電話応対でCS向上コラム

第93回 「AI時代の電話応対教育」

記事ID:C10035

8月号で、ある企業でのAIオペレーターの応対模様をご紹介しました。この応対例を聴いた時に、私自身、AIコールセンターの普及は想像以上に速いのではないかと思いました。しかし、そう単純には行かないようです。インバウンドの仕分け程度はできても、メンタルな要素の多いやり取りを任せるには、AIにはまだ多くの隘路あいろ※1があるようです。また一方で、人間オペレーターに求められる能力も機能も変わってくるでしょう。今回は、期待度の変わる人間オペレーターの応対力、その教育の方向について、改めて考えます。

人間の応対者は成長して生き残る

 電話応対におけるAIオペレーターと人間のオペレーター。この両者は、決して競合する存在ではなく、全く別物と考えたほうが良さそうです。今は過渡期の問題が多々あるにしても、AIオペレーターはきわめて効率的に応対の幅を広げて行くことになるでしょう。
 問題は、これからの人間オペレーターのあり方です。これまで皆さんが努力してこられた応対スキルやマニュアルは、AIオペレーターは苦もなく習熟するでしょう。そして関連するITツールもさらに進歩するでしょう。「私たちはどうなるのでしょう?」という不安の声も聞きます。しかし、人間オペレーターがいなくなることは決してないと思います。むしろ、従来より高度なコミュニケーション能力を身につけたプロとして、数は減ってもそのステータス、存在価値が高まるのではないかと私は考えています。

人間に期待される四つの能力

 「御社は社員にどのような能力を求めますか?」この問いに対して、ほとんどの企業の経営者はこう答えました。「コミュニケーション力です」と。それはほんの数年前のことです。
 未曾有のコロナ禍は、私たちを三密で縛り、人と人との接触を遠ざけました。テレワークやオンラインが常態化し、コミュニケーションの必要性に思いを致さなくなったのです。これは大変危険な状況だと思います。
 さらに進化したAI時代がすぐにやってくるでしょう。その到来を見据えた時に、人間オペレーターもまたさらに進化しなければならないのです。そのために磨かなければならない能力とは何でしょうか。それは当面はAIには無理と思われる以下の「四つの能力」です。

①判断力:膨大な「手」を記憶させる囲碁、将棋ならいざ知らず、AIには判断することは無理でしょう。人間が判断するには情報が要ります。情報はお客さまが持っています。その情報を聴き取り、訊き出す力がまず必要です。その上で、保有している確かな業務知識、経験が活きて、正しい判断に導いてくれます。
②インプロ力※2:AIの応対に不満を持つお客さまがいます。そこでは想定外の質問にも柔軟に対応できる応対力が必要です。怒っているお客さま、絡んでくるお客さま、あえて難題を持ち込むお客さま、精神的に不安なお客さま、酒に酔っているお客さま。それらの問題ありのお客さまに対して、動揺したり怒らせたりすることなく、会社の誇りを守りつつ、機転をきかせて柔軟に対応できるのがインプロ力です。
③説明力:的確な回答を持っていても、説明力が下手では伝わりません。説明力の弱さは、日本人の負の特質でもあります。書き言葉中心だった積年の日本語教育がもたらした弱点です。この力の強化は、これからの人間オペレーターに求められる重い課題です。
④人間力:「人間力の大切さは分かるのですが、それをどう指導すればよいかが分かりません」何人もの方からそう言われました。人間力を理屈や知識で伝えるのは容易ではありません。大事なのは経験です。その話に感動し共感した時に、聞き手の心は動きます。「この人と話せて良かった」「この人のようになりたい」「そのように行動したい」そう思った時に、聞き手は成長します。感動を心に届くように話せる音声表現力を磨いてください。言葉中心であったこれまでの電話応対教育では、軽視されてきた訓練です。

努力のベクトルを話し合ってください!

 今のIT社会は、私などにはとても追いつけない速さで動いています。私の推測とは違う展開をするかもしれません。しかし、以上四つの能力を備えた人間オペレーターの教育は、否応なしの変革を迫ってきたウィズコロナの対応と合わせても、喫緊の課題だと私は思っています。皆さんの所属する会社が、組織がどうお考えになるか、事情はさまざまでしょうが、ぜひお仲間と話し合ってみてください。

※1 隘路あいろ:物事を進める妨げとなる困難な問題。
※2 インプロ力:インプロとはインプロヴィゼーションの略。シナリオやマニュアルにはない「アドリブ」のこと。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会委員。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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