電話応対でCS向上コラム
第32回「話さなくても話し上手」~あいづちの役目~「話し下手」で悩んでいる人が世間には大勢いるでしょう。指導書を読んだり、セミナーに通ったりと努力をしても、話し上手になるのは簡単ではありません。コミュニケーション力の視点から考えると、話し上手になることを目指すより、聞き上手になることの方がはるかに大事であり、実行し易いのです。その聞き上手になる第一歩は、心地よい「あいづち」にあります。
新入社員をあいづちで迎え入れる
4月、皆さんの職場には新入社員が配属になりましたか。新人を迎えると職場がどことなく明るくなりますね。何かが変わるのです。先輩たちは、緊張している後輩が早く職場に解け込めるようにと気を配り、それぞれの仕方で手を差し伸べます。情報や知識を伝え、必要な技術を教えます。それらは、新人たちにとって心強い力となるでしょう。
しかし、実はこの時期に彼らが一番求めるのは、多くのことを教えてくれる先輩よりも、安心して何でも話せる先輩の存在なのです。そうなるための方法の一つが「あいづち」です。あいづちで話し易い雰囲気をつくり、徹底的に新人の話を聞くのです。自分をさらけ出したときに、両者の距離が縮まります。そこに信頼関係が生まれます。
衰退するあいづち
あいづちで信頼関係を築くと言いましたが、昨今の若者たちはあいづちが苦手です。彼らのあいづちは、「ウソッ」「ホンとに?」「ヤバくない」「マジ?」「それな」「たしかに」など、彼らの作りだした若者方言の数語に限定されます。旧来のあいづちはほとんど打ちません。そうした言語習慣がないのです。昔は家族の団欒の中で子どもは言葉を覚えました。火を囲み、炬燵に足を入れ、ラジオ、テレビのある茶の間や居間で会話を重ねながら、言葉を覚えてきました。それがテレビや電話が、一家に1台から一人1台の時代になると、子どもはテレビから言葉を覚えるようになりました。ところがその学習は一方通行です。テレビの中の話し手にあいづちを打つ必要はありません。更にスマホによるメール文化がそれに輪をかけました。かくしてあいづちは衰退の一途を辿ることになったのです。
大人社会の大人のあいづち
とは言っても大人社会には、連綿と受け継がれてきた大人のあいづちがあります。それには「受け入れるあいづち」と「断ち切るあいづち」の2つがあります。「へえー、そうなんですか」「そうですよね」「なるほどねえ」「それはいいですね」「おっしゃる通りです」「よくわかります」「驚きました」「いい話ですね」「それでどうなりました」「わかります。わかります」「信じられません!」「ひどい話ですね」「辛かったでしょうね」「たいしたものです」「いやー嬉しいです」。これらは何れも「受け入れるあいづち」です。こうしたあいづちを効果的に言われますと、話し手はとても良い気分になり、つい雄弁に話すようになります。更には聞き手に好感を抱いて、この人とまた話したいと思います。その結果、あえて自分から話さなくても、あいづちだけで会話を弾ませることができるのです。新人たちも、自分が受け入れてもらっていると感じて、きっと心を開いてくれるでしょう。この「受け入れるあいづち」はあらゆる場面で役立ちます。
反対に話を「断ち切るあいづち」があります。「そうですかねえ」「わかりませんね」「それって違いますよ」「むだですね」「何べん言わせるんですか」「おかしいじゃないですか」「だから言ったでしょ!」「話になりません」。言われた方はかなり傷つくこうしたあいづちも、口にする本人はほとんど気付いていないことが多いのです。
たかがあいづちと思わないでください。忘れてはならないことは、ひと言のあいづちにも、込められた意味があると言うことです。考えて打つ多彩なあいづちによって、対話力は磨かれます。顔の見えない電話の対話では、思いを伝え、人間性まで伝えるひと言のあいづちが、特に大事になってきます。
岡部 達昭氏
日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員会委員長。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。