電話応対でCS向上コラム
第100回 「伝わってこそ言葉」記事ID:C10048
「伝わってこそ言葉なんだよ!」入局間もない頃、先輩アナウンサーに言われたこの一言。当時は何のインパクトを感じることもなく、いつしか忘れていました。「当り前じゃないか」ぐらいにしか考えていなかったのでしょう。
伝わらなくなった言葉たち
テレビやインターネット、新聞、雑誌、書籍を通じて、私たちの回りには膨大な量の情報が溢れています。時代とともに情報が多様化し、言葉そのものが
『難しいことを易しく書く。易しいことを深く書く。深いことを愉快に書く。愉快なことを真面目に書く』これは私が敬愛する井上ひさしさんの名言です。今、私たちの回りには、難しいことを易しくではなく、易しいことを難しく書いたり話したりする人が多過ぎます。分かっていない人ほどその傾向が顕著なのです。
問題が多い音声表現力
話し言葉が伝わりにくくなっている現状は随所に見られます。政治家の演説や説明、教壇に立つ先生たち、著名人のスピーチやプレゼンテーション、談話など。もちろん中には見事に話す人もいますし、意図的に難しくする場合もあるでしょう。しかし、概してテレビなどで見聞きする話し方には、問題が多く、すっきりとは伝わってこないのです。原稿を抱えた平板な棒読み、単調なリズム、意味に関係ない切り方、「間」がほとんどない口早な話し方。中でも許せないのは、言葉をもって生業としている人の中に、語尾伸ばしなどの話し癖のある人がかなりいることです。日本中に蔓延し定着してしまった「語尾伸びぶつ切り※」の話し癖を、これから矯正することは至難の業かも知れません。しかし、テレビなどでの露出度の多い著名人には、その影響の大きさをぜひ考えてほしいと願います。
スキルだけでは伝わらない
書店のビジネス本のコーナーには、「上手な話し方」「営業で勝つ話し方」「感動させるスピーチ術」など話し方の指南書が並んでいます。本誌のこの連載の中でも、これまでさまざまな話し方のスキルやノウハウをご紹介してきました。しかし、それらのスキルを身につけて話したとしても、決して伝わる話し方になるとは限らないのです。そう言っては身も蓋もありませんが、伝わる話し方とは、上手な話し方やきれいな話し方、正しい敬語の使い方などとは違うのです。
以前にもご紹介しましたが、イギリスの名門オックスフォード大学では、新入生に最上級生が話し方を教えます。そのポイントは、
子ども科学電話相談に学ぶ
NHKのラジオ第一放送で、毎週日曜日の午前10時05分から、「子ども科学電話相談」という番組があります。「恐竜をペットにするには?」「宇宙人は悪者なの?」など、全国の小中学生が電話で訊いてくる素朴な疑問に、ジャンル別に専門家の先生が答えるのです。これが実に良いのです。子どもは自分の疑問を懸命に言葉で伝えます。回答者の先生は、子どもがなぜそうした疑問を持ったのか、一番知りたいことは何なのかを熱心に探ります。そして子どもの理解を細やかに確認しながら説明します。そのやり取りの呼吸が見事に伝わってくるのです。子どもも先生も、まさに「伝わったかどうか」の世界で会話をしているのです。私たちが普段しているビジネス会話も日常会話も、そこまでの意識はないでしょう。言葉を磨くと言いますと、私たちは、正しく美しくきれいにという価値判断にこだわりがちです。そこを「伝わってこそ言葉」に意識を変えた時に、会話する力は大きく変わるでしょう。
※ 語尾伸びぶつ切り:「語尾伸び」は「ですぅ」など言葉の最後の語尾を伸ばすこと。「ぶつ切り」は相手の話を遮って自分の話をしたり、話題を急に変えたりすること。
岡部 達昭氏
日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会検定委員。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。