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-NTTコミュニケーションズ株式会社-
人手不足解消にも活用が進むAIの活用トレンドと知っておきたいリスク

記事ID:D10048

業種や規模を問わず、人手不足の解消や働き方改革が課題となった2024年。この課題の解決に、AIの活用を模索した中小企業も多いと思います。そこで今回は、NTTコミュニケーションズでAI技術を活用したサポートを行っている荒川 大輝氏と柿元 宏晃氏に、AI活用のトレンドや注意点、活用ポイントについてうかがいました。

人手不足解消へのAI活用と最近のトレンド

ビジネスソリューション本部
スマートワールドビジネス部
ジェネレーティブAIタスクフォース
タスクフォース長
荒川 大輝氏

 2024年は、働き方改革関連法案により労働時間に上限が課されることで生じる、運輸・建設・医療業界の人手不足、いわゆる「2024年問題」が人々の関心を集めましたが、少子高齢化が進む日本では、その他の多くの業界でも人手不足が深刻化しています。そんな中、2024年は、その解決策の一つとしてAI活用が加速した一年でもありました。AIによる業務効率化を企業に提案・支援を行うNTTコミュニケーションズの荒川 大輝氏は、2024年のAI活用を次のように振り返ります。

 「ドローンとAIを組み合わせて物流施設や建設現場の無人点検や管理を行ったり、製造現場でも、工場の手動操作の工程をAIに学習させ自動化したり、AIを活用し機器類の異常検知を行うなど、実証段階のものも含め、2024年は人手不足解消をはじめとするさまざまなビジネスシーンで、AI活用が進みました」(荒川氏)

ビジネスソリューション本部
スマートワールドビジネス部
ジェネレーティブAIタスクフォース担当課長
柿元 宏晃氏

 また、同社の柿元 宏晃氏は最近のAI活用のトレンドの一つとして、「社内の情報検索の効率化」を挙げます。

 「例えば、過去の仕事や取引の資料を参照したいが、その書類を誰がいつ作成し、どこに保存したか分からないというケースがよく見られます。最近はこれらの業務履歴を整理し、AIと情報検索を組み合わせることで、必要な情報を迅速に抽出できるようにしたケースが多く見られます」(柿元氏)

 このような情報整理で活用されるのが、情報を基に文章や画像など新しいものを作ることが得意な「生成AI」と、「検索拡張生成(RAG:Retrieval-Augmented Generation)」と呼ばれる技術です。

 「RAGとは、膨大なテキストデータから学習して高度な言語理解を実現する大規模言語モデル(LLM :Large Language Models)によるテキストの生成に、外部情報の検索を組み合わせることで回答の精度を上げる技術です。近年は、このようなLLM+RAGが生成AIの活用モデルのトレンドとして注目を集めています。例えば市役所で市民から『戸籍を移動させたい』と申し込まれた場合、対応した職員が検索システムに『戸籍の移動申込書はどこにある?』と質問すると、膨大なデータから必要な書類を見つけるだけでなく、手続きの必要事項までも生成してくれ、確認後そのまま市民に提示できます(図参照)」(柿元氏)

 このようなAI活用により業務を進める上で生じる中間作業の大幅な効率化が期待でき、人手を増やすことなく、肝心な応対業務にきちんと時間を割くことが可能になります。

【図:生成AI(LLM)+RAGの活用イメージ:行政窓口の例】

国産の小型LLMが注目される理由

 生成AIはテキストや画像、音声などのデータを自律的に生成できるAI技術の総称ですが、LLMは自然言語処理に特化したもので、言語のより高度な理解ができる生成AIと言えます。その代表的な例としてよく知られているのがアメリカで開発された「ChatGPT」です。そして近年は、LLMの国産版が次々と開発されており、荒川氏は特徴を次のように説明します。

 「海外のLLMは日本人が違和感を覚える表現や回答になることがあります、ですが、国産LLMは日本の言語や文化、情報をきちんと学習させており、自然な日本語の会話を生成できます」(荒川氏)

