電話応対でCS向上コラム

第102回 「励ましの言葉」

記事ID:C10054

人生80年、その一生は決して平坦ではありません。喜びもあれば悲しみもあります。成功もあれば失敗もあります。病気やケガ、仕事上や人間関係のトラブルもあります。それでも、そうした挫折や失意の時を、私たちは乗り越えて生きてきました。今振り返ってみますと、その陰には、私を励ましてくれた友人知人の言葉、何人もの先達の言葉があったことを、ありがたく思い出します。

「無駄なことは何もない」

 これは、もう40年も前に出会った言葉です。お坊さんの法話に出てきた言葉で、出典も定かではありません。しかしその頃、私はある大きなイベントに取り組んでおり、それを主催する他セクションのポスト長との折り合いが悪く悩んでいました。ことあるごとに彼の言動がおりのように引っかかり、かなりなストレスとなっていました。「人生に無駄なことは何もない」という言葉を聴いたのは丁度その頃でした。不思議なほど気持ちがスーッとして楽になりました。それから40年、その一言で私の人生観が変わり、生き方も変わったのです。

安易な励ましの言葉が多い

 悩んでいる人を励ます時には、「大変だろうけどがんばってね!」「大丈夫だよ。必ず良くなるから」「明日になれば明日の風が吹くさ」。日本人の励ましは、こうした安易な言葉をおざなりに言って済ませる傾向があるように思います。励ましの前提は「共感」です。落ち込んでいる人に届けるのは、言葉ではなく心です。心に刺激を受けた時に、人は立ち直ります。前述の「無駄なことは何もない」のように、心を刺激することが必要でしょう。そのためには、安易な励ましを言う前に、まず何に悩み苦しんでいるのか、心の傷をしっかり聴いてあげることだと思います。

「あなたは自分が運の良い人間だと思いますか?」

 松下電器(現パナソニック)の創業者、故・松下 幸之助氏は、自社の就職試験の面接で、「あなたは自分が運の良い人間だと思いますか?」と尋ね、運がよいと思っている人間だけを採用したそうです。プラス思考の考え方、楽観論のほうが、良い結果をもたらすと言うのが、経営の神様、松下氏の、人物評価の一方法だったのでしょう。
 日本電産の創業社長、永守 重信氏も「人間の能力の差はあっても5倍、しかし意識の差は100倍ある」と言っています。部分の能力差を比べて一喜一憂したり、悔やんだりするよりも、確かな意識、考え方を磨くことのほうがはるかに大事だ、と教えているのです。部下にとっては、やる気の起こる素晴らしい励ましの言葉です。
 この連載の初期に、「エコーの法則」というヒンズーの経典にある言葉をご紹介したことがあります。「意識が行動をつくる、行動が習慣をつくる、習慣が人格をつくる、人格が運命をつくる」。博学の野球人、故・野村 克也氏ら、多くの著名人に気に入られたこの言葉は、一頃かなり有名になりましたが、ここでもすべては意識に始まると説いています。

「悪いことにはきっと、良いことがくっついている」

 これは、「ふぞろいの林檎たち」などのテレビドラマの名作で知られるシナリオライターの山田 太一氏の言葉です。人生は何ごともどう転ぶか分かりません。校歌を作詞したご縁で招かれた小さな新設の小学校の運動会。あいにく土砂降りの雨の中で、泥んこで競う全校リレーに思いがけない感動のドラマがありました。山田氏は、マイナスと思っていることが、実は豊かなプラスを持っているんだ、と書いています。その気持ちを、別のドラマのお婆さんの台詞にしたのが表題の言葉です。大評判になりました。

感情の世界はもっと深くて広い

 山田氏は、次のようにも言っています。「言葉ですべてを伝えようとする。それが近代社会というものです。互いに言葉をぶつけ合い、それだけで分かり合おうとしたり、あるいは自分の考えを主張しようとする。もちろんそういう部分は必要ですが、感情の世界はもっと深くて広いのです」。
 私たちは、日本という豊かな言葉の国に生まれ、そして育ちました。その言葉は、暮らしの中で、親から子に引き継がれ、子は成長とともに、広い社会で言葉を成熟させてきました。
 その流れが、今大きく変わり始めています。励ます言葉も先行きは不安です。今は進むIT社会の便利さを享受しつつも、豊かで情のある言葉の世界に、しっかり踏み止まりましょう。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会検定委員。
NHK アナウンサー、(財)NHK 放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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