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電話応対でCS向上コラム

第86回 「お客さまに寄り添う」

「お客さまに寄り添って」というこの曖昧な言葉が、ビジネス書や雑誌などで盛んに使われるようになったのは、平成の頃かと思います。「寄り添う」という言葉が、お客さまを大切にしているという印象を与えるのでしょう。辞書をひもときますと、「相手の体に触れんばかりに近くに寄る」(新明解)、「ぴったり側へ寄る」(大辞林)などと書かれています。今回は、この使いやすそうでいて、その目的の曖昧な「寄り添う」について考えます。

「体に触れんばかりに…」

 「寄り添う」という言葉自体は昔からよく使われていました。「病人に寄り添って、昨夜は一睡もしなかった」、「母は父に寄り添うように歩いていた」など、普通によくある光景で使われていました。最近は日常会話ではあまり使用頻度は高くありませんが、前述したように、ビジネス書やマナー本では「お客さまに寄り添って」というフレーズの人気は高いのです。きれいな言葉とは思いますが、私はほとんど使ったことがありません。その動作の目的がピンとこなかったのです。辞書の説明に従えば、「お客さまの体に触れんばかりに近くに寄った」、「ピッタリお客さまの側に寄った」、と妙な解釈になってしまいます。そのちぐはぐさは、本来は動作を表していた言葉を「心」に結びつけ、「お客さまに寄り添う」を成立させたからでしょう。それはそれで大事な意味を持った言葉になりました。

寄り添うなんてとんでもない時代

 「お客さまの心に寄り添う」とは、お客さまの気持ちを察して親切にする。心配りをする。ここ数年、批判されることの多い「忖度そんたく」なども、相手の気持ちに寄り添い過ぎた弊害なのかも知れません。哲学者の和辻 哲郎に言わせれば、「日本人は元々相手の立場を尊重して心配りができる人間」なのだそうです。それが暮らしの欧風化に伴い、自分勝手な人間が増えてしまったと言うのです。折しも新型コロナのパンデミックです。寄り添うなどはとんでもない時代になりました。スウェーデンには、人が出会うと、親愛の情を表すのにすぐハグをする文化があります。ハグをするとオキシトシンという快感ホルモンが出て双方ハッピーになれると言うのです。でもそのハグも、コロナ禍でおそらくは激減しているのでしょう。
 テレワークやオンラインが常態化しても、マスクでお互いの顔半分が隠されても、人間である限り、心の寄り添いを求める気持ちはなくならないでしょう。ただ、寄り添うとはどういう状態なのか。どうすれば寄り添うことができるのか、そこが曖昧なままです。現実には、寄り添われると迷惑なことだってあるのですから。

寄り添うとは、相手を知ろうと努めること

 以前、家電製品のお客様相談室で働いている旧知の女性と、「寄り添う」って何?という話をしたことがあります。「私って電話大好き人間なんですよ。電話がなかったら生きていけません」そう言いながら、彼女は次のような話をしてくれました。
 「今こそ電話の出番だと思います。オンラインコミュニケーションツールのZoomやWebexもありますけれど、話に集中できるのはやはり電話だと思うのです。以前は電話で話すと言うと、ほとんど私のほうが喋っていた気がします。でもコロナ禍以後、電話で話す機会が増えてから変わりました。今は相手の話を聞くことに集中しているんです。そうしたら、随分長いつき合いの友人、知人でも、その人のことを自分が如何に知らなかったかに愕然としたのです。寄り添うって、相手の人のことを知ろうと努めることなんだと、つくづく思います」

寄り添って深まる電話での会話

 これまで気がつかなかったコミュニケーションの世界がそこにはありました。あえて姿が見える必要はありません。対面と電話の間に位置するZoomやWebexでの会話は、結構余計な気を使います。しかし、電話での会話は、心ならずも疎遠に過ぎていた人とのブランクを、容易に埋めてくれます。「互いに距離を保ち、握手をせず、それでも人を孤独にさせないように、電話やメールで愛情と友情を示してほしい」以前にご紹介した、ドイツのメルケル首相の言葉にもつながります。人は寄り添えた時に距離が縮まります。会話が深まります。貴重な情報交換が行われます。さり気ない電話での会話の中で、電話だからこそ安心して話せる会話があるのです。あなたの大切な人、大切なお客さまとの間で、メールやラインにはない、「寄り添えた」という信頼感、充実感が育つのではないでしょうか。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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