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-株式会社第一生命経済研究所-
企業のDXを支えるノーコード/ローコード開発のメリットと注意点

記事ID:D10027

企業にD X※1の推進が求められる中、専門知識がなくても誰でも簡単にアプリ※2が開発できる「ノーコード/ローコード開発」が注目を集めています。そこで今回は、先端技術やテクノロジー製品の検証を主な業務とし、ノーコード/ローコード開発の検証も行っている、株式会社第一生命経済研究所 客員研究員の平川 善教氏に話をうかがいました。

高まるDX推進の重要性

株式会社第一生命経済研究所
客員研究員
第一生命情報システム株式会社
デジタル推進部所属
平川 善教氏

 デジタル技術の進歩にともない、社会環境は目まぐるしく変化しています。特にビジネス界では従来の価値観やビジネスモデルをひっくり返すようなゲームチェンジャー※3の登場により、それまで優位だった企業が一気にシェアを奪われるような事態も起きています。
 そんなビジネス環境の中で勝ち残るには、DXを進め、業務効率や生産効率を上げることや古い仕事のやり方からの脱却が求められています。しかし、多くの中小企業では、高度な技術をもつI T人材の不足により、DXを推進できていない企業が多く見られます。そこで、数々のPoC※4を行う第一生命経済研究所の平川氏は、「ノーコード/ローコード開発ツールに大きな期待が集まっている」と話します。

 「ノーコード/ローコード開発とは、プログラミングを行わず、もしくは必要最小限のプログラミングによってアプリを開発できる仕組みの総称です。専門的なプログラミング知識を必要としないため、IT人材の不足に悩む企業でも導入が可能で、今後も需要が高まっていくと思われます」(平川氏)

内製が育むメリットと依存で生じるデメリット

 ノーコード開発は、ツールにあらかじめ用意されている項目などを組み合わせることでアプリを開発できます(図1参照)。また、ローコード開発は、最小限のプログラミングをすることで、より高機能なアプリを開発できます。

 「従来のアプリ開発は専門的な知識をきちんと学習した人材が必要でしたが、ゲーム感覚の組み合わせ作業によるノーコード/ローコード開発は、専門的な知識がなくても問題ありません。小中学生でもゲーム機などでプログラミングを体験したりしていれば簡単にアプリが開発できるでしょう。ノーコード/ローコードによって、誰もが当たり前のようにアプリを作れる時代に差し掛かっていると、経営者は認識しておくべきだと思います」(平川氏)

 近年は、人の手で行う定型化されたパソコン操作を自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)も導入する企業が増えています。これも一般的にプログラミングが不要なためノーコード開発の一種と言えますが、あくまでも行っている作業を自動化するツールです。平川氏は、このノーコード/ローコード開発のメリットについて、主に三つの点を挙げます。

 「IT人材の少ない日本企業のアプリやシステムの開発は、これまで外注が一般的でしたが、コスト面で大きな問題がありました。さらに、自分たちの業務に本当に役立つものになっていないなど、外注先との意思疎通の面でも問題がありました。しかし、ノーコード/ローコード開発なら、高度な技術をもつIT人材なしでも内製で開発できるため、これらの問題を一気に解決してくれます。
 また、昨今のビジネスを取り巻く環境は目まぐるしく変化し、アプリの開発・改修にも市場の変化にともなって早急な対応が求められています。こうした対応のためにアプリを一から開発・改修していると時間を要するほか、アプリに不具合が生じる可能性も高まります。ノーコード/ローコードなら、もともと用意されている項目を組み合わせるだけなので短時間で開発できるうえ、不具合の可能性も低く、動作テストまで効率的に進められます。この点も大きなメリットだと思います」(平川氏)

 一方で、平川氏は「ノーコード/ローコード開発には、主に二つの注意点がある」と指摘します。

 「一つは、開発できるアプリが制限されるということです。ノーコード/ローコード開発は、あらかじめツールに用意されたパーツ(ボタンなどの部品)で開発するため、デザインや機能面の自由度が低くなります。二つ目は、ベンダーロックインです。これは、企業のシステムが特定のベンダーに依存してしまう状態を指します。ノーコード/ローコード開発のツールには、各社間の互換性がないため、あるツールで作成したアプリは他社のツールでは動きません。ベンダーが倒産した場合などにツールの乗り換えが難しく、事前に対応策を考えておく必要があります」(平川氏)

