電話応対でCS向上コラム

第113回「気になる話し言葉」

記事ID:C10086

「もっと美味(うま)いもの喰いてえなあ!」「腹いっぱいでもう食えねーよ」。つい最近、街中で聞こえてきた驚くべき若い女性の会話です。日本語の会話から女言葉が消えて久しく、その変化の激しさには仰天することが多いのです。言葉が変わるのは自然なことと受け入れつつも、言葉を生業としてきた身にとっては、気になり過ぎる言葉がいっぱいあります。ご賛同いただけるかどうかは分かりませんが、今回はそのうちのいくつかを取り上げます。

聞き難い語尾伸び、ぶつ切り

 今の日本語、話し言葉の変化で最も気になるのは、語尾伸び、ぶつ切りという話し癖です。文例で言いますと、「日本語のー、話し言葉のー、問題をー、考える時にー」というように、助詞の後を伸ばし、そこでぶつぶつ切って話す人が、非常に多いのです。実際には、助詞に限らず、名詞、形容詞、副詞、助動詞なども、容赦なく伸ばして切ります。この傾向が始まったのは、もう半世紀以上前のことです。当時の全学連のアジ演説が始まりだという説、また、第2次世界大戦後の民主化教育で、日教組の一部が始めた、「ね・さ・よ言葉排斥運動」を嚆矢(こうし)とするという説があります。これは男女差別につながる女言葉をなくそうというもので、話の途中に入る「ね」「さ」「よ」を外したのです。外しただけでは間が抜けます。そこに長音を入れて落ち着かせました。それが習慣化して今に続いているというのです。長音を多用するこの癖は話し言葉だけで、書き言葉にはありません。
 私がNHK日本語センターにいた30年前、既に、当時の若者たちの語尾伸び、ぶつ切り、それに、共感を求める意味で語尾を軽く上げて疑問形にする、半疑問などが問題になっていました。20人ほどの私のクラスでも、ほぼ全員が語尾伸び、ぶつ切りなどの話し癖を抱えていました。中にただ一人、全く問題のない男子大学生がいました。関西の芦屋出身の彼のスピーチを聴いて、全員が感嘆の声を上げたのをよく覚えています。関西なまりもありませんでした。「小さいころから育ててくれた祖母のお陰だと思います」と彼は言っていました。

高齢者まで広がった話し癖

 かつての若者時代に身についてしまった話し癖が、矯正されることなく、中高年になった今も続いています。テレビやラジオに登場する、言葉を生業とする受賞作家、役者やタレント、教育者までが、インタビューに答えたり講演をしたりのフリートークとなると、堂々と語尾伸び、ぶつ切りで話しているのです。これでは、次世代の子どもたちは、この長音だらけの日本語でしか話せなくなるでしょう。これは日本語に対する裏切りです。
 語尾伸ばしを悪者にしてしまいましたが、語尾伸ばしのすべてが悪いわけではありません。思いを込めた表現などで、長音を使うことはあるでしょう。検討すべき課題の一つです。

使えなくなった4つの尊敬語

 後輩のアナウンサーたちも含めて、ほとんど使えなくなった4つの尊敬語があります。「くださる」「おっしゃっる」「いらっしゃる」「なさる」です。説明や解説、案内などをしてくださる専門家や先生をご紹介するのに「教えてくれるのは○○さんです」と平気で言うアナウンサーが何人もいます。「教えてくださるのは」と言えないのです。同様に、「さっきも言いました」は「先ほどもおっしゃいましたが」。「今度はどこに行くのですか」。「どちらにいらっしゃるのですか」。「内覧会はいつするのですか?」「内覧会はいつなさるのですか?」この「なさる」を使える人も少なくなりました。「いつされるのですか」という「れる敬語」がほとんどなのです。間違いではありませんが、「なさる」の方が温かく品よく聞こえます。

乱暴になった一人称、二人称

 日本語は人称代名詞の豊かさでも知られます。ところがこの数十年で人称代名詞は激減しました。ことに一人称二人称の汚さです。一部お笑い系の男性タレントに顕著にその傾向が見られます。場所柄もわきまえず「俺」「お前」で言い合う彼らの会話の汚さは、テレビやラジオでの露出度が大きいだけに、子どもや一般への悪影響が大いに気になります。「僕、君、私、あなた」という本来の一人称、二人称を聞くことは、最近本当に少なくなりました。膨大なパラメーターを抱えて、AIの言語能力は今後も進歩を続けるでしょう。その進歩を見据えながら、私たち人間の言葉力を磨いていくことが大事になってきます。それはただ伝えるだけではなく、品のある言葉、情のある言葉を守っていくことだと思います。

嚆矢(こうし) :(昔、中国で、互いに鏑矢かぶらやを放って戦を始めたことから)物事の始まりのこと。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会検定委員。
NHK アナウンサー、(財)NHK 放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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