企業ICT導入事例

-社会福祉法人みなの福祉会-
人手不足時代の頼れる救世主 ロボット&ICTによる介護の質向上と職員の負担軽減

記事ID:D20023

緑豊かな埼玉県秩父郡皆野町で、老人福祉施設を運営する社会福祉法人みなの福祉会は、介護ロボットやICT機器を現場に積極的に導入し、業務改善や介護の質向上に有効活用しています。同法人にて介護ロボットを導入した統括施設長の大隝(おおしま) 徹氏に、導入当初の苦労話から現在得られている成果、そして今後の展望などについてうかがいました。

介護職の職業病・腰痛にロボット導入で対応

統括施設長 大隝(おおしま) 徹 氏

 社会福祉法人みなの福祉会は、特別養護老人ホーム(特養)、軽費老人ホーム(ケアハウス)、老人デイサービス、居宅介護支援などを展開する高齢者介護事業者です。現在約170名の施設利用者を、介護職や事務職など約80名のスタッフで支えていますが、介護ロボットやICT機器の積極活用で業務改善を実現し、介護の質向上に効果を発揮しています。

 「介護職員はおむつ交換や入浴介助、車いすへの移乗介助など、腰に負担がかかる業務を多くかかえています。当施設の職員も約半数が腰痛に悩んでおり、整体や腰痛防止ベルト、ラジオ体操など、さまざまな対策を講じる職員がいますが、効果はもうひとつでした。そこで2015年に埼玉ロボットニーズ研究会に参加して介護ロボットの有効性に着目し、国や県の交付金、補助金を利用して2017年から介護ロボットの導入を開始しました」(大隝氏)

ベッドから車いすへ移乗介助するといった、腰への負荷が大きな業務に欠かせない介護ロボット

 介護ロボットとは、施設や在宅での高齢者の生活支援や介護者の負担軽減のために開発されたロボットで、センサー、駆動部、知能・制御部を備えた機器の総称です。同法人が活用している介護ロボットは、介助の際に職員の腰部に装着するもので、脳から筋肉に送られる生体電位信号を電極パッドが感知し、持ち上げたい、立ち上がりたいなどの運動意思に沿って自然に身体をサポートしてくれます。自分の力の約3割程度のアシストが得られると大隝氏は言います。

 「特養では主に(施設)利用者のおむつ交換時に使用しています。交換時は1人の介護職員が約20名のおむつを取り替えます。中腰の姿勢で利用者の身体を持ち上げる作業は腰にかなりの負担がかかるため、ロボットのアシストは本当に助かります。介護職員からは『今までは途中で痛む腰を伸ばしながら続けたが、その必要がなくなった』『夜勤業務を終えるといつも疲労感が大きかったが、介護ロボットを使用するとまだ元気が残っていると感じるようになった』などの言葉が聞かれます」(大隝氏)

自立訓練に励む利用者も、ロボットの効果を実感している

 また、デイサービスでは利用者の筋力回復や自立支援を目的にロボットを活用しています。立ち座りなどの動作を繰り返し、身体が思い通りに動くようにサポートするもので、付属モニターでグラフ化された身体状況を、機能訓練指導員と本人がその場で確認しながら訓練に励む姿が見られます。体験者からは、「疲れずに訓練が行える」「腰・膝の痛みがなくなった」などの声が聞かれるそうです。先日体験した利用者(つえ歩行、歩幅が小さく転倒リスク大。幼少期に肺の病気があり息切れしやすい、脳梗塞の既往症により長距離の歩行が困難)からも「疲れずに訓練が行える」「動悸がしなくなった」「腰・膝の痛みがなくなった」などのコメントが寄せられました。

 「導入初期には新技術ならではの苦労もありました。使いこなすには練習が必要で、ロボットと自分の動きのマッチングに時間がかかるため、中にはマスターする前にあきらめた職員もいました。また、電極パッドが剝がれやすくエラーが発生するなど、使う人にストレスを強いるケースも散見され、メーカーに改善を期待したい点は多くあります。今後、介護業界やメーカー、公的機関などが一体となって研究することで、より使い勝手に優れたロボットが開発されるのを願っています」(大隝氏)

センサー搭載ベッドが利用者の安全を見守る

 特養では、自立が難しい利用者の転倒や転落事故を未然に防ぐため、身体の動きをセンサーで感知して介護スタッフに通知する、「見守り型ベッド」の導入も進んでいます。以前に導入していたマット型センサーは、人がベッドから起き上がり床に足をつけてから動きを感知するため、職員が訪室した時にはすでに転倒していたなどの問題がありました。しかし、新しく導入した見守り型ベッドは寝返りなど離床前の動きを感知して通知するため、事故などを防ぎやすくなったと言います。

  • 脚部にセンサーが据えられたベッドとカメラ。全7 8床のうち、センサーのついたベッドが1 0台、さらにカメラと連動したもの4台の、合計14台導入している

 「現在、利用しているセンサーは動き出しや起き上がりなど動作に対する感度を調整できるため、利用者の状態(危険度)に合わせて設定しています。しかし、特に注意が必要な利用者は感度を高く設定しているため、コールが頻繁に鳴り、そのたびに訪室しなければなりません。それでは業務負担が増大しますので、そういった場合はカメラと連動しWi-Fiで画像確認が可能なタイプを利用するなど、利用者の状態に合わせてより繊細な見守りができるように取り組んでいます。利用者、介護職員双方のストレス軽減に貢献しています」(大隝氏)

ビジネスチャットツールで情報共有精度が格段に向上

I C Tの活用でいつでもどこでも施設の情報が確認可能になった

 同法人はビジネスチャットツールなど、ICTの活用にも積極的に取り組んでいます。

 「チャットツールにより、時間や場所を問わずに全職員とのコミュニケーションがスマホで可能になりました。おかげで、掲示板でのお知らせや職員個々への電話連絡などが不要になり、情報共有の精度が格段に上がりました。チャットツールの導入がすんなり進んだのは、ユーザーインターフェースが普段から親しんでいるSNSに近いことも大きかったと思います」(大隝氏)

 現在はチャットツールとGoogleスプレッドシートを連携させ、利用者個々の状況(食事摂取、入浴管理、排便状況、観察記録など)や、職員の勤務表、シフト情報などの職場の状況確認が24時間可能になり、職場環境は大きく改善されたと言います。これからも積極的にロボットやICTを活用したいと語る大隝氏ですが、テクノロジーの進化により、さらなる省力化と業務改善が進むことを期待していると言います。

 「今後、要介護人口はますます増加し、人手不足や職員の負担増がより深刻になりそうです。しかし、幸いにもAIの進化が目覚ましいため、記録関係などの一部業務はAIに代替し、職員の負担を大きく軽減していけるのではないかと考えています」(大隝氏)

 ロボットやICTを現場の省力化だけでなく、働きやすい職場づくりにも活用する同法人の取り組みは、人手不足や職員の離職に悩む多くの企業にとって、有益な導入事例となりそうです。

※ Googleスプレッドシート
Google社が提供している表計算ソフトのこと。Excelのようにソフトをパソコンにインストールして使用するのではなく、インターネットを介して使用するWebアプリケーションの一種。
法人名 社会福祉法人みなの福祉会
設立認可日 1993年(平成5年)
主たる事務所の所在地 埼玉県秩父郡皆野町下日野沢3906番地3
代表者 山中 章司
実施事業 第一種社会福祉事業、第二種社会福祉事業、公益事業
URL https://minano-fukushikai.jp/
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