 また、運用上の注意点も挙げています。

 「アプリの内製ができるようになると、企業内の各組織でそれぞれ開発したアプリが乱立してしまう恐れがあります。そうなると、全体が把握できず、収集したデータが活用できなかったり、仕様書などがないため開発者以外がメンテナンスできなかったりと、セキュリティも含めたガバナンス面もあらかじめ考えておく必要があると思います」(平川氏)

ベンダー選びで注意すべき五つのポイント

 ノーコード/ローコード開発は世界中で広がりを見せている中、日本でもノーコード/ローコード開発のツールを提供する企業が続々と登場しています。しかし、平川氏は「それだけ競争が激しく、競争に負けて消えていく企業も多くなります。そのため、ベンダー選びはますます重要になります」と指摘しつつ、ベンダー選びのポイントを五つ挙げています(図2参照)。

 「ベンダー選びはまず、ユーザー同士で情報交換をしているコミュニティのあるベンダーを選ぶのがおすすめです。コミュニティ内ではユーザーが使い勝手を批評したり、使い方を相談しているので、役立つ情報が多くあると思います。次に、無料版を試してみることも重要です。一通り使ってみて自分たちが望むアプリが作れそうかどうか、必ず確認しましょう。また、自分たちが望むアプリが開発できるかどうかを調べるためには、アプリの開発事例を調べることも必要です。
 このほか、ベンダーに聞くなどして同業他社の動向を調べることもおすすめします。同業他社で使っているということはその業種・業態に合うのかもしれません。また、長く使っていくためには、サポート体制のしっかりしたベンダーを選ぶことも大事です。ベンダーの中には初心者向けセミナーを実施したり、レクチャー動画をホームページ上で公開している場合もありますので、中小企業での導入検討にも心強いと思います」(平川氏)

 現在はノーコード/ローコード開発ツールのおかげで、DXを推進しやすくなっていることもあり、平川氏は「デジタル活用の立ち位置が少し変わってきている」と言います。

 「従来の日本のデジタル活用は、これまで手作業で非効率だった作業をデジタルに置き換え、効率化していくこと、すなわちIT化がメインだったと思います。しかし、今はデジタル活用により新しい価値を生み出し、お客さまに優れた体験を提供するDXの実現を目指すようになるなど、立ち位置が変わってきています」(平川氏)

 平川氏の指摘する通り、デジタル活用により新しい価値や優れた体験を提供し、他社との差異化や優位性の確立を図る競争が激化すると、より利便性の高いノーコード/ローコード開発の需要は高まっていくと考えられそうです。

※1 DX
Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略で、直訳すると「デジタルによる変容」。進化したICT技術を用いることで、人々の生活やビジネスがより良いものへと変容(変革)していくこと。
※2 アプリ
アプリケーションソフトウェアの略称で、特定の目的のために設計されたソフトウェアのこと。
※3 ゲームチェンジャー
経済・社会の状況を一転させる個人や企業を示す言葉。もともとスポーツ競技で、試合の流れを一気に変えてしまう選手やチームをこう呼んでいた。
※4 PoC
概念実証を意味する「Proof of Concept」の略。概念実証とは、新しいアイデアやテクノロジーによって得られるビジネス上の効果や有効性を検証することを指す。
会社名 株式会社第一生命経済研究所
設立 1997年(平成9年)4月1日
本社所在地 東京都千代田区有楽町1-13-1
代表取締役社長 寺本 秀雄
事業内容 国内外の経済・金融・文化に関する調査・研究。保険・年金に関する市場動向、及び生活保障(社会保障・企業内福祉)、家計動向、人口問題(少子化・高齢化)、ライフデザイン、Well-beingなどに関する調査・研究など。
URL https://www.dlri.co.jp/
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