企業ICT導入事例

-NTTサービスエボリューション研究所-
ベテランの「暗黙知」を見える化し、確実に継承

NTTサービスエボリューション研究所は、ベテラン技術者の技能継承を独自の手法で確立。将来的な人工知能化とロボットへの搭載も視野に入れています。

【導入の狙い】ベテランの持つ「暗黙知」を確実に継承したい
【導入の効果】「暗黙知」の見える化で精緻なマニュアル作りに成功

ポイントはベテランの持つ「暗黙知」

▲ユニバーサルUXデザインプロジェクト 主幹研究員・定方 徹氏

団塊世代の退職にともなう「2007年問題」に端を発する“ベテランの持つ技能の継承”は、日本の企業社会の大きな課題となっています。生産工程従事者を例にとっても、総数901万人のうち、50歳以上は239万人、率にして26.5%(出典:総務省統計局「平成26年労働力調査年報」)。向こう10年ほどのうちに引退時期を迎えるこれらベテラン層の技能が確実に継承されなければ、企業の技術力は大きく低下してしまうのです。

「2011年に2万人超が在職していた保守担当が、2021年には半減するというNTT西日本の試算もあり、私たちNTTグループにとっても、そうしたベテランの技能を確実に継承する策が求められていました。そこで私たちは、行動観察やインタビューの解析により、分かりやすいウェブサイトや使いやすいスマートフォンにふさわしい“理想的なデザイン”を追求する『UI/UX(ユーザーインターフェイス/ユーザーエクスペリエンス)』の手法を用い、この課題に取り組んだのです」(村山氏)

これまで技能の継承は、ベテランによるマニュアルの整備やOJTにより行われるのが一般的でした。しかし仔細に調べてみると、それでは不十分という事実が浮かび上がってきました。

「ベテランへの『マニュアルを作ってください』という依頼では、作業の流れや工具の使い方などが中心となり、自らの経験から習得した『準備すべき事柄』『注意すべきポイント』『心構え』が抜け落ちてしまいがちだったのです。つまり、経験から身についた『暗黙知』が、マニュアルには生かされず、そのまま消滅してしまうのです」(村山氏)

「かつてはOJTが技能習得の大きなステージでした。しかし業務が細分化し、また多くの協力会社がともに現場で作業にあたる現在では、旧来の『先輩-後輩』のセットで動くことはまれとなり、OJTの効果は限定的となっていたのです」(定方氏)

研究所のチームは、これら従来の技能継承の方法にとらわれない新たな手法を、NTT西日本との共同作業の中で模索しました。

「ベテラン同士の対話方式、若手を交えた実技やロールプレイングなど、さまざまな手法を試しました。ベテラン技術者の頭部にウェアラブルカメラを装着し、ベテランの視線からノウハウを抽出する実験を試みたこともあります。そして最終的にたどりついたのが、ベテランと若手によるワークショップを中心とした暗黙知抽出の手法です。私たちはこれを『技能抽出・コンテンツ化技術MEISTER(マイスター)』と名づけました」(定方氏)

質問カードが「見える化」を支援

▲若手がベテラン技術者の普段意識していない知識を引き出すツール「質問カード」

「MEISTER」では、ベテラン3~4名、若手1名、そしてワークショップをコントロールするファシリテーターが1組となり、ディスカッションを行います。

「当初はベテランと若手との自由なディスカッションから『暗黙知』を引き出そうと試みました。しかしそうしたやり方では、ベテランが自身の考えを長々と述べる一方、若手は疑問点を抱いても『聞くと叱られるかも』と萎縮して発言が少なくなってしまい、良い結果に結びつかなかったのです。そこで進め方を改め、ベテランの発言時間はファシリテーターがコントロールし、若手は『もっと詳しく教えてください』『そのためにどんな情報を収集していますか』などの質問が書かれたカードで問いかける方式としました。これで若手はより自由に発言できるようになり、ベテランの『暗黙知』の深掘りが可能になりました。そしてベテランの発言内容はディスカッション後に細分化して分析するため、付箋紙を使い個別に記録します」(村山氏)

▲ユニバーサルUXデザインプロジェクト 研究主任・村山 卓弥氏

こうした質問カードを使ったディスカッションを終えると、浮かび上がってきた個々の業務について、行動の理由を探り、明確化する「深掘り」に移ります。そして最終的に、ベテランの暗黙知が見える化され、理想的なマニュアルとして整備されます。このようなワークショップを通じたベテランの持つノウハウの洗い出しという手法は、効率的な技能伝承を求める中小企業にも、大きなヒントとなるはずです。

「今はNTTグループ内で技能継承への活用がスタートしたばかりですが、他社から引き合いがあれば、パッケージとして提供できる段階にあると考えています」(定方氏)

そして近い将来、この研究は「MEISTER」を人工知能へと進化させ、ロボットに搭載することになると、村山氏は語ります。ICTを基盤としたUI/UXの活用は、人の技術を見える化して、“人から人へ”の技術伝承を可能とするだけでなく、ロボットへの技術移転という新たな地平も切り拓くことになるのです。

会社名 日本電信電話株式会社
設立 1985年(昭和60年)4月1日
所在地 東京都千代田区大手町1-5-1 大手町ファーストスクエア イーストタワー
代表取締役 鵜浦 博夫
資本金 9,380億円
事業内容 NTTグループの統括・調整基礎的研究開発
URL http://www.ntt.co.jp

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