電話応対でCS向上コラム

第123回「変わってきた話し言葉」

記事ID:C10115

昭和、平成、令和の三つの時代は、千数百年の日本の歴史の中では、最もテンポの速い激動の時代だと思います。戦争、敗戦、急ピッチで進んだその後の復興、近代化、そして未曽有の速さで進む IT化とデジタル社会の到来です。その流れに翻弄(ほんろう)されつつ、私たちは令和の今を生きています。それともう一つの大きな問題があります。それは時代に撹拌(かくはん)されてきた「話し言葉」の変化です。今回はこの言葉の変化について考えます。

行き交う言葉はみな言葉

 私たちはとかく、自分が身につけている言葉は常に正しく、それ以外の言葉は誤りだと考えがちです。しかしそう考えることはかなり危険なことです。
 言葉を評価する際の判断の基本は、「みんなが使っている言葉は正しい」ということです。言葉は、それぞれの時代それぞれの社会で、つねに形を変えてゆくものです。行き交う言葉は、すべてが言葉なのです。慶應義塾大学の名誉教授であった故・岩松 研吉郎さんは「話し言葉は正邪、善悪で決めるものではない。好きか嫌いかだ」という言葉を残しています。

通じない日本語が増えた

 とは言いましても、千年の歴史と文化の中で育まれ、コミュニケーション社会を支えてきた「日本語話し言葉」は、ここにきて、怒涛のように押し寄せるIT語を筆頭とした「カタカナ語」の波の中で、蝕まれ続けています。そしてさらに危険なことがもう一つあります。生成AIの恐るべき台頭を人間社会は唯々諾々(いいだくだく)として歓迎していることです。
 カタカナ語、専門語、省略語、アニメ語、多様な造語の氾濫の中で、日本語が段々通じ難くなっています。言葉の多様性は、自由で活力ある言葉の進化と捉える見方もあります。しかしそれは、根幹となる日本語がしっかり構築され、伝える力を持っていての話です。

変わってきた日本語話し言葉

 私の若い頃にはなかった言葉、使い方が変わった言葉、そして皆さんも気になさっているであろう変化した言葉の例をいくつか取り上げます。第一に私が最も気になるのは、語尾伸びという話し癖です。以前には、それは若者方言の特徴だと思っていました。しかし、今や若年層や一般人に限らず、著名人、知識人、社会的地位もある年配層までが、公の場でも何ら恥じらう様子もなく語尾を伸ばして話しているのです。これはもう絶望的な世界です。
 次に特徴的なのは、見れる、食べれる、来れる、などの「ら抜き言葉」の定着です。ら抜きは、尊敬や受け身でも使いますが、圧倒的に多いのは可能を表す時のら抜きです。これらはもう見られる、食べられる、来られるという本来の言い方には戻らないでしょう。
 休ませて、書かせて、脱がせてなどの「さ入れ言葉」。それに、読める、飲める、行ける、などの「れ足す言葉」も、同じ運命をたどりつつあります。
 違くない、好きくないも若年層に定着しつつあります。違う、好くなどの動詞を形容詞の活用の否定形「~くない」にあてはめて、違くない、好きくないになったというのです。
 形容詞「すごい」は名詞につく時には、すごい車だ、すごいバッターだ、のように「すごい」で良いのですが、形容詞につく時には「すごく美味しい」となります。ところが、最近は「すごい美味しい」という人が多くなりました。

言葉の変化に対応する

 日本語には、実に多様な数詞がありますが、それが急速に姿を消しました。年齢や学年を比べるのにも、若い人は「一歳上、二年下」と言わずに「一コ上、二コ下」というのです。
 本来「コ(個)」というのは形のあるものを数える時に使う数詞ですから、年や学年は該当しません。若い親世代や先生までが数詞を忘れてしまったのでしょうか。
 最近、自分ごと、他人ごとという言葉をよく聞きます。かつては、他人ごとと書いて「ひとごと」と読む言葉しかありませんでした。それが「他人ごと(たにんごと)」という言葉を生み、さらには「自分ごと(じぶんごと)」という新しい意味を持った言葉を生み出したのです。言葉は本来規制するものではなく自由であるべきものです。しかし、過剰な敬意が生み出した「お名前さま」、さらには「お電話番号さま」となりますと、いい加減にしたらと言いたくもなります。美しい日本語を守るためには、野放図に増殖するカタカナ語や省略語にブレーキをかけ、節度を持たせるにはどうすれば良いでしょうか。これからの難題です。

※ 唯々諾々
はいはい、と言って何でも承諾すること。おもねる様子。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会検定委員。
NHK アナウンサー、(財)NHK 放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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