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中小企業のDX戦略を考える全国中小企業クラウド実践大賞と受賞企業の取り組み

クラウド実践大賞実行委員会が主催し、総務省が共催、中小企業庁などが後援する「全国中小企業クラウド実践大賞全国大会」が、昨年12月10日にオンライン配信により開催されました。この大会の意義や評価、さらに受賞企業を代表して「総務大臣賞」を受賞した城善建設株式会社と、「クラウド活用・地域ICT投資促進協議会理事長賞」を受賞した株式会社太陽都市クリーナーの取り組みを紹介します。

全国の中小企業の参考となる事例が集まり多くの参加企業が高く評価

 クラウドサービスの活用は、労働人口の減少に伴う生産性の向上、働き方改革、さらにコロナ禍で普及が進むテレワークの実現など、中小企業が抱える経営課題を解決する大きなカギを握っています。そうした中、「全国中小企業クラウド実践大賞」は中小企業のクラウド事例を発掘し共有することで、中小企業のクラウド活用を後押ししています。
 参加企業は自社の取り組みを振り返る機会として、さらに自社のクラウド活用事例を社内外へのPR機会として活用しています。2021年度も、有益な内容となり、参加企業の大会満足度を調査したアンケートでは、約9割の企業が5段階評価で5や4と、高く評価しました。「参考となる実践が多かった」「同じような規模や課題を持っている団体のクラウド活用状況を知ることは大変有意義であり、今回も参考になった。自社のクラウド活用の通信簿をつけて今後の活動に活かしていきたい」などのコメントも見られました。
 次に、受賞企業の中から2社の取り組み事例を紹介します。

総務大臣賞受賞 城善建設の取り組み

DX化で若者に魅力ある職場環境を実現

IT情報システムマネージャ 和田 正典氏

城善建設株式会社 管理部

 建設業界は人手不足が慢性的な課題となっている中、城善建設株式会社も人材の空洞化という課題を抱えていました。そこで、生産性の向上や働き方改革を図るために、クラウドサービスを導入し、若者に魅力を感じてもらえる会社を目指してDX※1に取り組んでいます。

若者に魅力ある会社を目指してDXを推進
申請業務が「最短2日」から「最短10分」に

 建設業界の人手不足は深刻な問題で、2025年には約130万人が不足すると予想されています。今回、総務大臣賞を受賞した城善建設株式会社も例外ではありません。同社の和田 正典氏も、社内の高齢化が進み変革が求められていたと語ります。

 「建設業界は一般的にIT導入が遅れていると言われています。そのため生産性が低く、働き方改革も進まないことが若者の業界離れにつながっています。弊社も同様の問題を抱えていたため、『若者に魅力を感じてもらえる会社になろう』というテーマを掲げ、全社でDX推進に取り組むことになりました」(和田氏)

 同社のDX推進のリーダーとして取り組んだ和田氏が最初に心がけたことは、スモールスタート※2で汎用性が高いシステムを作ることでした。そして、現在は「AnyONE」※3「Box」※4「Slack」※5の三つのクラウドサービスを組み合わせたシステムを採用しており、紙ベースのアナログで行っていた各種申請業務などは、ペーパーレスでスピーディに実施できるようにしています(図参照)。その結果、導入前は最短2日かかっていた申請業務が、最短10分に短縮されたと言います。

 「ペーパーレス化により印刷用紙が月平均2万枚から1.15万枚にほぼ半減し、用紙代も大幅に削減されました。また、これまで平均2時間あった事務職の残業(繁忙期以外)がゼロになり、休日はゆったり過ごせるようになっています。さらに、お客さま一人あたりの契約にかかる時間も大幅に短縮されるなど、さまざまな効果が表れています」(和田氏)

 システムの導入・活用にあたって一番の障壁は、変革に対する社員の抵抗感でした。そのため、「システムを利用しろ!」と強制するのではなく、「このシステムを使えば、業務が楽になりますよ」と、極力新しい取り組みであることを意識させないよう心がけたと言います。

 「勉強会や説明会などは1度も実施しませんでした。理解度が異なる社員の皆さんに対して一律でレクチャーするのではなく、一人ずつシステムのメリットを実感していただけるようにコツコツ説明していきました」(和田氏)

「総務大臣賞」受賞はまったくの予想外 中小企業でも、地方でも、DXは可能

 今回の全国中小企業クラウド実践大賞に応募した理由について、和田氏は「まず、ITは大企業が活用するものという固定観念を払拭し、デジタルは身近で生活を豊かにしてくれるものというイメージを持ってほしいという思いがありました。その上で、“地方だから”“高齢だから”といった理由で、ITに対して拒否反応を示されている全国の中小企業の皆さんに、弊社の事例を発信したいと考えました」と言います。

 また、まったく予想外だったという「総務大臣賞」の受賞については「人手不足が慢性化している建設業界にあって、高齢化が進む地方の弊社が全員でクラウドシステムを活用し、収益向上や業務改善を実現していることが評価されたのでは」と分析しています。社員に負担をかけないよう、スモールスタートでコツコツと積み重ねて大きな成果につなげた同社の取り組みは、中小企業のDX推進において非常に参考になるのではないでしょうか。

