ICTソリューション紹介

-SOMPOインスティチュート・プラス株式会社-
個人健康記録の情報ネットワーク化が新しい医療サービスとビジネスを実現する

記事ID:D10037

会社や自治体で受けた健康診断の結果や医療機関で処方された薬の記録、自宅で日々測定している血圧や脈拍などのバイタルデータなど、「個人健康記録」を意味するPHR(PersonalHealthRecord)のデジタル活用が進んでいます。医療関連以外の業種にも新しいビジネスチャンスをもたらすと期待されるPHRの可能性を、SOMPOインスティチュート・プラス株式会社ヘルスケア・ウェルビーインググループ主任研究員の岡島正泰氏にうかがいました。

医療情報の幅広い共有が可能なPHRサービス

研究部 ヘルスケア・ウェルビーインググループ 主任研究員
岡島 正泰氏

 PHR(PersonalHealthRecord)は、本人の病気や服薬の履歴、血圧や脈拍などのバイタルデータを個人レベルで収集・管理するものです。類似する医療関連のデータには、電子化したカルテを個々の院内で情報共有するEMR(ElectricMedicalRecord)、複数の医療機関や薬局などの情報共有を可能にするEHR(ElectricHealthRecord)がありますが、どちらも情報共有の範囲は医療関連機関です。一方、医療情報を含む個人の健康情報を幅広く収集・管理するPHRは、本人の同意があれば第三者に共有することが可能なため、企業や自治体などが活用して、さまざまなかたちでサービスを提供することが可能です。それらはPHRサービスと呼ばれ、医療・健康関連分野はもちろん、そのほかの分野においても大きな可能性を持っているようです。厚生労働省は、今年5月に発表した国民の健康推進を図る健康プラン「健康日本21(第三次)」の中で、PHRの積極活用とそのためのインフラ整備などを促しています。

 「超高齢化社会を迎え、医療・介護従事者の不足が問題になる中、健康寿命の延伸や労働生産性の向上、社会保障制度の担い手を増やすことが求められています。そんな状況を解決に導く一つの手段として、PHRサービスが注目されています。国民の健康情報をネットワーク化し相互運用性を確立することで、よりレベルの高い医療サービスの提供や健康づくりへの働きかけが可能になると期待されています。それとともに最近は、PHRから得られる情報の価値に着目した金融・小売・食品など異業種によるビジネス参入により、サービスが多角化する可能性も見せています」(岡島氏)

PHRサービスとの連携で地域医療情報ネットワークを強化

図1:PHR サービスの利用目的ごと分類

 現在PHRサービスは、対象とする利用者別に「個人が健康増進や美容目的で利用するもの」「保険者・自治体・雇用主が予防・医療費抑制などの目的で個人に利用を促すもの」「疾患管理などの目的で患者が利用するもの」の大きく三つのサービスに分類(図1参照)されていると岡島氏は言います。

 個人が健康増進や美容目的で利用するPHRサービスの代表的な例は、健康情報を記録管理するスマホアプリです。

 「これは個人が記録した歩数・食事・睡眠・体重・血圧などの情報を管理し、生活習慣病の改善のための行動変容を働きかけるもので、健康寿命の延伸に役立ちます。しかし、実際に促されたアドバイスを実行に移すか否かは個人の判断に任されるため、健康無関心層への働きかけの難しさが課題になっています」(岡島氏)

 一方、保険者・自治体・雇用主といった医療関連の業務を行う組織部門では、PHRサービスの特性を活かした運用が始まっています。

 「例えば健康保険組合や雇用主が所有する健康診断記録は、デジタル化が進んだことにより、被保険者が紙の記録を紛失したといった場合でもワンクリックで確認できるなど、業務の効率化に役立っています。また、メタボ健診などの特定保健指導対象者や生活習慣病の高リスク者の抽出などにより、対象者個々に対応したヘルスサービスの提供が簡便になっています」(岡島氏)

 疾病管理などを目的としたものでは、これまで運用が内部に限られていた医療機関のEHRなどの情報と、個人が保有するデータを連携させたサービスが注目されています。

 「電子カルテには傷病名・薬剤処方・アレルギー情報・治療方針など個人の診療に関わるさまざまな情報が記録されています。これをPHRサービスに連携することで、本人や家族がいつどこにいても自分の健康履歴の閲覧が可能となり、患者と医療機関が互いにほしい情報を得られるようになっています」(岡島氏)

 その一例として、岡島氏は長崎県で展開されている地域医療情報連携ネットワーク「あじさいネット」の事例を挙げます。

 「同ネットワークは、38の医療施設が保有する電子カルテなどの情報を367の医療施設が閲覧できるほか、2022年からは患者の日常のバイタルデータを遠隔モニタリングする事業を開始しており、モニタリングしたデータをオンライン診療機能から参照して治療に活用できるようになっています。地域の病院や診療所が患者の過去の診療履歴等を参照できることで、効率的な医療が提供可能になったそうです」(岡島氏)

PHRのビジネス活用に取り組む異業種企業も登場

 近年は、PHRサービスが記録管理する情報を、一般企業が人々の生活に密着した分野で活用したサービスを提供するケースも見られます。例えば、大分県の「スーパー細川」ではPHRサービス「カロママプラス」と連携し、購入商品を電子化したスマートレシートとカロママプラスに記録された食事データをもとに栄養素を解析し、本人に適した食品やレシピ、運動メニューを推奨する「提案型健康増進プログラム」(図2参照)の実証実験を行いました。アンケ―トでは「健康意識が高まり、野菜の購入量が増えた」「栄養バランスを考えるようになった」などの声が寄せられたそうです。現在も、買物商品に関連したレシピコラムの配信などを行っています。

図2:スーパー細川で実施された提案型健康増進プログラム

 このような事例が出てきてはいるものの、PHRサービスの恩恵を受けるには個人の健康情報を企業と連携する必要があるため、仕組みの整備の問題もあり、抵抗を感じる消費者もまだいるかと思われます。その意味では、企業単体での参入はまだハードルが高いのも事実です。そこで今注目されているのが、政府が主導するマイナポータルとの連携です。

 マイナポータルには、今年度中に事業主健診の個人データが反映される予定です。さらに、来年度からは一部医療機関で電子カルテの個人データの実装も開始されます。現在、マイナポータルでは個人の健康情報を本人の許可を得た上で民間事業者などに連携する「医療保険情報取得API」機能が提供されているため、一般企業でも個人の健康情報をマイナポータル経由で活用できるようになっています。

 「マイナポータルに蓄積されているデータは、ビジネスチャンスの宝庫かもしれません。一見PHRサービスとの親和性が低いと思われるスーパーにおける活用事例もありますし、まずはマイナポータルの活用と自社の事業を紐づける研究から始めてはいかがでしょう」(岡島氏)

 現在、マイナンバーカードの誤登録などの運用面の課題が問題視されているものの、PHRなどのデータ活用は着実に進むと見られるため、今こそPHRサービスに取り組む良い契機となるのではないでしょうか。

会社名 SOMPOインスティチュート・プラス株式会社
設立 1987年(昭和62年)
本社所在地 東京都新宿区西新宿1-26-1損保ジャパン本社ビル9F
理事長 櫻田謙悟
事業内容 経済・財政・金融・社会保障政策、気候変動、まちづくり、モビリティ、ヘルスケア、働き方、ウェルビーイング及び未来社会などに関する調査・研究
URL https://www.sompo-ri.co.jp/
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