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-北見市役所/株式会社アイエンター/株式会社 要-
会社は東京、勤務地はふるさと テレワークが生む新しい働き方と地方創生

記事ID:D10026

コロナ禍を機に定着してきたテレワークですが、現在は生活の拠点を地方に置きながら東京などの都市圏の企業に就職し、テレワークで業務をこなす「地方創生テレワーク」が、脚光を浴びています。全国の自治体の中でもいち早く導入に取り組み、地元出身者のUターンや企業誘致を推進している北海道北見市、さらに北見市で地方創生テレワークを実践する株式会社アイエンターと株式会社要の取り組みについて、話をうかがいました。

都会の会社を辞めずに地方で働く「地方創生テレワーク」に注目

 テレワークを経験した人の多くが有効性を実感し、企業も導入や定着を積極的に推進しています。特に若い世代はテレワークの可否を就職や転職の重要な条件と考える傾向が強く、内閣府の資料によると、2022年6月現在で東京都23区就業者のテレワーク実施率は50.6%、全国平均でも実に30%以上に及んでいます。
 テレワークの浸透は、就業者にふるさと回帰や地方移住への関心を呼び起こしています。NTTデータ経営研究所の「地方移住とワーケーションに関する意識調査」(2021年12月)によると、都市圏居住者の3割弱が地方での生活に関心を示し、うち半数程度は既に移住に向けた検討、準備を行っているとなっています(下図参照)。しかし、現実は年収面やキャリアに見合った仕事が少ないなど、魅力ある職場の有無が地方就労最大の課題となっており、企業や地方自治体の前向きな対応が必須とされています。このような状況下、北見市では地元の強みを活かした、産学官の連携による「地方創生テレワーク」に取り組み、注目を集めています。

テレワーク推進の実証事業で働く側から予想以上の支持を獲得

北見市役所 商工観光部工業振興課
工業係長 前田 泰志氏

 北海道北見市は道東に位置する人口約1 1万人の地方都市です。玉ねぎや白花豆の生産量日本一、人口一人当たりの焼肉店数北海道一など、道東の中核都市として都市圏の金融機関や企業の支店や出張所が多く置かれていましたが、近年各社が続々と撤退し経済の地盤沈下に悩まされていました。

 「地方の復活には企業誘致が欠かせません。しかし北見市は室蘭や苫小牧のように港湾施設を持たないため物流関係が弱く、重厚長大産業の招致が困難でした。一方で北見市は地震発生確率が全国最少地域であり、女満別空港を利用した際の東京への所要時間は約2時間半とアクセスの良さも自慢です。また、市内には北見工業大学(以下、KIT)という国立大学を擁し理系人材に事欠かないなど、多くの強みを有しています。そこで2013年、これらの強みとのマッチング性が高いと考えられたIT企業にターゲットを絞り、誘致活動を開始しました」(前田氏)

北見市役所 商工観光部工業振興課
工業係 松原 綾香氏

 「北見から攻める」を合言葉に、まず取り組んだのが産学官連携による地方創生でした。都市圏の企業とKITが「地方創生テレワーク」で連携し、共同研究などを推進することで産業が創出されれば、自ずと企業の進出、地元人材の雇用が実現すると考えたのです。

 「2015年には総務省が実践する『ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業』の採択を受け、首都圏のITを中心とした企業9社が北見市内に市が用意した職住接近の一軒家型、コワーキングタイプ※1、そして大学隣接型の3タイプのサテライトオフィスを構え、半年間で延べ180名が遠隔勤務の実証事業に参加しました。当時はまだテレワークに対する理解度が低い時代でしたが、『通勤ストレスからの解放』や『自分時間の充実』を実感した働き手の反響は大きく、特にライフイベントで就業環境の変化が大きい女性から圧倒的な支持を得ました。実証の結果、コワーキングタイプの評価が高く、2017年には市内のテレワーク拠点『サテライトオフィス北見』(現KITAMI BASE:写真参照)が誕生しました」(松原氏)

