企業ICT導入事例

-徳島県立海部病院-
徳島県の過疎地域の医療を救う「5G遠隔医療」の可能性

記事ID:D20008

大容量のデータ通信の可能性を広げる第5世代のモバイルデータ通信「5G」※1を活用し、私たちの生活の質を向上させる試みがさまざまな分野で始まっています。例えば、医療分野。徳島県では5 Gの特長を活かし、糖尿病診療や内視鏡検査などの高精細映像を病院間で送受信して診断や治療・手術支援を行う「5G遠隔医療」を展開しています。今回は、同医療を推進する徳島県立海部病院の影治 照喜副院長に話をうかがいました。

過疎の問題を抱える徳島県が目指す5Gによる医療革命

徳島県立海部病院
副院長 影治 照喜氏

 徳島県は株式会社NTTドコモと「とくしまSociety5.0実装に向けた連携協定」を結び、5G、IoT、AIなど最新のICTテクノロジーを駆使して地域の課題解決に取り組んでいます。その大きな柱となっているのが、複数の県立病院を結ぶ5Gによる遠隔医療です。
 まず、2020年1月より徳島市にある県立中央病院と約80km離れた県立海部病院を5Gで結んだ「遠隔医療」実証実験を日本で初めて実施。その結果を受け、2021年3月に県西部にある県立三好病院を加えた3病院へ5G遠隔診療支援システムを整備しました。県立海部病院の影治 照喜副院長は「5Gによる医療革命が地域における医療格差の救世主となることを期待しています」と語ります。
 「徳島県の過疎地域は県域面積の72%にも及び、その多くの地域で高齢化が進んでいます。特に当院(県立海部病院)がある県南部の海部郡は非常に過疎化が進んだ地域で、高齢化率も全国平均より約20 % も高い49.6 %(2020年)に達しています。このような状況の中、過疎地域の病院は深刻な医師不足に直面しています。当院も2003年には18名いた常勤医が今やその1/3にまで減少しました。特に脳神経外科医など専門医の数が不足しています。その結果、遠方への通院が困難な高齢の患者さんには、経済的、精神的、肉体的負担をかけるケースが多くなっています。そのため、近年は徳島大学病院から専門医の救援を依頼し、車で往復4時間の距離を医師自らの運転で来院していただくなど、大変な負担をかけながらなんとか地域のニーズに応えるよう頑張ってきました」(影治氏)
 しかし、こうした医師不足を改善していくために必要な若手医師の確保も困難で、研修医も都市部の病院に集中し、地域医療を担う医療機関を研修先に選ぶ医学生が減少しているため、過疎地域と都市部の医療格差がますます広がる悪循環に陥っています。

実証実験に参加した医師など全員が高評価を与える

 このような状況の中、専門医が多い都市部の病院と高速・大容量で低遅延が特長の5Gで接続した遠隔医療によって、地域医療の課題を解決できないかという問題意識のもと、実施された昨年の実証実験では、地域の期待に十分応える結果がもたらされました。
 1ヵ月間にわたって行われた実証実験(図1参照)では、実際の患者さんの協力を得ながらシミュレーターを使用して、4K※2画像を用いた遠隔糖尿病外来や手術内視鏡、救急救命支援などを試みました。参加した計56名の医師などによるアンケート調査では、4Kのハンディカメラ画像と内視鏡画像、ハイビジョンの超音波画像と内視鏡画像ともに全員が高評価でした。画像のクオリティが高く、患部を実際に見ながら行う対面診療と遜色のないレベルで診断できることに、医師たちは大きな驚きと感動を味わったのです。システム全体に対しても全員が「診療向上に寄与する」と積極的な評価を与え、医療従事者の間に臨床導入への大きな期待が高まりました。また、実験に参加した患者からも「徳島市まで行かなくても専門の先生に受診できるのはとても助かる」「遠隔でも対面とそれほど変わりなく、安心して診てもらえた」と好評でした。
 もちろん、実際に遠隔医療支援システムを導入するにあたっては解決すべき問題もありました。最も大きな問題は、接続の際に複雑な専門機器のセッティングを技術職員が数日を要して行っていたことでした。そこでNTTドコモ四国支社の協力を得て、5G対応のライブ中継システムを導入。これにより、病院の一般職員が10分程度で簡単に通信のセッティングができるようになり、本格的な臨床導入が可能になりました。

5G遠隔医療の今後の展開

 2021年8月からは、遠隔糖尿病外来や遠隔内視鏡支援に加え、徳島大学の医師の協力を得て遠隔形成外科外来がスタートするなど、徳島県は今、5Gによる遠隔医療の本格展開に向けて大きな一歩を踏み出しています。現在、徳島県では遠隔医療に使われているNTTドコモの閉域網を利用したキャリア5Gに加えて、ローカル5G※3がすでに構築されています。影治氏は「基幹医療機関をローカル5Gで結び、キャリア5Gで基幹医療機関と各地域の病院・クリニックや患者さんをつなぐ取り組み(図2参照)を、今後の展開の一つとして考えたい。また、これまでの遠隔医療の実績をベースに、救急救命支援や台風・地震時の災害支援にも5G通信のメリットを最大限に活かしていきたい」と、抱負を語っています。そしてこれまでの遠隔医療のトライアルを通して「医師と患者の信頼関係」の重要性をあらためて痛感されたそうです。離れた場所にいても対面と遜色ない診療や治療を可能にした5G遠隔医療は、医療従事者の心身の負担を減らし、患者一人ひとりとしっかり向き合うための〝ゆとり〟を生み出します。
 徳島発の5Gによる医療革命が、ますます高齢化が進む日本の医療にとっての救世主となる日も近いかもしれません。

※1 5 G:現在の移動通信システムの標準である4 Gの後継として登場した、第5世代移動通信システム(5th Generation)。「超高速」「多数同時接続」「低遅延」を実現して話題に。
※2 4 K:フルハイビジョンの約4倍の画素数を持つ解像度の高い次世代映像規格。2 0 1 8年12月から衛星放送での4K放送もスタートし、普及が進む。
※3 ローカル5G:通信事業者ではない企業や自治体が、一部のエリアまたは建物・敷地内に構築するセキュリティ性能が高い専用の5Gネットワークのこと。

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組織名 徳島県立海部病院
開設 1963年(昭和38年)4月1日
所在地 徳島県海部郡牟岐町大字中村字杉谷266
病院長 浦岡 秀行
URL http://tph-kaifu.pref.tokushima.lg.jp

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