電話応対でCS向上コラム

第67回「話の出だしでつかむ」

 講演やスピーチ、プレゼンテーションなどを聴く機会がよくあります。その度に、話力の違いを痛切に感じます。冒頭から聴き手をぐいぐいつかんでくる人もいれば、何を話しているのかさっぱり分からない人もいます。その差を生む要素はいろいろあるでしょうが、一つ言えることは、名スピーカーは出だしの数秒で勝負していることです。今回は話の出だしにスポットを当てて考えます。

日本人のスピーチは出だしが致命的に良くない

 辛辣にこうおっしゃるのは日本語の権威、金田一 秀穂さんです。「講演やセールストーク、時に雑談でも、人に何かを伝える時には『最初にどんな話をするか』がとても大事だ。誰しも自分が好意を寄せる相手や、興味のある内容でなければ、なかなか『意欲的に話を聞いてやろう』とまでは思ってくれない。最初のちょっとした雑談で、相手の心をつかむ術を知っていると大きな強みになる」この「つかみ」が上手いなと感心するのが小泉 進次郎議員だと、金田一さんはその著書「日本語のへそ」に書いています。

まず聴き手との間に橋を架ける

 今の日本で「名スピーカーと言えるのは誰だ」と訊かれて、皆さんは特定の名前が挙げられますか。父の後を継いで政界入りをした小泉 進次郎氏は各地の選挙応援に引っ張りだこでした。湯の町大分県湯布院でのことです。集まった聴衆を前に、進次郎氏はいきなり「湯布院とかけて何と解く」と問いかけました。「湯布院とかけて自民党と解く」「そのココロは?」「どちらも先が見えない」。深い霧で有名な湯布院と、当時民主党に押されて混迷の中にあった自民党とをかけたその一言で、聴衆の心をつかんだのです。このように、話し手と聴き手との間にまず橋を架ける、この手法を「ブリッジング効果」と言います。

最初に抱いた印象は持続する

 この連載の第18回で書いた「初頭効果」という言葉をご記憶でしょうか。私たちの脳の記憶には、最初に抱いた印象が残りやすく、その記憶が後々まで影響を与える、というのです。ポーランドの心理学者ソロモン・アッシュによれば、それは最初の7秒の印象だというのです。でも私は、声だけの電話ではもっと短く、「お電話ありがとうございます。〇〇でございます」という最初の3秒が大事だと思っています。

 アッシュはこのことを一つの実験で証明しています。特定のSさんの性格を6つの形容詞によって紹介するのに、2グループに分けました。

 Aグループ、「Sさんは知的で、勤勉で、衝動的で、批判的で、頑固で、嫉妬深い人です」

 Bグループ、「Sさんは嫉妬深く、頑固で、批判的で、衝動的で、勤勉で、知的な人です」

 皆さんがSさんに好感を持ったのは、もちろんAグループの紹介だと思います。

 6つの形容詞は同じなのですが、紹介した順が違うのです。「知的」で始まるか、「嫉妬深い」で始まるかです。この最初に紹介したほうの形容詞が、全体を支配した印象になったのです。

出だしの言葉には鮮度が大事

 スピーチやプレゼンの出だしが良くないということは、それがパターン化した工夫のない言葉で始まるからでしょう。その日、その時、その場に合った鮮度の良い言葉をよく考えてください。例えば、「今日この会場にうかがって驚いたことがあります」「ご案内をいただいた日から、これだけはお話ししようと決めていることがあります」「けさ、テレビを見ていましたら、感動的なパラリンピックの選手をリポートしていて涙が止まりませんでした」

 いきなりこうした言葉で始めるのです。導入での、定型文ではないこうした話は、「それでどうなったの」「もっと詳しく聞きたい!」と、先への好奇心を掻き立ててくれます。

 一昨日、近くの図書館で借りてきた1冊の本に魅了されて、午前3時までかかって読み終わりました。ブルース・バートンという人が書いた「イエスの広告術」という本です。

 その本には、イエス・キリストが何をどう話して、人々の心をつかんだかが書かれていました。

 「イエスは前置きをしなかった。最初の文章で相手の関心を呼び起こし、続く文章で本筋に入り、すぐに結論へもっていった・・・・・」

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員会委員長。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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