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電話応対でCS向上コラム

第90回 「伝わってこそ言葉」

「伝わってこそ言葉だ!」アナウンサーになりたての頃、養成指導に当たった先輩から言われた言葉です。その時には、「当り前じゃないか」と大して気にも留めずに聞き流していました。その言葉が今頃になって気になり出したのは、AIが言葉を話すようになったからでしょうか。言葉とは、伝えようという意思があって初めて表現されるものです。その意思を持たないAIが人間と会話をし、情報を伝えているのです。これは一体何なんだ?解釈に苦しみます。

“よみ子”登場

 NHKのテレビやラジオを聴いていますと、時折り「NHKが開発したAIのニュースリポーターよみ子がお伝えします」という紹介アナウンスが流れ、よみ子と名乗るAIリポーターが、ニュースを伝えているのを聴いたことはありませんか。何気なく聴いていると、それがAIであるとは全く分からないほど、その伝達力は向上しているのです。それだけに「伝えるとは何だ?」と改めて思いました。よみ子は、伝えてはいないのです。それでも、その内容、その情報は、言葉としては伝わってくるのです。言葉を伝える役割のAI技術の進歩。一方で、情報や心を伝える人間の言葉力の衰退。この相反する二つの現象を、どう考えたらよいのでしょうか。有能なデジタル系の若手の一人が、はっきりとこう言い切っていました。「デジタル社会、AI社会では、人間力など関係ありません。業務が効率よく遂行されれば、それでいいのではないですか」この割り切った考え方が今企業社会を支配しつつあるのです。そして、現実はそれで良くはないのです。情報伝達を、高度に発達したデジタル機器に委ね過ぎて、伝えたことが伝わらなくなっているのです。

伝わらない日本語話しことば

 専門語、外国語、省略語など、カタカナ文字が溢れるデジタル社会では、私どもアナログ世代は、トリセツ一つ理解するのにも容易ではありません。政治家の演説や答弁を筆頭に、学者や専門家の説明、各分野のプロの解説やコメント、メディアに登場する知識人たちの論評なども、ごく一部を除いて、驚くほど伝わってこないのです。原因は伝えようという意思の欠如にあります。言葉巧みに流暢に話す人はいます。拳を振り上げて、熱弁を振るう人もいます。クールに冷静に自説を述べる人もいます。しかし、何れも心に響いてこないのです。伝わってこないのです。聴き手が今何を知りたがっているか。それに的確に応えることこそ、「伝わる話しことば」の根幹なのです。その教育が、日本では大きく立ち遅れました。話し方は学んでも、聴き取り訊き出す力が育っていないのです。そのことは、今の小学校の学習指導要領には明記されているはずです。残念ながら、最も大事な「対話力」として育っていないのです。この力は、AIと共存していくこれからの電話応対教育にとって、インプロ力※1、癒し力などとともに、欠かせないものとなるでしょう。

言葉とは人とのつながり

 あらゆる文明は、人のつながりの中で生まれ、進歩してきました。デジタル文明も例外ではありません。電話応対のAI化はさらに急ピッチで進むでしょう。しかし、AI化が進むほどに、「人間と話したい」と願うお客さまの欲求は増えていくでしょう。すでにいくつかの大企業では、AIコールセンターが誕生し稼働しています。その中には、小人数で構客さま。AIでは答えられない微妙な質問。電話に癒しを求める淋しいお客さま。それらの一人ひとりのお客さまの要求に応えるのに、人間チームに配属された若手社員たちは、大変な苦労をしていると聞きました。でも、その苦労は無駄ではないでしょう。傾聴力、インプロ力、判断力、説明力、そして癒しの音声表現力は、これからの電話応対教育の主要カリキュラムになると私は思います。さらにそれは、今トレンディに問いかけられている「人間力」の条件でもあるからです。人間チーム出身の皆さんは、豊かな人間力を身につけた超エリートとして活躍の場が広がるでしょう。
 私の浅薄な知識と乏しい情報をもとに、電話応対の明日を考えて参りました。思いがけない展開があるかも知れません。AIが人類の知能を超える転換点とされるシンギュラリティ※2は2045年。しかし、どんなにデジタル社会が進み、AIが進出してきても、絶対に変わることがないのは、人間のつながりが基本だということです。その人間と人間をつなぐのは「言葉」です。次回は《言葉》の大切さについて改めて考えます。

※1 インプロ力:インプロとはインプロヴィゼーションの略。シナリオやマニュアルにはない「アドリブ」のこと。
※2 シンギュラリティ(Singularity):英語で「特異点」の意味。「人工知能(AI)」が人類の知能を超える転換点(技術的特異点)、または、それにより人間の生活に大きな変化が起こるという概念のこと。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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