電話応対でCS向上コラム
第74回「話し方が速くなった!」日本人の話し方が速くなった!と思いませんか。以前と比較できない若い人は、そうは感じないかも知れませんが、年配者からは「近頃の若者は、早口で何を言っているのか分からん」という厳しいお叱りをよく聞きます。世の中のテンポがこれだけ速くなっているのですから当然なのかも知れません。しかし、早口のために、伝えたいことがしっかり伝わらない現実には問題があります。
早口がなぜ悪い?
「のんびり話している時代じゃない。効率的に多くの情報が伝えられていいじゃないか」と言う人もいます。本当に伝わるでしょうか。確かに、増える情報を捌けるというメリットがあるにしても、早口には多くのデメリットがあるのです。
・発音が曖昧になり聴きづらい。
・聴き手に解釈する「間」をくれない。
・質問を挟むきっかけがつかめない。
・緩急、高低、強弱、などの表情が乏しく単調になる。
・言葉の省略が多くなり、助詞が抜ける。
・集中して聴かなければならないので疲れる。
・聴き手の理解度に合わせてくれない。
・一方的になりやすく、きちんとした対話ができない。
こうして列挙しますと、速い話し方にいかに問題が多いかがお分かりかと思います。そして早口の人のほとんどには、聴き手に負担をかけている意識は全くないと思います。
なぜ速くなったのか
こうした症状はなぜ伝播していったのでしょうか。よく言われる理由の一つはテレビのCMです。物心がつく前から、子どもはテレビを見て育ちます。言葉も覚えます。その動く映像に興味津々の赤ちゃんは、CMの速いしゃべりを刷り込まれ、その速さに慣れていきます。二つ目は、日夜、どのチャンネルを見ても登場するお笑い芸人たちの、テンポの良い軽快なしゃべりです。意味は分からなくても、大きく影響を受けているのです。三つ目は、もう少し長じて接するようになる、ラインなどの情報通信メディアの影響があるでしょう。本当に大事なことを、音声で真剣に伝え合う対話の機会が減っていて、伝える速さの実感がないのです。
私の子どもの頃には、《言葉はしみじみと語るべし》と教わりました。一休禅師の言葉です。今やその手本となるような話し方に接する機会もなくなりました。誰もが日夜、せかせかと忙しく話しているのです。
アナウンサーの読み方も速くなった
速くなったのは話し方だけではありません。音声で表現する読み方も速くなりました。私がNHKに入った昭和30年代、アナウンサーが読むリードニュースのスピードは1分間に320文字と言われていました。スポーツニュースは400文字でした。それが、昭和後半から平成を経て、経済成長と、科学技術の急速な進歩、グローバル情報の激増などに対応すべく、アナウンサーの読むスピードも速くなりました。今は一般ニュースで380文字から400文字までアップしてきたのです。
話し方は変えられる
一昔前、同年代の友人にも早口がいました。早口な上に多弁なその男と話すと、人一倍疲れました。数年前、30年ぶりにその彼に会いました。変わっていたのです。ゆっくりとした話し方は、まるで別人でした。以下は、某生命保険会社の役職に就いていた彼の思い出話です。ある時、部下の一人に人事異動の内示を口頭で伝えました。「君にはこの度、和歌山支社に行ってもらう」この内示がひと騒ぎになりました。内示を受けた部下は、岡山支社の部長に直ちに挨拶の電話を入れてしまったのです。
和歌山と岡山の聞き違い。その一言の失敗で、彼は自分の早口を猛反省しました。録音機を買って、自分の理想とする一人の政治家の話を録音したのだそうです。そして何度も何度も、繰り返し繰り返しその口調を真似て、自分の話し方を徹底的に改造したのだそうです。「学ぶは真似ぶ」の典型的な例ですが、それは容易なことではなかったはずです。電話応対のプロである皆さんは、どのようなオペレーター像をお持ちでしょうか。私の理想はただ一点、常に相手に語りかけることです。その意識が、生きた「間」のある、お客さまとの温かい対話を育てられるのだと思います。決して、上手にきれいに、ではないのです。
岡部 達昭氏
日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。