 LLMは膨大な「計算量」、「データ量」、「パラメータ数※1」の三つの要素で構築されており、これらの量が多いほど、能力が高くなります。しかし、多ければ多いほど消費電力や運用コストも増えていくため、最近は3要素の量が少なく、日本語で学習した国産の軽量または超軽量の小型LLMの開発が進み、例えばNTTの「tsuzumi(ツヅミ)」、NEC の「cotomi(コトミ)」といったモデルの実用化が始まっています。その小型LLMのメリットについて、柿元氏は次のように説明します。

 「企業が生成AIを活用する場合、より適切なテキストを生成させるため、自社ならではの専門用語や業界独自の専門用語、独自のルールや風習を理解した生成AIを活用したいと思うでしょう。その場合、LLMに理解させたい情報を学習させるチューニングが必要です。LLMは『言葉の並びを考える』『次に来る言葉を予測する』ことを繰り返すAIです。チューニングでは、LLMがその繰り返しでより正しい回答を導き出せるよう専門用語や独自のルールをきちんと学習させる必要があります。その際、データ量が膨大な大型LLMの場合はチューニングを行うにも規模が大きすぎて難しく、データ量の少ない小型LLMのほうがしやすいというメリットがあります」(柿元氏)

 また、「小型LLMにはセキュリティ面でもメリットがある」と話します。

 「例えば、機密性の高い社外秘のデータを自社のネットワーク内のみで保管するオンプレミス※2の環境でLLMを運用したい場合、大型LLMは規模が大きすぎて自社サーバーでの運用が難しく、かなりのコストと技術力が必要になります。しかし、小型LLMの場合はそれほど高性能なサーバーでなくとも運用できるため、セキュリティ面で安心感のあるオンプレミス環境でも動作可能です」(柿元氏)

リスクをよく理解し生成AIを上手に活用すべき

 国産の小型LLMの開発などが進み、低コストで自社に合った生成AIの活用が容易になりつつありますが、柿元氏は生成AIを導入する上での注意点を次のように指摘します。

 「生成AIを活用する際は、回答の真偽を確認できる仕組みを整えることが重要です。また生成AIは、性能が上がっても誤った回答をする場合があることを認識した上で、利用シーンをしっかり吟味することも重要です。例えば、人手不足を解消するために、最初から顧客との接点を、AIに100%任せたいと考えてしまいがちですが、質問に対して100%間違いのない回答が求められる顧客対応を、間違える可能性をもつAIに任せるというのは、非常に危険です」(柿元氏)

 さらに、荒川氏はデータの保存場所や取り扱いルールの設定について、注意点を補足します。

 「例えば社内の情報には、社外秘のものや閲覧可能な人が限定されるものなど、ルールがあると思います。そういった情報の所在や取り扱いルールを、システム内でしっかり整理することが重要です。生成AIは与えられたドキュメントをそのまま使用しますので、その整理を怠ると、見せてはいけない人に情報を見せてしまうなど、情報漏えいのリスクがあります」(荒川氏)

 生成AIは業務効率化などさまざまな場面で役立ちますが、誤った回答をする可能性や情報漏えいの可能性などのリスクを認識することが重要です。その上で、まずは身近にある生成AIツールに積極的に触れ、使いながら特性を理解していくと良いでしょう。

※1 パラメータ数
正確な結果を出せるようにするために、モデル内部で学習中に調整される変数の数のことで、一般的に多いほど高性能になるが、学習に時間がかかるなどの問題もある。
※2 オンプレミス
会社の建物内にサーバーを設置しデータを保存、業務する仕組み。社外のインターネット環境にデータを保存するクラウド環境と比べ、データをより安全に管理できる。
会社名 NTTコミュニケーションズ株式会社
所在地 東京都千代田区大手町2-3-1大手町プレイスウエストタワー
代表取締役社長 小島 克重
資本金 2,309億円
事業概要 ICTサービスを用いた企業向けの課題解決の提案・支援事業、国際通信事業、及びそれらに関する事業など
URL https://www.ntt.com/index.html
〔ユーザ協会賛助会員〕
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