本のコンテンツを公開しています。

 「経験や習熟度のなさを心配せずに新規参入が可能で、しかも安定した収入が期待できる『魅力ある、儲かる農業』を一日も早く実現したいです」(宮川氏)

※1 圃場(ほじょう):作物を栽培する水田や畑。
※2 LPWA:Low Power Wide Areaの略。低消費電力で広域カバーが可能な通信ネットワークのこと。
※3 食味・収量コンバイン:刈取りしながら収量と食味(タンパク値)を計測するセンサーつきのコンバイン。
※4 可変施肥:農産物の生育状態に合わせて肥料の散布量を自動調節するスマート農業技術。
※5 メッシュマップデータ:地図上を格子状に区切ったデータのこと。
※6 移植体系:苗を水田に植えつける栽培方法。
※7 直播体系:育苗をせず、田に直接種を播く栽培方法。

組織名 山梨市役所
所在地 山梨県山梨市小原西843
URL https://www.city.yamanashi.yamanashi.jp/
〔ユーザ協会会員〕   
組織名 上越市役所
所在地 新潟県上越市木田1-1-3
URL https://www.city.joetsu.niigata.jp/
YouTube https://www.youtube.com/channel/UCKmTV4xjq9m1MlTE_xpp37w
会社名 東日本電信電話株式会社
設立 1999年(平成11年)7月
本社所在地 東京都新宿区西新宿3-19-2
資本金 3,350億円
事業内容 東日本地域における地域電気通信業務及び これに附帯する業務、目的達成業務、活用業務
URL https://www.ntt-east.co.jp/
〔ユーザ協会賛助会員〕  
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