企業ICT導入事例

-久野金属工業株式会社-
モノづくりの未来に挑戦する金属プレス部品メーカーのICT戦略

PHV(プラグインハイブリッド車)など、次世代自動車の性能を左右する基幹部品のプレス技術で圧倒的な競争力を誇る久野金属工業株式会社。自社開発の基幹システムやホームページ、あるいはクラウドサービスを使い分けながら活用することによって、自動化とコスト削減、顧客獲得を推進し年々業績を伸ばしています。「日本のモノづくりを支えたい」との志も高く、未来に向かってAI(人工知能)やIoT※1にも挑戦しています。

【導入の狙い】自動化、省力化、低コスト化を進めつつ、技術競争力のさらなる強化を図る。
【導入の効果】次世代自動車向け部品の顧客獲得。開発したシステムの外販にも取り組む。

業績を伸ばしてきた競争力の源泉はICTの徹底活用

▲専務取締役 兼 CIO・久野 功雄氏

今年創業70周年を迎える久野金属工業株式会社は、愛知県西部の常滑市・久米南部工業団地に本社・工場を置く金属加工メーカーです。同社は自動車をはじめとするプレス部品の工法開発から製品設計、金型設計・製作、プレス加工及びその後工程の機械加工や溶接などの二次加工まで一貫して行っています。特に難加工部品や高精度部品などの高付加価値製品を得意としています。

加工部品メーカーに限らず、日本の製造業の多くが激化する国際的なコスト競争にさらされ、製造拠点を海外に移してきたにも関わらず、同社はあくまで国内にとどまり、しかも着実に業績を伸ばしています。なぜ、それが可能だったか、同社の専務取締役兼CIOである久野氏が語ります。

「他社が追随できない技術力と自社開発の設備で付加価値の高い製品を作ることができたからです。自動車のティアワン(Tier1:一次サプライヤー)各社のお客さま及びパートナー企業とともに、時代の先を見極めながら経営資源を投入してきました。大げさな言い方かもしれませんが、私たちは日本のモノづくり、製造業を支える存在でありたいと願っているのです」(久野氏)

そして同社の技術競争力の源泉は、「1980年代にFA※2用ロボットを自社開発して以来続いているICTの徹底活用にある」とも語ります。

ICT活用の基本方針は「熟練技(人)×ロボット×IT」

▲TPSカメラで現場を撮影。作業改善を図ります

同社のICT活用は、生産管理などの基幹システムからホームページまで、自社専用に開発されたシステム群と、営業や経理などに用いるパッケージあるいはクラウドサービスを活用するシステム群とを組み合わせています。自社用システムを開発しているのは、同社の関連会社(マイクロリンク社)です。

「ICT活用の狙いは、まず製造工程の徹底的な自動化を図り、人が考える仕事に集中できるようにすること。次に職人技のカン・コツもノウハウを仕組みに置き換え、人への依存度を10分の1にすること。そして、省力化・省人化につながるコストダウンの工夫は躊躇なく進めること、という方針のもとに行っています。いわば『熟練技(人)×ロボット×IT』の融合です」(久野氏)

その一例として現場で見せてくれたのは、「TPS(トヨタ生産方式)カメラ」と呼ぶ自社開発のシステム。これは作業者の動きをiPhoneやiPadで撮影し、各工程に要する時間をタイムスタンプで計測しながら作業改善に役立てるものです。

「これはアプリケーションとしてAPPストアで市販しています。同じ悩みを持つ同業者にも役立ててほしいし、開発費の回収にもなるからです」(久野氏)

同社では、仕入先管理用のEDI(データ交換)システムなども自社用に開発。使い込んで洗練したシステムをマイクロリンク社経由で同業者にも公開・販売しています。

ホームページやSNSも活用して顧客ニーズを敏感にキャッチ

同社のICT活用の徹底ぶりは、ホームページやFacebookからもうかがえます。例えば「大型モーターハウジング※3」で検索すると、1位から4位まで同社の情報が並んで表示されるのです。これはSEO対策※4がなされているからです。

「今、自動車業界はPHV、さらには自動運転技術など次世代を見越した技術開発に全力をあげています。そのカギを握るのが基幹部品であり、PHVのモーターを固定して動力を効率良く伝えるのはハウジングの加工精度なのです。パワーアップするには高精度の大型モーターハウジングが必要だが、どこに頼めばいいのかと技術者は迷っています。そこで大型・高精度部品の深絞りや穴あけ、一体成型の技術資産がある当社に発注してもらえるのです」(久野氏)

クラウドサービスの活用も徹底しています。例えば名刺管理ソフトで顧客情報を共有することによって、営業担当でも把握していなかった顧客のキーパーソンを見つけることができるようになりました。また社内SNSによるクラウド会議室やグループウェアで同僚と営業のドキュメントや互いのスケジュールも共有することによって、情報伝達のタイムラグがゼロになり、営業日報も廃止しました。

このように顧客ニーズを敏感にキャッチし、業務を効率化するICT施策を進めた結果、この2年間に同社の売上高は20%伸び、特に次世代自動車向け部品の売上比率も25%超、新規獲得した顧客数も24社にのぼっています。

AIとIoTの活用が進めば「あと戻りできない次元に入る」

2016年12月、同社は金型部品の平面研磨工程にIoT技術を導入しました。これは各種工作機をつなぎ、センサーで稼働状態の監視や分析を行い、加工結果と照合しながら精度と時間短縮の最適化を図る仕組みです。

「成果はまだ見えていませんが避けられない挑戦だと思っています。IoTを使いこなすには、試行錯誤から学習するディープラーニングなどAIの技術も必要です。簡単な仕事だから機械に任せるという発想では追いつかない。AIが発達すれば、人間の能力を超えて“あと戻りできない次元に入る”と言われていますが、私たち基幹部品メーカーこそ、それに対応できるようにしておかなくてはならないと思っています」(久野氏)

“あと戻りできない次元”とは、専門家の間で「シンギュラリティ(Singularity)」または「技術的特異点」と呼ばれるもので、AIが人間以上の処理能力と創造性を発揮し、製造工程や経営のあり方も超効率化し、産業構造も変えるという節目のことです。この予測を軽視せずにできることから備えておきたいという久野氏の経営姿勢はまさに先駆的と言えるでしょう。

※1 IoT:Internet of Thingsの略。産業機械から消費材まで日常を構成している「モノ」が相互接続するネットワーク。
※2 FA:Factory Automationの略。工場や生産現場の自動化。
※3 大型モーターハウジング:大型モーターなどを包み、保護する箱形の部分。
※4 SEO対策:検索エンジンの最適化により、GoogleやYahooなどの検索エンジンでホームページを上位表示させる対策のこと。

会社名 久野金属工業株式会社
創業 1947年(昭和22年)1月
所在地 愛知県常滑市久米字池田174(久米南部工業団地内)
資本金 8,000万円
代表取締役社長 久野 忠博
事業内容 自動車用及び産業用部品の設計・開発、金型製作、プレス加工、溶接、組立、機械加工、表面処理
URL http://www.kunokin.com/

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