電話応対でCS向上コラム

第41回「聴解力で応対力を伸ばす」

2カ月ほど前に話題になった、「東ロボくん東大合格断念!」というニュースをご記憶でしょうか?東ロボくんとは、国立情報学研究所の新井 紀子教授らが進めてきた「ロボットは東大に入れるか」という、AI(人工知能)開発プロジェクトのプログラムロボットの愛称です。今回はこの「東ロボくん」と電話応対の関係について考えます。

「東ロボくん」は何故東大合格を断念したのか

2011年に東大合格を目指して開発を始めたプロジェクトは、各科目ごとの試験に対応した人工知能プログラムを開発してきました。大手予備校が実施したセンター試験の模擬試験では偏差値58。全国の国公立、私立500近い大学入試にあてはめると、その合格可能性は80%を超えるところまで進化したのです。しかしプロジェクトの最終目標である東大合格のラインにはどうしても届かない。それはなぜか。新井教授によれば、読解力が壁となって、合格を阻んでいるのだそうです。プロジェクトは、結局東大合格は断念して、今後は数学や国語などの記述試験の成績を上げる研究に集中するということです。

まずしっかり読み込むこと

このニュースを私は大変興味深く読みました。最高の頭脳を集めたAI(人工知能)の開発チームをもってしても、読解力というアナログ時代から言われ続けている能力が、開発の終盤で壁となって立ちはだかったのです。このことは別の見方をすれば、人間の数多い思考能力の中で、読解力が如何に大事かということの証左にもなります。

様々な問題に対峙するとき、私たちは書かれていることをしっかり読み込んで、その問題が何を求めているのかを考えます。子どもの頃から、先生や親から、何度も何度も、くり返しくり返し、よく読むようにと言われてきました。重要なことは必ずそこに書いてあるからです。読み込むことによって得た情報を基に考えます。不要な情報は捨て、足りない情報は増やします。そして更に考え判断し、核心に辿りつきます。この読み込みと思考と判断がすなわち「読解力」なのです。

電話応対には「聴解力」が求められる

この流れは電話応対でも全く同じです。ただし、電話では読みとる力ではなく、聴きとる力、つまり「聴解力」が求められるのです。お客様が期待する良い電話応対とは、電話の用件を正確に聴きとって、手際良く、分かり易く答えてくれる応対です。正しい言葉遣いや美しい話し方を聞きたくてかけてこられるわけではありません。もちろん結果的にはそれも大事ですが、まずは用件に的確に応えることが先です。そのために必要な能力が「聴解力」なのです。

スキルチェック試験の審査は何を見ているのか?

もしもし検定の指導者級資格試験には「スキルチェック試験」という項目があります。ユーザ協会が保有する3分ほどの実際の応対テープを聴いて、お客様に満足して頂ける応対であったかどうか、その良かった点、改善点をチェックするのです。その結果を、企業の上司宛てと、実際に応対した本人宛ての2通の報告書に書いてもらいます。審査に当たるもしもし検定の専門委員会は、この試験を最も重視しています。①的確にお客様のニーズを聴きとっているか、②不足情報を訊き出しているか、③それを基に的確に判断し、④正確な業務知識をもって、⑤分かり易くお客様に伝えているか。この5項目が、良い電話応対にとって欠かせない主たる要件です。特に①~③の項目を的確に指摘できているかどうかが合否の分かれ目になります。それによって「聴解力」のレベルを見ているのです。

企業の中でも、テープチェックなどでの通話モニタリングを実施しているところが多いと思います。その際、敬語が間違っている、発音発声に問題がある、早口だ、語尾が伸びる、復誦がない、「間」が不足、などの指摘が多くなってはいないでしょうか。もちろんそれらは応対者にとって磨かなければならないスキルではあります。しかしそれらはあくまで基本応対のスキルチェックポイントです。AI時代の到来を考えると、「聴解力」を鍛えることこそが、ロボットと一線を画す次代の応対者の課題だと思います。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員会委員長。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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