電話応対でCS向上コラム

第81回 「明日の電話応対教育」

記事ID:C10009

「電話応対って、これからどうなるのですかね?」電話のプロでもないし、未来学者でもない私が、最近こうした質問をよく受けます。新型コロナウイルスの蔓延で、速いピッチで政治も経済もビジネスも暮らしも、大きく変わり始めました。電話に関係がある人なら、当然抱くであろう不安であり質問でしょう。明快に答えられることではありませんが、ご一緒に考えましょう。

電話応対教育を見直すチャンス

 上記の問いは、昭和の30年間をアナウンサーとして話し言葉に関わり、平成の30年間は電話応対教育にも深く関わってきた私自身が、最も気になる問いでもあるのです。特に、今は電話応対がどう変わるかより、電話応対教育をどう変えるかを、考えなければならない時だと思っています。人と人とのつながりが、ますます希薄になりつつあるのが今なのです。

 企業もテレワーク導入が6割を超え、オンラインもリモートも常態化しつつあります。同期入社の顔も知らず、相談する先輩もいないまま、オンライン研修だけで配属先に放り出された新入社員の悩みも聴きました。

 大学の多くもオンラインで授業を行っています。この春入学した1年生は、いまだに同期生との交流もなく、友人もできないと嘆いています。企業も大学も、あれほど重視してきたコミュニケーション能力へのこだわりを、コロナの対応で放棄せざるを得なくなったのです。

 しかし、コロナ禍は、電話応対教育を見直すチャンスと私は考えます。三密を避けて多くの催しが中止される中で、ユーザ協会が実施している「電話応対技能検定(もしもし検定)」は、万全の対応をとりながら、8月に集合形式による指導者級養成講座と検定試験を実施いたしました。11年前のもしもし検定発足時に、電話はメンタルな要素の強いコミュニケーションツールであるという共通認識を持って、対面の指導を原則としたのです。

人間の応対者は何を担うのか

 最近、さる大企業のコールセンターの責任者とお会いしました。その際、「コールセンターでAIオペレーターが主体になるのはいつ頃でしょうか」と尋ねました。「2年先でしょう」とその方はきっぱりとおっしゃいました。それに、ほとんどがチャットやLINEで済ませますから、人間が会話をすることはごくまれになるというのです。

 AIオペレーターは完璧な敬語を使い、応対用語を駆使してお客さま対応をするでしょう。今の応対研修は大きな見直しを迫られます。では、否応なしに到来するその時代に、人間の応対者は何を担い、どのような能力を求められるのでしょうか。

 一つはインプロ力※です。AIには答えられない無理難題や、想定外の質問をされた時に、それをさばけるのは、インプロ力を持った人間です(苦情対応も含みます)。AIロボットの時代になっても、人間に代われと要求してくる客は必ずいるでしょう。ここで必要なのは、話していて心が和む応対者、心を伝えられる表現技術と対話力を備えた応対者です。

 もう一つは、「詳しい者に代わります」と言わなくても済むように、自ら専門知識を有し、そのことを分かりやすく説明できる応対者です。

 以上、私見ではありますが、これからの時代に電話応対者に求められるものは何か、そのためにどのような教育をすればよいかがおのずと見えてくると思います。

教育とは、知識半分、人間力半分

 かつて電話応対者に求められた指導目標は、皆さんもよくご存知の「親切、丁寧、正確、迅速」の4原則でした。その精神は今も電話応対の根底には生きていると思います。しかし、昭和、平成、令和と、電話をめぐる環境は大きく変わりました。昭和の4原則にも大分手垢がつきました。

 日々進歩を遂げるIT機器に囲まれて、通信環境はさらに激変するでしょう。そして科学が進歩すればするほど、人間の能力は退化すると言います。それを防ぐには、単純で力強い教育目標が必要でしょう。教育とは知識半分、人間力半分です。知識は思考に役立っても人間力は磨けません。電話応対者にとって大事なのは経験です。それも心を動かす経験です。先輩や指導者の豊かな経験を活かす教育カリキュラムをぜひ考えてください。

※インプロ力:インプロとはインプロヴィゼーションの略で、シナリオやマニュアルにはない「アドリブ」のこと。お客さまから想定外の質問を受けた時などに、慌てることなく、柔軟な発想で臨機応変に対応できる能力を指す。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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