電話応対でCS向上コラム

第110回「声の力」

記事ID:C10077

私たちが話す言葉は、その人の生き方を表し、心を表すと言いますが、言葉は都合が悪いと平気で嘘もつきます。しかし、言葉を話す「声」は正直です。声は生きる力であり、心を表すのです。しかし、その大事な「声」について、私たちはかなり無関心なのではないでしょうか。今回は、「声」の力について考えます。

「声」を出す仕組み

 私たちは、「声」という大事なコミュニケーション手段を持っています。声によって膨大で複雑な情報や意思を伝え合い、時に争い、時に協調しながら今の人類の繁栄を築いてきました。その基となる「声」とは一体何でしょうか。
 「声」とは「息」です。息を出すことです。その吐く息に言葉を乗せているのです。私たちの喉頭(こうとう)には「声帯」という器官があります。小指の爪ぐらいの、ピンク色の唇のような小さな器官で、左右対称に2枚ついています。肺から吐き出される空気が、この2枚の声帯が合わさった隙間を通る時に、振動してブーというブザーのような音がします。喉頭の原音です。この原音が、咽頭や鼻、口、胸の中で共鳴し加工されてそれぞれの「声」になるのです。一流の歌手や役者になりますと、胸、腹、背中、頭、脚など体中を使って声を共鳴させます。それは優れた楽器と同じなのです。

声を出さない日本人

 私たち日本人は、人前で話すことは得手ではありませんし、あまり大声で話すこともしませんでした。意思疎通の多くは、声よりも文字で行うことのほうが多かったのです。そうした習慣がついたのは、日本の家屋構造に大きく起因しています。木と紙でできた日本の家屋では、ふすま一枚で遮られた隣室とのプライバシーを守るには、自おのずと声は控えめになっていったのです。それに、外に出ても、大勢の前で大声で演説することもありませんでした。ですから、息そのものが鍛えられなかったのです。

一人ひとりの声はみな違う

 若い頃には「アナウンサーの声ってみんな似ていますね」とよく言われました。でも、私たちから見れば、全国に500人強いるNHKアナウンサーの声は全部違います。かつては、放送に出てくる声を聞いただけで、ほぼ全員聴き分けられたものです。
 犯罪捜査などで声紋という言葉を聴くことがおありでしょう。声紋は、一人ひとり全部違います。そのため、声は犯人検挙につながる重要な決め手になるのです。科学的に精査した違いだけでなく、声は、耳で聞いた時に、その印象が違います。鈴が鳴るような声、だみ声、金切り声、どすの利いた声、猫なで声、絹を裂くような声、言葉で表現するだけでもさまざまですが、すべてが感情の表現です。
 怒った時の声、嬉しい時の声。悲しい時の声、淋しい時の声。声はその時々の気持ちを、違う声で表現しているのです。電話では特に顕著にその違いが声に出ます。事務的な素っ気ない声、冷たい声、温かい声、優しい声、弾んだ声、グルーミーな声。その時々の声には、怖いほど血が通っているのです。

AIの喋りは声ではなく「音」

 では、AIの声はどうでしょうか。どのように精度が上がっても、AIは言葉は伝えますが、微妙な心情を声に乗せては伝えられません。声とは言いますが、AIの声は単なる音だからです。AIアナウンサーが読むニュースをお聞きになったことがありますか?NHKが毎日放送しています。相当に精度は上がっていますが、聴くたびに、寒々とした違和感を感じます。電話のAIオペレーターにも同じことが言えます。話しているのは「声」ではなく「音」なのです。人間の声には表情がありますが、AIには表情がないのです。温もりがないのです。このままITの世界にどっぷりと浸かって、いつか情の伝わらぬ「声」の世界に慣らされてゆく怖さを、今、強く感じています。

声を鍛える

 世界の各分野への、チャットGPTなど生成AIの導入が進み、それをどう規制してゆくかが大きな問題になっています。そのことの展開は私などには全く分かりませんが、私の立場で言えることは、今あるものを守り、どう伸ばすかです。それはAIにはない人間の「声」です。声は鍛えることができます。人類の進歩をつないできた「声」には、電話を通じてコミュニケーションを守る、大きな力があると思います。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会検定委員。
NHK アナウンサー、(財)NHK 放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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