都会で成長し、ふるさとに回帰「サケモデル」が新たな産業を創出

実証実験にて利用され た、コワーキングタイプのテレワーク拠点

 同時に北見市が推進したのが、「サケモデル」と名づけられた人材回帰モデルです。北見市に進出したI T企業が、帰郷願望を持つK I Tの学生を採用し東京本社などで育成、一人前に成長した数年後に北見市の事業所に回帰させ、テレワークを活用して従来の勤務を継続するというイメージです。

 「活動の結果、実証事業に参加した9社のうち、3社のIT企業と地方創生に係る連携協定を締結、サテライトオフィスを開設し、『サケモデル』へも積極的に取り組みました。北見市から巣立ったサケたちの最初の遡上は2018年に成功例が生まれ、今後も一人前に育った多くのサケたちの帰郷が予定されています。またKITとの共同研究は、これまでにも『道路維持管理システム』や『カーリングの姿勢推計システム』『市役所窓口でのRPA※2の実装』など、KITとIT企業ならではの事例があります。経済産業省の『地方版IoT推進ラボ』の選定を受け、こうした北見市の地方創生テレワークを介した産学官による連携事業を「北見市IoT推進ラボ」として展開しています。今後も質と量のさらなる充実が期待されています」(前田氏)

 「このように、進出企業、K I T、北見市の産学官連携は、3者それぞれにwin-winの成果をもたらしています。企業はKITの学生の採用や知見を得た共同ビジネスのチャンスを得られ、KITは学生の就職率のアップや新技術の蓄積が叶います。そして、こうした若者の地元定着、進出企業の増加は北見市にとっても大きなメリットであると考えています」(松原氏)

 北見市では産学官のさらなる連携強化のために、このほかにも首都圏の企業を対象にしたP Rセミナーの実施や、テレワークに関心を持つ経営者を招いた合同企業視察ツアー、K I Tと連携したハッカソン※3を開催するなど、地方創生テレワークの実現に向け多くの試みに挑戦してきました。

北見市が推進する「地方創生テレワーク」は多くの自治体にとっても有効なモデル

合同企業視察ツアーを開催 し、首都圏のIT企業の経営者に直接アプローチ

 こうした取り組みを経て、2021年に「地方創生テレワーク交付金」を活用して「サテライトオフィス北見」を改築した「KITAMI BASE」が、テレワークの一大拠点となっています。現在は、進出企業が採用した冬季五輪の代表選手や、全国誌に連載を持つ漫画家など、北見市にUターン、Iターンしたさまざまな人材が「KITAMIBASE」を拠点に活動しています。また、北見市では「働く場所と住む街を社員が決める時代」であると考えて、企業のみならず、都市圏で働く個人に対して北見市の魅力を積極的にアピールしています。

 「雇用する企業に対する気づかいも欠かせません。北見市に移住した社員1人あたり年20万円、最大5年間に100万円の雇用補助金の支給を開始しています。また、オフィス賃料や航空運賃の補助など、さまざまな制度を用意しています」(前田氏)

 北見市は「KITAMI BASE」を活動拠点に、「地方創生テレワーク」を推進することで、さらなる移住・定住者の増加を期待しています。

 「現在は、首都圏と地方がシームレスに繋がっている時代であると考えています。本市では、道東の大自然にIoTが浸透した満足度と利便性の高い生活環境とライフスタイルの実現に向け、引き続き地方創生テレワークを通じIT企業の誘致に取り組んでまいります」(前田氏)

 テレワークとの親和性の高さなどから、IT企業に特化した「地方創生テレワーク」の可能性を追求する北見市の試みは、同様の悩みを持つ多くの地方自治体にも有効なモデルとなるのではないでしょうか。

