電話応対でCS向上コラム

第97回 「多すぎるカタカナ語」

記事ID:C10042

3度目の初夏を迎えたこのコロナ社会を、皆さんはどうお感じでしょうか。オンラインシステム、ウェブ会議システムの普及、テレワーク導入と家庭の変質、逼塞ひっそく状態で苦しむ経済、デジタル社会の急成長と「話し言葉」の軽視、希薄になる人間関係と孤独化。大雑把にまとめればこうしたことでしょうか。その中で皆さんも、コロナ禍以前と比べれば、多くの不便と我慢を強いられていることでしょう。行きたいところに行けない、会いたい人にも会えない、ストレスは溜まる一方かと思います。今回は、その激変の中での生き方、問題点を考えます。

自然と共生する生き物

 今の地球上には5,000万種の生き物がいるのだそうです。それらはその時々の環境に順応し、自然と共生しながら変化し生き残ってきました。そこには超能力としか言えない不思議な力を見るのです。人間だけは、神の摂理に逆らい、自然を破壊しながらも、圧倒的な頭脳のお陰をもって、生き物の王者として君臨しています。
 あらゆる動物は、自然の中に放り出されても、本能的な方向感覚を持っています。多くの渡り鳥も鮭も海亀も、長い旅を経て、自分たちの命をつなぐ山や川、浜辺に確実に戻ってきます。餌や水がどこにあり、何が食べられ何が危険なのかを見分ける術を身につけています。そのことを考えると、人間はあまりにも無力です。

心配な人間という生き物

 コミュニケーション力をテーマに考えてきた本シリーズで、なぜ自然と生き物の世界の話を持ち出したかと言いますと、近年の驚異的な科学技術の進歩に刮目かつもく※1しながらも、それについて行けない人間というソフトウエアの遅れが気になるからです。コロナ禍が完全に終息する頃には、デジタル社会、ネット社会、AI、IoT、DXの社会は一段と急成長、急拡大していると思います。自動運転車が走りまわる道路、ドローンが飛び交う空。数年後に映し出されるであろう近未来社会の風景は、もう以前には戻ることはできないでしょう。
 ただ、意気揚々とデジタル社会を謳歌している若い世代の生き方が、羨ましくもありますが心配でもあるのです。

過去があって未来がある

 進歩は必ず過去の下敷きがあって成し遂げられます。ところが今の進歩は、先に壮大な未来の設計図を描いて、いきなりそれを実現させているように思います。歴史の努力の上に、営々と築かれてきた過去の蓄積は、ボタン一つで消去されてしまうのです。
 代表的な例が日本語です。今の日本語は母なる川の流れを忘れ、IT語が幅を利かせています。ネット族の奇妙な言葉も跋扈ばっこ※2しています。その国の文化をつくるのはその国の言葉です。高度な科学技術も、言葉が生み出しているのです。
 日本という国は、記録を辿れる3千年の歴史を見ても、外国の侵略ですべてを失うことはありませんでした。美しい島国の自然の中で、その優れた文化も日本語も守られてきたのです。それがここに来て、押し寄せるカタカナ語の怒涛に、簡単に身を任せてしまいました。短いLINEやSNSでの会話では、複雑な内容や豊かな情感を伝える文は作れません。その力をつけるには名文を読むことにつきます。そしてもう一つ、つながり合う会話力を身につけるには「電話」に優るものはないと思います。電話は単なる伝達手段ではありません。IT化社会にあって、美しい日本語表現力を守るかけがえのないツールなのです。

カタカナ語使用には配慮を

 しかしIT系の人に限らず、ビジネスに携わるほとんどの人が、この傾向にさして疑問を抱くことなく、むしろ得々とくとく※3としてカタカナ語を使っているのは誠に残念です。
 それにしても、今私たちの回りにはカタカナ語が多すぎます。あらゆる分野の商品名、各種の取り扱い説明書、料理や菓子の名前、テレビ番組や映画の題名、スポーツやゲーム用語、雑誌や本の題名、公文書の類まで、カタカナ文字の氾濫は目に余ります。ある官庁の公文書を数えたら、全体の3分の1強が横文字、カタカナ文字だったという報告を読んだことがあります。翻って電話応対でも、科学技術が進めば、横文字はさらに増えるでしょう。IT化社会に安易に順応することなく、適切な日本語に置き換える。あるいは必要なカタカナ語を選んで使う配慮が必要でしょう。「言葉は伝わってこそ言葉」なのですから。

※1 刮目かつもく:目をこすって、よく見ること。注意して見ること。
※2 跋扈ばっこ:思うままにのさばること。
※3 得々とくとく:得意そうなさま。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会委員。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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