クラウド活用・地域ICT投資促進協議会理事長賞受賞 太陽都市クリーナーの取り組み

クラウド導入で古い企業体質を一新

代表取締役 森山 直洋氏

株式会社太陽都市クリーナー

 株式会社太陽都市クリーナーは、廃棄物処理業務に携わっています。社会生活に不可欠な仕事でありながら、以前は社員のモチベーションは低く、災害などに対する事業継続の対策も不十分でした。それらの課題を解決すべく、クラウド化へ舵を切りました。

きっかけは2018年の西日本豪雨 事業継続の対策としてクラウド化を推進

 「クラウド活用・地域ICT投資促進協議会理事長賞」を受賞した株式会社太陽都市クリーナーは、広島県府中市で廃棄物処理事業を営んでいます。同社の社長・森山 直洋氏が15年前に入社した当時、同社は請求書が手書きで間違いも多く、連絡漏れや作業ミスなどでクレームやトラブルが多発し、社内はネガティブな思考が漂っていたといいます。このような状況の中、変革の必要性を感じていたところ、大きな災害が発生したことをきっかけに、クラウド化を強く決意したと、森山氏は振り返ります。

 「2018年7月の西日本豪雨では、府中市内に浸水被害や土砂災害が発生し、数週間にわたり災害廃棄物の撤去業務を行いました。この業務を通じて、我々の仕事は地域の環境保全と公衆衛生の向上に欠かせない、“止められない仕事”だと再認識しました。幸い、弊社は被害を免れましたが、社屋の前の河川が氾濫危険水位に達した時に、クラウド導入の必要性を痛感しました」(森山氏)

“遊び”を取り入れたクラウド導入で働き方に加えて企業風土を一新

 同社は手始めに「MoneyForwardクラウド」※6を導入し、手書き伝票を廃止しました。さらに、「Chatwork」※7で社員間の情報共有を図ったほか、「MOT/Phone」※8により外出先からでも会社の外線電話を受けられる環境を作りました、その後も、車両運行管理や名刺・顧客管理など10ものクラウドサービスを導入し、変革を進めていきました。
 その結果、森山氏は「現場とオフィス間の情報共有がスムーズになったことで対応スピードがアップし、顧客満足度も向上しました。そして、何より変わったのが社員の意識です。以前のネガティブ思考は解消され、スタッフに自発的な意識が生まれ、離職率も大幅に低下して求人応募数も増加しました」と言います。
 しかし、クラウドサービスが最初からスムーズに導入されたわけではありません。中には抵抗感を持つ社員もいたそうです。そこで、森山氏はICTによる“遊び”を取り入れたと言います。

倉庫を改築して作られた「テレワーク 体験ルーム」

 「例えばスマートスピーカー※9を導入したり、チャットツールで雑談するなど、“遊び”感覚でICTを身近に感じられるような取り組みを行いました。さらに、在宅勤務に慣れてもらうため、社屋とは別に『テレワーク体験ルーム』として一人用オフィスも設置しました。この部屋はスマートフォンで施錠や空調、照明の操作ができるなど、パソコン以外のICT機器にも触れながら在宅勤務体験ができるようになっています」(森山氏)

 同社は今回、「クラウド活用・地域ICT投資促進協議会理事長賞」を受賞したことで、社員の意識変革がますます進み、「自分たちの会社に他社をリードしているものがある」など、ポジティブな感想が出ているそうです。森山氏は今後も業務効率化を進め、「週休三日を導入したり、バックオフィス業務を在宅勤務にして全国から人材を採用したい」と抱負を語っています。

会社名 城善建設株式会社
設立 1993年(平成5年)6月30日
本社所在地 和歌山県和歌山市十一番町10番地(ジャムビル2階)
代表取締役社長 依岡 善明
資本金 3,000万円
事業内容 宅地造成・注文住宅の設計施工、一般土木事業、マンション/店舗など大型建築、身体障害者など公共施設の建築 など
URL http://www.jyouzen.co.jp/
会社名 株式会社太陽都市クリーナー
設立 1964年(昭和39年)4月6日
本社所在地 広島県府中市中須町1515
代表取締役社長 森山 直洋
資本金 1,000万円
事業内容 一般廃棄物収集運搬、産業廃棄物収集運搬、資源回収リサイクル業務、浄化 槽維持管理・清掃、し尿汲み取り など
URL https://fuchu-ttc.co.jp/

※1 DX: Digital Transformation (デジタルトランスフォーメーション)の略で、進化したI T技術を浸透させることで、人々の生活をより良いものへと変革させるという概念のこと。
※2 スモールスタート:最初は機能やサービスを限定して小規模に実施し、順次規模を拡大していくこと。
※3 AnyONE:住宅工務店に特化したオールインワンの基幹システム。
※4 Box:容量無制限のコンテンツクラウドストレージサービス。
※5 Slack:チャット形式でコミュニケーションが取れるビジネスツール。
※6 MoneyForwardクラウド:データ入力などを自動化することで、会計業務の時間を短縮できるクラウド型の会計ソフト。
※7 Chatwork:メール、電話、会議など仕事に必要なコミュニケーションを効率化するクラウド型ビジネスチャットツール。
※8 MOT/Phone:スマートフォンやパソコンから会社番号を使った発着信ができる電話サービス。
※9 スマートスピーカー: 音声対話型のAIアシスタント機能を持ち、リクエストに応じて音楽を聴いたり天気を聞いたりできる。

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