連携企業の取り組み① 株式会社アイエンター

IoT、AI、VRなどの先端技術を取り入れながら、さまざまなDX課題に対する解決、開発をワンストップで対応している。

働き方の多様性をテレワークが実現

U Xソリューション事業部
部長 相原 健治氏

 近年、同社では将来育児や介護などのライフイベントに向き合う社員数の増加を想定して、継続的な就労を実現するための「働き方の多様性」を模索していたこともあり、2015年に北見市が行った総務省「ふるさとテレワーク推進事業」の実証事業に参加しました。

 「実証事業に参加して、地方創生テレワークが大変有効な手段だと認識しました。実証では多くの社員が東京と北海道間でテレワーク業務を体験し、通勤ストレスからの解放など多くのメリットを実感するとともに、招待した家族と一緒にレジャーを楽しむ時間が生まれるなど、従来の仕事量をこなしながらワークライフバランスに優れた働き方を満喫しました。特に当社のようなICTの活用を不可欠とするIT企業とこのスキームの親和性は高く、北見市との事業連携を決定しました」(相原氏)

北見市出身の「サケモデル」がシステム開発を遂行

北見市の地方創生テレワークの一大拠点「KITAMI BASE」

 同社では現在、サケモデルとして東京から回帰した北見市出身の中堅を中心とした6名の社員が、「KITAMI BASE」を拠点に働いており、今後さらに規模の拡大を想定しています。6名の社員はテレワークを活用して、東京で担当していたシステム開発を遂行しながら、地域活性化のための新規事業にも積極的に関わっています。

 「当社はフレックスタイムを採用するなど、地方創生テレワークならではのワーケーション的な働き方を実践していますが、やはり遠隔地だけに東京とのコミュニケーション面と業務の生産性管理には気を使います。ICTツールによる勤怠、生産管理を常時行い、リスクを最小限に抑えるための改善を常に心がけています。また、当社は以前からコミュニケーション面を非常に重視しており、グループや所属組織間でのWeb会議での情報交換は欠かせない日課となっています。グループ朝会や開発会議から上長への報告に至るまで、テレワークは一日の業務にフル活用されています」(相原氏)

地方創生テレワークから生まれた多彩な成果

 同社はテレワークの活用で、社員や研究パートナーの居住地域にとらわれずに、ベストのプロジェクトメンバーを組んでおり、特にKITとの共同研究で開発した、カーリング選手の姿勢をAIで画像解析し身体的技術向上を図る「カーリングの姿勢推計システム」は、まさに「地方創生テレワーク」があってこその成果だと言います。

 「カーリングについては、北見市出身のKIT卒業生で平昌冬季五輪男子カーリング競技の代表である平田 洸介が、サケモデルの一人として『KITAMIBASE』で勤務しています。彼は北見市で活動する社会人、学生で結成されたカーリングチームの中心選手としても活躍しており、当社もメインスポンサーとして活動を支援しています。これもまた、テレワークを通じて生まれた地方創生の好例だと自負しております」(相原氏)

テレワーク拠点をさらに充実させ都市圏と地域をより快適に結びたい

 「KITAMI BASE」は、地方創生テレワークの拠点として、宿泊とワーキングスペース一体型施設で、同社が運営もしています。多くの地域住民や著名なインフルエンサー、ビジネスパーソン、起業家などが、この場所をワーキングスペースとして利用しており、テレワークで都市圏とつながりつつ、日々新しいイノベーションが誕生しています。

 「最近では地元のシステム会社との協業がスタートするなど、『KITAMI BASE』を核とした地域コミュニティも生まれており、施設の機能をさらに発展させていきたいと考えています。同時にワーケーションの一等地である、北見市自体の魅力も全国に発信して行きたいですね」(相原氏)

