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-福井県観光DXコンソーシアム-
宿泊施設など観光関連事業者のデータを共有し県ぐるみで取り組む「稼ぐ観光」

記事ID:D10046

観光地では昨今、観光で地域全体の稼ぐ力を高めるため、デジタル技術を駆使しながら自治体や事業者が一体となって取り組む「観光DX」が活発化しています。中でも、2022年に観光庁より実証事業として採択を受け、地域全体のデータを収集・共有して観光DXを推進する福井県の取り組みが注目を集めています。今回は、その牽引役となる「福井県観光DXコンソーシアム」の事務局を担う、福井銀行グループ観光地域商社のふくいヒトモノデザイン株式会社の加藤 太一氏に、取り組みの詳細についてうかがいました。

地域ぐるみのDXで「稼ぐ観光」の実現

ふくいヒトモノデザイン株式会社
観光事業部
部長 加藤 太一氏

 福井県は景勝地の東尋坊をはじめ、永平寺、県立恐竜博物館、あわら温泉など全国的に知られる名所が点在し、金沢と京都に挟まれた好立地な観光エリアです。しかし、以前よりインバウンドが少なく、観光客数が伸び悩んでいたため、北陸新幹線の県内延伸の正式決定を契機に、観光産業の活性化を目指す機運が高まりました。
 ところが、当時の観光事業は効果的なマーケティング戦略を立てるために必要なデータが乏しく、多くの地域が経験や勘を頼りに宣伝や商品開発を行っていました。当時の状況を、福井県観光DXコンソーシアム事務局の加藤氏は次のように話します。

 「県への観光入込客数や宿泊者数など、ざっくりとした統計は分かるのですが、観光客の年齢や性別、どこから訪れたかなどの属性、どんな交通手段や目的で訪れたかなどの旅行形態といった詳細までは把握できなかったため、しっかりとしたデータ分析を行えないという課題がありました」(加藤氏)

 そこで2021年、福井県観光連盟が観光実態をデータ化し、新たな気づきや視点からマーケテイング戦略を策定する「稼ぐ観光」の実現を目指し、地元企業・団体の参加による「福井県観光DX推進コンソーシアム(現在の福井県観光DXコンソーシアム)」が結成されました。

観光客、事業者双方のデータから実態を把握

 同コンソーシアムが最初に取り組んだのは、県内のさまざまな観光データの集約・分析でした。

 「観光客向けに『ふくい旅 答えてHAPPINESSプレゼントキャンペーン』を実施しました。これは県内70ヵ所に掲示した二次元コードを読み込みスマホで回答するアンケートで、2022年度は17,214件の回答が得られました」(加藤氏)

 ほかにもGoogleのクチコミ、Instagramへの観光地に関する投稿の内容を分析したデータ、県の地域デジタル商品券「RENEW Pay」で決済された日時や場所、金額などのデータも収集しました。そうして得られたデータは、県の観光データ分析システム「FTAS(FUKUI Tourism data Analyzing System)」に集約され、個人を特定する情報を除いて公開されました。これにより県内の事業者は観光客のニーズや満足度の分析が行える環境が整いました。
 しかし、「稼ぐ観光」の実現にはデータの数や種類が不十分であったため、2023年度はデータ収集をさらに高度化していったと、加藤氏は説明します。

 「2年目は宿泊施設の協力を得て、宿泊予約者の情報を収集し、客単価や客室稼働率などをFTASに公開(図参照)しました。また、県立恐竜博物館の利用が予約制となったことから、同館の60日先までの予約状況(人数・金額・平均単価)の情報も公開されるようになったため、周辺の飲食店や土産店は『観光客がいつごろ集中、または減少するか』を予測し、先々の需要予測を基に的確な商品の仕入数や人員の調整ができるようになりました。この予約状況のデータは、博物館周辺の自治体にも道路渋滞など交通量の増減の予測にも活用頂けています。ほかにも、永平寺をはじめ県内の主要な観光スポット26ヵ所・18施設に通信機能付きの計測センサーを開発・設置し観光客の人流データを収集したり、県独自で発行した旅行支援のデジタルクーポン『ふくいdeお得クーポン』が利用されたエリアを可視化し、観光客の経済動向の把握にも取り組みました。さらに飲食店やお土産物店など各事業者からの協力を得て、Googleビジネスプロフィールで得られる情報の共有、POSデータによるお土産販売の実態把握にも取り組みました」(加藤氏)

図:あわら温泉エリア、10のホテル(総部屋数608)の予約状況を合算したオープンデータから客単価と客室稼働率を抜粋表示した例(出典: 福井県観光データ分析システム「FTAS」より作成)

事業者向けのサポートAIの活用にも注力

 コンソーシアムは、2年間でさまざまな観光実態の収集・共有を推進してきましたが、まだまだ収集や活用方法での課題を抱えています。

 「さまざまな情報を収集するためには、各事業者からの協力が必須です。しかし、事業者にとっては本来、公開したくはない情報も含むため、情報開示は容易ではありません。そこで、これまで情報提供のメリットを丁寧に説明してきましたが、実際に提供していただける事業者数はまだ不十分です。今後さらに多くの事業者にメリットを理解していただく必要があります。また、人流データを収集するため、機器を設置して観光客の流れや混み具合のより正確な計測に挑戦しましたが、機器が風や動物など人以外の動作にも誤って反応するトラブルなどが続き、正確な数値を得るには改善が必要です」(加藤氏)

 このほか、収集したデータを集約・分析する「FTAS」の活用にも課題があります。 

写真:高校生、高専生が観光に関するデータから課題を定め、課題を解決するアプリ案を発表

 「FTASの情報は各事業者の経営戦略の見直しに役立てていただきたいと考えていますが、そもそもデータ分析の経験がなく、何から手をつけたら良いかも分からないという方が大勢います。そのため、コンソーシアムでは県内の事業者向けに勉強会を実施しています。また、データ分析を得意とするデジタル人材の育成を応援するべく、例えば県内の高校生、高専生を対象に、データを分析し観光地の課題をIoTやアプリを活用して解決するアイデアを検証・発表する催しを開催したりしています(写真参照)。催しを通じて学生たちに観光推進への関心を抱き、県内企業への就職を考えてもらうきっかけにもなればと思います」(加藤氏)

 事業者のデータ分析による経営戦略の見直しの手助けとしては、このほかAIを組み合わせた分析情報の提供も始まっています。

 「観光客へのアンケートの回答をAIが読み込み、県内90の地域別に分析・要約するサービス『福井県観光AIアドバイス』を展開、インターネット上で公開しています。これにより事業者の方々は自分の地域向けにAIが整理した課題を閲覧することで、経営見直しのヒントが得られます。ほかにも福井工業大学とも観光分野におけるChatGPTの活用方法の研究を進めています」(加藤氏)

 今年3月の北陸新幹線延伸により、福井県は東京や海外からの観光客が増加しました。福井県の取り組みの成果は今後、ますます大きくなるものと期待されています。

※ 観光入込客数
日常生活エリア外へ、報酬を得る目的以外で旅行・滞在する人の数。
組織名 福井県観光DXコンソーシアム
設立 2024年(令和6年)5月23日
事務所所在地 福井市宝永2-4-10 福井県宝永分庁舎内公益社団法人福井県観光連盟
構成企業 公益社団法人福井県観光連盟、ふくいヒトモノデザイン株式会社、Code for FUKUI、株式会社 B Inc.、株式会社福井新聞社、株式会社福井銀行、株式会社ふくいのデジタル、福井放送株式会社、株式会社地域創生 Co デザイン研究所、合同会社 basicmath
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