電話応対でCS向上コラム

第82回 「オンライン時代のインストラクション」

記事ID:C10012

オンライン化という波が、あらゆる分野を覆っています。その急速な変貌は、コロナ感染の広がる中で、予測不能なスピードで進んでいます。昭和の時代から、教育・ビジネス界で重要視されてきたインストラクション※1というスキルも例外ではありません。オンライン化によって最も難しくなったスキルの一つでしょう。今回はこのインストラクションについて考えます。

インストラクションは何を求められるか

 「教育とは、知識半分、人間力半分」と言われるように、インストラクションは知識や技能を教えるだけではなく、人間力を鍛えるものだから難しいのです。

 膨大な知識を身につけても、それが役立つのは微々たるものです。どんなに時間をかけて知識や技能を教えても、師と弟子の間の心の交流、情の触れ合いなくして、本当の意味の教育はできないでしょう。日本の歴史を変えた明治維新、その一翼を担った長州の松下村塾で、有為な人材を育てた吉田松陰の教育は、まさに学問半分、人間力半分だったそうです。明治維新を担った当時の若者たちは、短期間でその力を身につけたのです。

経験が人間力をつける

 政治史研究家の瀧澤 中氏によれば、昔から日本人の知的レベルは高く、勤勉で知識欲も盛んだったそうです。庶民が学問を学んだ寺子屋の数も、幕末には全国に2万から5万軒。少なく見積もって2万軒としても、当時の人口が3千万人とすると、1500人に一人が寺子屋に通っていた計算になります。当時の庶民の子弟たちは、そこで論語や金言童子教※2の素読などを通じて人間学を学び人間力をつけていったのでしょう。

 翻って、今の日本を見ていますと、知識偏重の傾向を感じるのです。沢山の資格試験があり、それに挑戦する若者が大勢います。勿論、資格を多く持つことはステータスでもあり、必要な人には必要でしょう。しかし、資格や知識は思考力を高めても人間力には結びつきません。人間力に結びつくのは経験です。知識・技能を役立てるには多くの時間と労力が要りますが、経験から出たひと言は、一瞬で人の心を揺り動かし、やる気を起こさせることが出来るのです。19世紀のイギリスの歴史家トーマス・カーライルが「経験は最良の教師である。ただし、授業料が高い」と言っています。授業料が高いとは、失敗が多いことを言っているのでしょうが、失敗もまた貴重な体験談なのです。

オンライン時代のインストラクション

 コロナ感染は、インストラクションにも、3密をはじめさまざまな制約をもたらしました。小中高校の長い休校、不規則授業。同級生の顔も知らないという、大学のオンライン授業の長期化。さまざまなアンケート結果を見ますと、8割の学生が、「オンライン授業のほうが分かり易い」と答えていた大学もありました。その数字には唖然とします。

 企業研修も大きな影響を受けました。ほとんどの企業研修が中止、延期、大幅見直しを迫られました。リモート授業は常態化しつつあります。さまざまな工夫で表面上は遅滞なく行われていても、オンライン研修の物足りなさを指摘する声もよく聞くようになりました。

 理解度、関心度が分かりにくい。質問しにくい。異論があっても発言しにくい。本音が分からない。

 討論がしにくい。冗談が言えない。雑談がなく息が詰まる。微妙な表情の変化、気持ちが読めない。笑わない。体の好不調が分からない、など、多くのデメリットが指摘されます。人間力半分の部分が、オンラインでは発揮しにくいのです。

インストラクションの留意点

 言葉が無機質になりがちなオンライン。インストラクションも変わらなければなりません。

 ①普段より声の表情、アクセントをつけてくっきりとした話し方を意識する。②リアクションを多めに入れる。問いかけを多くして会話を立体的にする。③パワーポイント、資料の文字、文言は簡潔にする。センテンスを短くする。④発言者を明確にするために、氏名をはっきり呼びかけて発言を促す。⑤説明は決して早口にならないように。普段より「間」を意識して話す。⑥発言のポイントは繰り返す。最後にもう一度、くどいぐらいに繰り返す。

※1 インストラクション:「教えること、指導すること」といった意味のこと。インストラクションを行う人をインストラクターと呼ぶ。
※2 金言童子教:江戸時代の寺子屋で使われていた教科書の一つ。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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