電話応対でCS向上コラム
第62回「挫折に打ち勝つ」人の一生にはさまざまな関門や障壁があります。それを容易に乗り越えて行く人もいれば、挫折して落ち込む人もいます。その違いは何でしょうか。それは、才能や運もありますし、精神力の強弱や性格によるところもあるでしょう。しかし、意識をコントロールできる力の存在が一番大きいと思います。今回は挫折にいかにして打ち勝つかを考えます。
挫折と向き合いながら
私たちは、どういう時に挫折感を感じるでしょうか。競争に負けた時、夢が破れた時、仕事で失敗した時、努力が報われなかった時、能力の限界を感じた時など、その原因や程度はさまざまです。しかし最も端的にそれが表れるのは、入学や採用、各種の選抜試験でしょう。そこには家族や関係者を含めて、悲喜こもごもの感情が交錯します。
私自身も数々の挫折を経験してきました。その時には悩み苦しんだ挫折も、月日とともに、傷みの一つとして、今は静かに記憶の片隅に保存されています。
今では自分の挫折よりも、人さまの挫折と向き合い、その辛さを思うことの方が多くなりました。過去には、アナウンサーの採用試験、アナウンスや朗読コンテストの審査などをしてきました。そしてここ数年は、電話応対技能検定(もしもし検定)の審査、電話応対コンクールや企業電話応対コンテストの審査にもあたっています。ほとんどの試験は、結果がすべてと言いながらも、そのプロセスや努力を知りますと、また次回にぜひ頑張って欲しいと願わずにいられません。
挫折から強くなる
スポーツキャスターとして、多くのアスリートたちの取材をしてきたテニスの松岡 修造さんは、「世界の頂点に立つ一流選手に共通したものは何か」と問われて、「それはとてつもない挫折を経験していることだ」と答えています。錦織 圭、羽生 結弦、小平 奈緒、高梨 沙羅といった超一流選手は皆然りです。自分の弱さを受け入れることが、本当の強さを得る条件です。そのためには「挫折を愛することが必要です」と松岡さんは答えています(『致知』2018年7月号)。
「天才であることは無理だけど、努力はこれから……」という言葉は、日本人横綱として日本中の期待を集めながら、怪我に勝てずに先ごろ引退した稀勢の里関(現・荒磯親方)が、力士を目指していた少年時代に言った言葉だそうです。頂点を極めながら、横綱8連敗という不名誉な記録を残して土俵を去らざるを得なかった稀勢の里関としては、それはとてつもない挫折に違いありません。でも、その引退会見は爽やかでした。稀勢の里関にとって、親方としての頂点はまだまだこれからなのです。
もしもし検定や電話応対コンクールでも
電話応対コンクール県大会での講評で、私はよく元プロ野球楽天の監督だった野村 克也さんの言葉を紹介します。「勝ちに不思議な勝ちあり、負けに不思議な負けなし」。年間143試合も戦う野球の世界では、なぜ勝てたのか分からないが勝つことがある。だが負ける時には必ずなぜ負けたかの理由があるというのです。「紙一重との選評を背に敗者」という川柳があります。「紙一重の差でした」という選評もよく耳にします。敗者には多少の慰めになるとしても、次回への意欲を掻き立てるほどの力にはならないでしょう。それよりは、負けには必ず理由がある。それをしっかりと見つめ、反省して次につなげようという野村 克也さんの一言に重みを感じます。
挫折から局後検討へ
囲碁・将棋の世界には、「局後検討」という言葉があるそうです。プロの棋士たちは、対局が終わった後に、勝っても負けても、必ず駒や石の動きを最初から順を追ってじっくりと振り返るそうです。将棋の藤井 聡太七段も、この4月には囲碁の最年少プロ棋士となる仲邑 菫さんも、その繰り返しの中で強くなったのでしょう。
さて、翻ってもしもし検定や電話応対コンクールではどうでしょうか。事後に局後検討をしっかりする人も中にはいるでしょう。しかし、本番までに費やす努力に比べれば、その比重はぐっと軽くなりそうです。このことは、審査員や指導者、我が身にも降りかかる重い反省事項なのです。
岡部 達昭氏
日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員会委員長。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。