電話応対でCS向上コラム

第112回「オノマトペの力」

記事ID:C10083

「オノマトペ」という言葉は、耳慣れた言葉ではないでしょうが、ご存じと思います。新しいカタカナ語が氾濫する今の日本社会ですが、擬音語、擬態語、を表すのにオノマトペというフランス語が使われ出したのは、もう大分以前からのことです。そのオノマトペを今回テーマに取り上げたのは、外国語やIT語がごく日常的になった昨今、日本語の特質を知るのに、オノマトペという特異な存在を知ることが大事だと考えるからです。

オノマトペとは何か

 オノマトペは、大別すると二つに分けられます。一つは「ワーワー」「キャンキャン」「ゴーゴー」「ケタケタ」「ニャーニャ―」などの、自然界が出す音や、生き物が発する音声を模した擬音語です。二つは、「にっこり」「ゆらゆら」「てくてく」「パクパク」「ピンピン」など、身振り手振りや動作といった抽象的な様態を間接的に描写した擬態語です。
 このオノマトペは、日常会話はもちろん、小説やドラマ、昔話、さまざまなネーミングや童謡、唱歌、流行り歌、時には難しい論文にまで、広く使われています。日常的に耳にしたり目にしたりしたものを、そのまま言葉にでき、文字にもできること。その日本語仮名文字の簡便さ、気安さ、分かりやすさが、大量のオノマトペを生み出したのでしょう。

仮名文字があってオノマトペはある

 日本は世界有数のオノマトペ大国なのです。前述したように、幅広い分野でオノマトペを生み出し得たのは、仮名文字によって、話しことばと書きことばが完全に対応し合えたためです。8世紀に中国から漢字が入ってきた時に、音声言語をそのまま表記できる仮名文字を作ったことで、虫や鳥、獣の鳴き声を豊かな感性で聴き分け、オノマトペという表現で分類できたこと、病気やケガの症状を伝えるのも、また食の味を表現するのも、多様なオノマトペを作り得たことによる勝利です。
 日本の科学技術の進歩にも、同様のメリットが数多くあったのだと思います。

オノマトペを上手に使う

 話し上手の人には、豊富な知識、経験を前提として、三つの共通項があると、オノマトペ研究家の得猪とくい外明そとあきさんが言っています。共通項の1は、必要以上に喋らないこと、2は間の取り方がうまいこと、3はオノマトペを有効に使うことだそうです。得猪さんは、日本でオノマトペが異常に発達した理由として、日本語は、母音がア、イ、ウ、エ、オの五つしかないこと、また音節が112と少ないこと(金田一 春彦説)、この言葉の貧弱さを補うために、日本人は「イライラ」とか「ムカムカ」など二音節反復型のオノマトペを大量に作り出したというのです。尻取りという遊びが生まれたのも、そのおかげでしょう。

健康状態を伝える オノマトペ

 オノマトペが日本人の暮らしに最も役立っているのは、健康状態を伝えるオノマトペだと思います。胃がムカムカする。キリキリ痛む。お腹がシクシクする。頭がガンガンする。心臓がドキドキする。顔がヒリヒリする。傷口がずきずき痛む。ぞくぞく寒気がする。これらの症状は、ほとんどの日本人が身につけている二音節反復のオノマトペで表現されています。しかし、今後ともに増えることが予想される外国人に伝わるでしょうか。本人はもちろんですが、対応する医師、看護師、薬剤師の皆さんには、このオノマトペ力が語学力以上に必要になりそうです。

オノマトペを大切に

 AI が電話応対をし、接客をし、ニュースまで読む時代です。とは言っても、AIがオノマトペを理解し、話すとは考え難いのです。日本人だからできるオノマトペを活かした会話、自然や人とのつながりを生き生きと深めてくれるオノマトペの世界は大切にしたいのです。IT社会の言葉は、日々進化はしています。その反面、無味乾燥になりつつあるのも事実です。今回、オノマトペをテーマとしたことで、数冊の本を読みました。そしてそこから広がる日本語の世界が、如何に広く深く、面白いものであるかを改めて知りました。得猪 外明さんの著書の第1章には「究極の日本語、オノマトペ」と書かれています。皆さんもぜひ「オノマトペ」に関心を持ってください。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会検定委員。
NHK アナウンサー、(財)NHK 放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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