連携企業の取り組み② 株式会社 要

Web/オープン系アプリケーションの開発・設計を得意とし、金融系、生損保系、通信系、医療系など幅広いジャンルでシステム開発に携わっている。

アメリカの導入事例を目の当たりにして「地方創生テレワーク」への参入を即決

 同社が北見市に事業所を開設したのは、2015年に北見市で開催された総務省「ふるさとテレワーク推進事業」への参加がきっかけでした。サテライトオフィスでの実証事業で、アメリカの世界的通信企業が北見市と本国間をテレワークで結び、何ら違和感なく業務を遂行している光景に驚いた経営陣は、北見市との事業連携を即決しました。サケモデルにも当初から参画しており、2016年から9名のKITの学生を採用し現在東京で育成しており、将来の北見事業所への遡上が大いに期待されています。

Iターン広報と地元採用の経理担当者がワーケーション業務を遂行中

コーポレートデザイン部
佐野 卓矢氏

 現在、同社では広報担当者と経理担当者の2名が、「KITAMI BASE」を拠点に業務を遂行しています。

 「広報担当の私は千葉県出身のIターンで、当社が発行しているオホーツク地区のWeb情報紙『北見経済新聞』の取材執筆が主な業務です。取材対象が多岐にわたりますので、学生やシニア層記者の募集を開始するなど、地域雇用の創出にも取り組んでいます。経理担当者は繁忙期にはフルタイム、それ以外の時期は週2~3日、一日5時間の勤務体制で、東京本社とテレワークでやり取りしながら経理書類の作成に当たっています。経理担当者は幸いパートナーが北見市出身だったことで、5年前に北見市に引っ越しました。
 私も経理担当者も、北見市の地方創生テレワークのおかげで、通勤時間が半分以下になりストレスから解放されましたし、名物の焼肉や海産物を堪能するなど、自然に恵まれた土地でワーケーション的な働き方を満喫しています。時に故郷を思い出し、寂しさを感じる瞬間もありますが(笑)」(佐野氏)

KITと共同開発したアプリが全国的に注目を浴びる

本社メンバーと楽しむオンラインランチ会

 同社では昨年、KIT交通工学研究室との共同研究を経て開発した、道路維持管理システム「セーフロードV」が商品化されました。機器を車両に取りつけて走る、従来の方法よりも簡易かつ低コストで道路の凹凸などが把握できるアプリケーションで、北見発の技術の全国展開が期待されています。

 「セーフロードVは、東京本社とKITがテレワークでつながりながら3年に及ぶ共同開発の末に完成したものですが、私たち北見市の社員も本社メンバーと連携作業に取り組んでいます。二人とも朝礼での本社サイドとの認識や情報の共有を日課としており、時にはオンラインランチ会を開催するなど、現実的な距離感を感じさせない『地方創生テレワーク』を通じた遠隔勤務社員のエンゲージメントの維持や、チームビルディングにも余念がありません。今後は北見市での経験を糧に、ほかの地域でも優れたスキルを持つ人材の発掘や雇用を通じて、地方創生に貢献して行きたいと考えています」(佐野氏)

※1 コワーキングタイプ
業種の異なる人々が、事務所スペースや会議室、打ち合わせスペースなどを共有しながら、それぞれ独立した仕事を行うスタイル。
※2 RPA
Robotic Process Automationの略で、作業者がパソコン上で行う業務をソフトウェアで自動化するテクノロジーのこと。
※3 ハッカソン
エンジニアやデザイナー、マーケッターなどがチームを編成し、与えられたテーマに対してそれぞれのノウハウを発揮して成果を競い合うイベント。
組織名 北見市役所
所在地 北海道北見市大通西3-1-1
URL https://www.city.kitami.lg.jp/
会社名 株式会社アイエンター
設立 2004年(平成16年)9月
本社所在地 東京都渋谷区渋谷2-14-10長沼ビル5階
代表取締役 入江 恭広
URL https://www.i-enter.co.jp/
会社名 株式会社 要
設立 2010年(平成22年)7月
本社所在地 東京都千代田区麹町2-2-3VORT半蔵門Ⅱ 8階
代表取締役 田中 恵次
URL https://www.kanamekey.com/
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