電話応対でCS向上コラム

第109回「電話とは温かいものなり」

記事ID:C10074

「電話が温かい」と言うと、若年層の皆さんは違和感を抱くでしょう。しかし、昭和生まれの中高年の世代では、電話というメディアには、たくさんの情報がありドラマがありました。笑いも涙もあり、いさかいも感動もありました。時には、孤独を癒してくれる温かい存在でもあったのです。今回は、すっかりその存在感が変わった電話について考えます。

肩身の狭い音声通話

 先日、こんな経験をしました。IT企業の第一線で働くかつての教え子の一人Sさんに、数年ぶりに電話をしました。特に用件はなかったのですが、ふと気になりました。数コールで出た彼女の第一声は「嬉しい!」でした。どちらかと言えば、勝気な彼女の口から出たこの一言は意外でした。ITを駆使しながらも、独り住まいの彼女には、人声への強い渇望が心の底にあったのだと思います。その思いが、旧知の私からのいきなり電話に、思わず「嬉しい!」の一言を出したのだと思います。
 電話の位置づけが変わりました。固定電話を持たない人がますます増えています。スマホは持っていても、音声通話は二の次で、メールのやり取りが主です。いきなり電話をするのは非礼であり、まずはメールで、「電話をしてもよいですか」と了解を得なければなりません。こうした手続きが常識になってから、すでに数十年が経ちます。音声通話派(私もそうですが)は誠に肩身の狭い思いをしております。

人とのつながりが消えて行く

 令和に入って、逡巡していた高齢者にも、スマホ利用者が拡大しつつあります。しかし使い切れてはいないのです。交際範囲の狭まった高齢者たちは、メールを打つよりも、簡単に会話ができる音声通話を期待しているはずです。
 問題は高齢者だけではありません。LINEやSNSに慣れた若年層にとっては、音声通話は限りなくマイナーな存在です。その結果、豊かな言葉の構成力や対話力が極端に落ちています。さらには人脈を広げるコミュニケーション力が育たないのです。

劣化する子どもの言語環境

 今の子どもたちは、幼児から孤独なコミュニケーション環境に置かれています。2歳ぐらいからおもちゃ代わりにスマホを持たされ、小学校に入れば一人ひとりにタブレットを与えられます。オンライン授業が当たり前になり、自然に友人と会話する機会が極端に減ってきているのです。中学、高校、専門学校や大学と、彼ら彼女らが接するIT機器はますます高度化するでしょうが、言語環境や人間関係力を高めるチャンスはしぼんで行く一方です。そのことがおかしいと考える認識も生まれないでしょう。その状況は大人になっても是正されることはないでしょう。

減退する対話力

 対話とは、一方的なスピーチやプレゼンテーション、説明トークとは違います。そこには常に話し手と聴き手が存在します。相手の発する言葉や内容、語調、表情、反応を見ながら言葉を返して行くものです。その対話力次第で良い人間関係は作られて行きます。上手に対話できる人は人に好かれます。大事にされます。その能力は、子どものうちの家庭環境、教育環境によって、自然に身について行きます。

電話には温かさがある

 科学の進歩・開発は、常に利便性、効率化に向かいます。便利さと大切さは違います。
 電話は声です。声による電話には、表情があります。がありためがあります。繰り返しもあります。そしてこちらの話に対する反応が即あります。喜び、共感、疑問、不審、反発などもすぐ返ってきます。その一つ一つの電話の反応のすべては心の答えです。それは、これから先、どんなに進歩しても、論理と確率と統計で成り立っているAIの応対には真似はできない、人間の電話応対だけが持つ心の温かさなのです。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会検定委員。
NHK アナウンサー、(財)NHK 放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

関連記事

入会のご案内

電話応対教育とICT活用推進による、
社内の人材育成や生産性の向上に貢献致します。

ご入会のお申込みはこちら