電話応対でCS向上コラム

第44回「“声”が生み出す力」

前回は「心を伝えることばの表現力」として、「語調」の変化についてお話ししました。その語調の変化を生み出すのは「声」です。100人いれば100の声があり、その声が伝えるメッセージは全部違います。今回は前回の続編として“声”の力について考えます。

“言葉”が守ってきた人類の歴史

20万年前に誕生したと言われる人類の祖先が、厳しい自然環境の中で生き抜いて来られたのは、言葉を持ったからだと言われます。非力な人類がどうやって生き延びたのか、言葉は、その謎を解くカギかも知れません。2足歩行をするようになった人類の祖先は、それによって脳が発達し、豊かな言葉を生み出しました。言葉は、強力なコミュニケーション手段であると共に、様々な文化を生み出し、その後の人類の進歩に多大な貢献をしたのです。

鳥もけものも“声”で情報を伝え合う

ところが、言葉を持った人類は、その言葉に頼り過ぎたため、思わぬマイナス面が生じたのです。哺乳類や鳥類など肺呼吸をする動物は“声”を持っており、その声で情報交換をしています。相手を威嚇する。親愛の情を伝える。仲間に危険を知らせる。親に甘える。子を呼びよせる。それらは全て声です。声の表情です。それらの声は、確実に伝えなければ生死に関わります。高低、強弱、声の持続、音色などを複雑多様に使い分けた鳴き声で情報を伝え、生命や種族の維持、意志や感情表現を行っているのです。ところが、人間だけは、“声”の力を軽視してきました。言葉を持ったからです。言葉を伝えれば、意志も感情も伝わると思いこんできたのでしょう。

声に無関心な日本人

私たち日本人は、1000年の昔から文字文化には強い関心を持ち、幾多の絢爛たる文学作品を花開かせてきました。しかし、声にはあまり関心がなかったようです。今でも、日本の学校教育(普通課程の)で、発声・発音の指導を正式にカリキュラムに取り入れているという話は聞きません。もちろん企業の社員教育も然りです。

「声は人なり」と言いますが、私たちはもっと声に関心を持ち、その表現力を磨く必要があります。声を鍛えるために、しっかり口を開けて話す。正しい呼吸法を身に付け、聞き手に届く声を出す。そうした基礎訓練をしている方は多いでしょう。しかし、電話応対教育に足りないのは、声の量ではなく質です。「声の表情」を使い分ける表現力なのです。

私たちが日常話している言葉は1,500語ぐらい。その1,500語で20,000通りの意味を伝えている。それは、発話全体の90%を占めるリズムとイントネーションの変化による違いだと、音声言語医学の権威、米山 文明さんは言っています。ということは、言葉そのものをいくら選びに選んでも、リズムやイントネーションの変化が単調であれば、情報も思いも聞き手には伝わらないのです。

言葉は頭で聞き、声は胸で聞く

英文学の小田島 雄志さんが、「言葉は耳から頭にくる。声は耳から胸にくる」と言っています。頭で理解した言葉が、同時に胸を打つことはありません。胸を打つのは、その言葉を伝える声です。声のリズムでありイントネーションです。そして表声、裏声、息の声などの息の変化です。文字化されたスクリプトやマニュアルの言葉は、いくらそれらしく伝えても、聞き手の胸に響く声にはなりません。電話で話す「ありがとうございます」も「お待たせいたしました」も、10人いれば10通りの、100人いれば100通りのシーンがあり、声があるはずです。動物たちに負けない声の表情を鍛えることを、前回の「語調」と合わせて研究してください。

AIロボットの時代が、もうそこまできています。ロボットには真似のできない、心を打つ自然な電話応対力。そのカギを握る一つは、耳から胸に聞こえてくる「声の表情」だと思います。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員会委員長。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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