電話応対でCS向上コラム

第83回 「時間を守って話す」

記事ID:C10014

挨拶やスピーチ、講演やプレゼンテーションなどで、話者の話が長くて辟易することがありませんか?これで終わるかな、と思いますと、「ところで…」と言って、また延々と話し続けます。最初から話の構成に無理があったか、話しているうちに調子が出て止まらなくなったのか、理由はともかくとして、持ち時間などお構いなしに話す人って結構多いのです。今回は、この迷惑な長話を取り上げます。

足りない時間意識

 「今日は時間がなくて、長い手紙になってしまいました。お許しください」パスカルの定理で知られる17世紀のフランスの物理学者ブレーズ・パスカルの有名な逸話です。この言葉は、長いスピーチや挨拶、講演にもそのまま当てはまるでしょう。

 私たちは皆、「時間」という一生の財産を、同じだけ持って生きています。その貴重な「財産」を、長話をする人は断りなく奪っているのです。皆さんは、人前で話をする時には、話す内容、組み立て、話し方に、随分と気を使って準備をなさるでしょう。しかし、時間厳守という意識、そのための努力をどこまでなさっていますか。意識を持ったとしても、その実行はかなり難しいのです。

 職業柄、結婚披露宴や各種会合の司会をする機会が数多くありました。まだ駆け出しの頃の話です。先輩記者から、彼の結婚式の司会を頼まれました。ところが、冒頭の新郎新婦紹介で、高齢のご媒酌人が、なんと52分話されたのです。若輩司会者は焦るばかりでなすすべもなく、そのあとの進行にまで尾を引いて、披露宴は結局、1時間25分オーバーしてのお開きとなりました。忘れられない苦い思い出です。

「秒」を守って

 長年携わってきたアナウンサーという仕事は、否応なく精緻な時間感覚を求められました。本番中にディレクターから「1分半延ばして!」とか「25秒巻いて!」といった指示が容赦なく飛んできます。それにきちんと対応しなければなりません。完全にパッケージされた放送のプログラムは、1秒押すことも許されないのです。経験を積んでいるうちに、「秒」という時間の大切さを身に染みて知るようになりました。その割には、大きな時間を無駄にしている己の未熟さに、忸怩たる思いをしております。

 厳しく時間を守る仕事はほかにもあります。航空運輸関係の仕事、救急医療や消防、秒どころかさらに細かい時間管理を求められる製造現場や研究部門、100分の1秒単位まで競うアスリートの世界もあります。そう考えますと、私ども話し言葉の世界の時間感覚、さらに言えば、日常生活における私たちの時間意識は、あまりにもルーズに思えてきます。

逆算してラップタイムを決める

 話を話し言葉に戻します。文字文化で育ってきた私たち日本人のほとんどは、話をする時には先ず原稿を書きます。その原稿を読んで時間を測り、決められた時間内に収まるかどうかを確認します。その上で本番に臨むのですが、丸暗記の棒読みでもしない限りは、これでは絶対に話はこぼれます。話す時には、原稿にはないさまざまな「間」や無駄な言葉が入るからです。その「間」や「無駄」が生き生きとした話し方を生むのです。原稿での事前の計測は、7掛けぐらいのゆとりを持たせることがポイントです。もし時間が余ったら、大事な主張を繰り返せばよいのです。できれば原稿は捨てて、項目のメモで話せればベストです。

 台本やスクリプトがある場合には、時間オーバーを避けるために、私がかねて実行してきた方法があります。逆算してラップタイムを決めるのです。例えば5分のスピーチをするのに、最後のまとめで言いたいことが30秒かかるとします。この30秒を確実にキープして、尻切れトンボにならないようにします。そのために、4分30秒のところに赤で斜線を引きます。以下同じように、4分、3分30秒、3分に斜線を引きます。5分の持ち時間の半分強を過ぎたところにあるこの4つの関門で、話の進捗状況を判断します。もし押していたら、予め決めておいた、省いてよい箇所をカットすればよいのです。

 イエス・キリストが大衆に語りかけた説得術、布教術は、すべて2分半程度の短いものだったそうです。その要諦は①話を絞る②シンプルに③繰り返す④誠実に、の4点だとブルース・バートンがその著『イエスの広告術』に書いています。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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