電話応対でCS向上コラム

第104回 「繰り返し繰り返し」

人間の一生とは常に新しいものを求めながらも、所詮は繰り返しているだけのようにも思います。では、「繰り返す」とは何でしょうか。新明解国語辞典には、「出発点に戻ってまた同じ事をする」と載っています。用例を見ますと、「同じ過ちを繰り返す、一進一退を繰り返す、不毛な議論が繰り返される」などがあります。同じ意味を表す言葉では、一難去ってまた一難、二の舞、悪循環、しつこい、などが思い浮かびます。こう見てきますと、「繰り返す」は、あまり良い印象の言葉ではないような気がしますね。果たしてそうでしょうか。話しことばの世界では、「繰り返す」はとても大事な言葉であり行動なのです。

「繰り返す」ことの大切さ

 不必要な饒舌じょうぜつがあるかと思えば、難解でよく分からない解説、言葉足らずの説明などが多い昨今の言葉事情から見ますと、言葉を繰り返す表現は、かなり高度な話し方のスキルなのかも知れません。
 「上手な話し方」や「伝わる極意」といった話し方のノウハウ本や特集記事には、さまざまなスキルやノウハウが書かれています。「1件2結3詳細」(1に件名、2に結論、3に詳細)、訊いて関心事を引き出す、全体から部分へ、センテンスを短く、抑揚をつけて話す、聴き手の反応を読みながら、聴き手の知りたい順に話す、シンプルな言葉で話す、明瞭な発声・発音力を磨くなど、そのコミュニケーションスキルは多岐に亘ります。それらのスキルを習得して、活かしている方も多いでしょう。ところが、私が不思議に思うことが一つあります。用件や思いを正確に伝えるのに最も単純で容易な方法は「繰り返す」ことだと思うのです。ところがそのことがあまり重要視されていないのです。未熟なスキルに頼るよりは、伝えたいことを繰り返すことのほうが、はるかに効果が大きいはずです。

先人たちの教えの中にも

 ブルース・バートン氏が書いた「イエスの広告術」には、世界中に多くの信者を惹きつけたイエス・キリストの説法の極意が書かれています。その核となる教えは、「圧縮せよ(話をしぼれ)、シンプルに、誠実に、繰り返せ」、という四つです。日本でも、著名な国語学者・柴田 武氏の言葉に、感銘を受けた伝え方の極意があります。「決める、捨てる、切る、繰り返す」です。
絞り込んだいくつかの話材を、どんどん捨てなさい。捨てていって最後に残ったものが一番伝えなければいけないことだ。それを繰り返しなさい、と柴田氏は力説されます。
 アメリカで子育てを経験してきた知人がこんな話をしてくれました。アメリカのママたちの子育てには三つの極意があります。①相手の顔をしっかり見て話す。②ことばに抑揚をつけて話す。③繰り返し繰り返し話す。この三つの指導は、どれも相手に伝えようという気持ちがなくてはできません。幼児期から、話すのではなく伝えるという意識を大切にするアメリカの教育には感心します。大人になっても表情豊かに話す素地は、幼児の頃から培われているのでしょう。そしてここにも、「繰り返せ」があるのです。

繰り返すことの大切さを 学んだ記憶

 繰り返すことの大切さを、最初に私に教えてくれたのは、高校時代に演劇部の顧問をしていた若い化学の先生でした。化学の授業より、部活顧問としての接触が多かったのですが、命の尊さ、哲学、人生論、恋愛論から当時盛んに語られた平和論まで、多岐に亘る指導を受けました。その先生が同じ話をよくするのです。出 隆氏の著書「哲学青年の手記」の、若くして日光華厳の滝に身を投げて自死した青年の話などは、十数回と言わず聞かされました。「先生その話、先日も聴きました」と言いますと、「私が君たちの年に読んで感動した本だ。その感動を君たちにぜひ伝えたいのだ。一回聴いただけで君たちが理解してくれただろうか。それが心配だから何度も話すんだよ」忘れられない遠い記憶です。
 言葉は一回言っただけではなかなか伝わりません。伝言も約束も感謝の言葉も言えば伝わるものではありません。そのために誤解を生み、コミュニケーションが崩れることも多々あります。必要な依頼や命令、伝言は二度言う。お世話になった時のお礼は日を置いてまた言う。その場でも大事なことは言葉を重ねて伝えるように習慣づける。ぜひ意識してみてください。大事なことは伝えようという気持ちです。その気持ちなしに、単なる口癖として機械的に言葉を重ねますと、「しつこい!」で終わってしまいます。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会検定委員。
NHK アナウンサー、(財)NHK 放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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