電話応対でCS向上コラム
第88回 「考える力を考える」記事ID:C10026
コロナ禍によって、暮らしも経済も教育もスポーツも、あらゆる分野でのオンライン化が
スマホ情報は記憶に残らない
スマホが登場して15年ぐらいになりましょうか、その膨大な情報量、桁外れな利便性に魅了されて、若者から子ども、そして高齢者へと、スマホは爆発的な普及を見せました。令和2年版の総務省の情報通信白書によれば、その普及率は8割を大きく超えています。しかし、高い普及率とは裏腹に、スマホの普及がもたらす弊害が問題化し始めました。
「ITで若者が
私の若い頃には、何か疑問や問題が起こると、まず何を調べればその答えにたどり着けるかを、懸命に考えたものです。ところが今は違います。問題解決のためにはまずスマホ、パソコンに向かいます。大概のことはそれで解決がついてしまいます。考える手間は全く必要ないのです。そして、スマホ脳は、そこに書かれていることを、そのまま正解として信じてしまいます。
さらに厄介なことがあります。紙の辞書で調べたことは、記憶に定着しますが、脳を
「人間は考える
「基本」と「基礎」は違う
プロ野球の名監督として知られた故・野村 克也さんの話を聴く機会がありました。その時、野村さんはこんな話をされました。「基本と基礎は違うのです。基本は技術、基礎はものの考え方です。一流の選手になるには、この基本と基礎の両方を磨かなければだめなのです」と。何年も最下位に低迷していたヤクルトの監督を引き受けた時、野村さんは、ヤクルトを優勝できるチームにするのに3年の猶予を求めました。ヤクルトが勝てないのは、選手が技術ばかりを磨いても、基礎の考える力がないからだ。その考える力をつけるには、幅広い知識を増やすことだ。野村さんはそう考えていたのです。
そこで野村さんは毎日、試合のあと、練習のあとに、1時間のミーティングをしました。そこでは野球の話は一切なく、政治、経済、歴史、音楽、建築、宇宙など、幅広い話をしました。野村さんは、話すこと、ボードに書いたことを全部ノートに取らせました。最初は「監督、こんなことが野球とどう関係があるんですか」と不満そうだった選手たちが、段々と興味を持ちはじめて、熱心に聴くようになったそうです。それにつれて、選手たちは技術(基本)+考える力(基礎力)を身につけて、一つ一つのプレイをするように変わったのです。
ヤクルトは、野村さんが猶予を求めた3年目に、見事リーグ優勝を果たしたのでした。
自分の意見を考えてから訊く
「あんたはどない思うんや?」経営の神様と云われたパナソニックの松下 幸之助さんは、部下から相談されると、必ずこう訊き返したというのは有名な話です。こうした場合、皆さんはどのように対処なさいますか。素早い判断力で立ちどころに回答を与えていませんか。どこの企業でも役所でも、実際にはそういう上司が多いのではないでしょうか。スパッと明快な判断をくれる上司や先輩は、切れ者としての評価と信頼を得るでしょう。しかし、人を育てるという点では、このタイプの上司、先輩は決して正解とは言えません。部下や後輩は、自ら考えることなく、安易に上司や先輩から正解を求めるようになるからです。相談されたら「君の意見はどうなんだ」と押し返すことです。部下は自らの考えをまとめておかなければ、相談には応じてもらえないことを学ぶはずです。そして徐々に、考える習慣を身につけていくでしょう。
岡部 達昭氏
日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。