電話応対でCS向上コラム

第115回「もっと日本語で話しませんか」

記事ID:C10092

IT社会になって、英語の世界共通語化が進み、教育現場でも企業社会でも、英語を重視する傾向はますます高まっています。さまざまな公文書や私文書類でも、カタカナやローマ字で表される外国語の比率は増える一方です。そのことは取りも直さず、母語である日本語の存在感の低下を表しています。今回は、「もっと日本語で話しませんか」をテーマに、日本語の大切さについて改めて考えます。

分かり難い横文字の略語

 文化庁が2022年度に実施した「国語に関する世論調査」の結果が、この秋に公表されています。その中で、「SNS(ネット交流サービス)、DX(デジタルトランスフォーメーション)、AED(自動体外式除細動器)などの、横文字の略語の意味が分からなくて困ることがありますか」という問いがありました。その問いに対して、「よくある」「時々ある」と答えた人が85.1%に上ったと報告されています。この驚くべき高い数字は、ITに弱い高齢層が足を引っ張っているためだろうと一瞬思いました。ところが意外なことに「よくある」と答えた人が、若年層の20代で67.1%、30代でも79.5%もあったというのです。
 この結果に私は愕然としました。SNSもDXもAEDも、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、それにネットなどで、ここ数年、頻繁に出てくる言葉です。注釈がついている場合もありますが、85%を超える人がよく分からないと答えているのです。それも、AEDのような、時に命に関わるような、緊急性のある言葉までが、平然とそのまま使われているのです。

カタカナ文字言葉が好きな日本人

 それにしても、日本人は何とカタカナ文字、ローマ字表記の横文字、英語を主とした外来語が好きなのでしょうか。欧米の文化が入ってきた時、かつての先人たちは、その国の言葉を日本語に訳すのに大変な苦労をしたと聞きます。「情報」という言葉を例に挙げますと、「情報」のもとはドイツ語のナッハリヒテンという言葉です。それを訳す時に、この言葉は単なる「告知」とは違う、伝え手の「思い」「情」がある。悩んだ末に、訳者の森鴎外が選んだのは「情報」という言葉でした。これはかなり有名な話ですが、訳者については異説があるようです。しかし、母語を活かしながら、言葉の深い意味を表現する先人の努力には胸打たれました。
 世界共通語化している英語や専門語などに習熟することは、もちろん必要でしょう。しかし今の日本の現状を見ますと、カタカナ表記の外国語や先端の専門語、あるいは流行語をあえて多用して、背伸びして話す人が増えているように感じます。言葉はその逆で、聴いてすぐ分かるように話すことこそが、教養ある人の心得です。あえて使うのでしたら、注釈を入れて話す心づかいが必要でしょう。

日本語の特徴

 衰退の危機を感じる日本語の現状で、もう一つ考えなければいけない問題があります。明日の日本を考えた時に、子どもたちの言語教育環境が大きく変わりつつあることです。
 日本語は、およそ1,400年の歴史の中で、外国から攻められ奪われることなく、独自の発展を遂げてきました。世界の言語はおよそ6,000種類と言われます。それぞれの言葉を母語として使っている人の数は、中国語が8億8,500万人で第1位、2位が英語で4億人、3位はスペイン語で3億3,200万人。日本は9位で1億2,500万人が、日本語を母語として大切に守り続けてきました。日本語は、ひらがな、カタカナに漢字を交えて話しますから意味が分かりやすく、文章は効率的で独特です。それに語彙の豊かさは世界有数です。また、表意文字と表音文字を併せ持ち、音節言語で発音しやすいという特徴があります。敬語という言語形式も持っています。この優れた日本語が、今、カタカナ語に侵食されているのです。
 「日本では、2020年から、小学3年生から英語教育が始まりました。未来を背負う子どもたちが、自国語を十分マスターしないうちに、英語教育を始めることは、将来的にその国固有の言語の衰退を招きます」。これは日本語学者の宮島達夫さんの警句です。
 ご存じのように日本では引き続き英語教育を推奨しています。小学校だけではなく、中学校でも、英語の授業時間数が国語の時間数を超えているのです。「言葉を失くした国は亡びる」という警句を、言葉を生業とする私たち皆が考えなければならない時だと思います。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会検定委員。
NHK アナウンサー、(財)NHK 放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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