電話応対でCS向上コラム
第29回 「コミュニケーションの大敵『上がる!』」例年、秋はユーザ協会のコンクールの季節です。関係なさった皆さん、結果はいかがでしたか?努力が報われた方、悔し涙にくれた方、様々でしょう。「勝ちに不思議な勝ちあり。負けに不思議な負けなし」と言ったのは、元プロ野球楽天の監督だった野村克也さんです。敗因の一つに、上がってしまって実力が出せなかった、と言う人もいるでしょう。今回はコミュニケーションの大敵のひとつ「上がること」について考えます。
「上がる」のもエネルギー
NHK時代、大先輩に鈴木健二という一世を風靡した名アナウンサーがいました。「健二さんぐらいになると、放送で上がることなどないでしょうね」と訊いたことがあります。「毎回上がりますよ。上がるというのはエネルギーですからね」。意外な答えでした。
私にもニアミスの失敗があります。番組の冒頭でカメラに向かって前説を述べたあと「今日スタジオにお迎えしたお客様は」と、ゲスト紹介をしようとしました。途端に、お名前を忘れてしまったのです。横隔膜がせり上がり、呼吸が早くなり、動悸が高まります。それは一瞬のことです。その時、私の口を突いて出た言葉は「恐れ入ります。自己紹介をお願い致します」でした。ゲストはカメラに向かって自己紹介をして下さり、番組は何の違和感もなく進行しました。それは、その時すでに中堅アナウンサーであった私のずるさでもあり、よく言えば経験で身に付けたトラブル対応のスキルでもあったと思います。
どうすれば上がりを防げるか
「上がる」原因は、上手に話したい。失敗したらどうしようと思うからです。その一点に負の意識が集中してしまいます。つまり、準備が十分にできていなくて不安な状態の時ほど、上がると言う症状が出るのです。
昔、よく言われた上がり防止法の一つに、手のひらに「人」という字を書いて、それをひと口に飲み込むポ―ズをするというのがありました。つまり人を呑んでかかれと言うことでしょうが、もちろんこれでは防止法にはなりません。有効な方法を考えましょう。
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文字に書いてそれを丸暗記すると、忘れた時に収拾がつかなくなります。伝える内容を項目に整理して、その項目を覚えます。(項目だけをメモにします)
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伝える内容を文字ではなく、映像化して覚えるのです。その内容を話している場面をイメージして覚えると、覚えたことを取り出すのに文字よりずっと楽にできます。
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何度伝えてもよい大事なポイントを決めておき、忘れたらそのポイントを繰り返します。時間が余った時にもその繰り返しは有効です。
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聞き手の中から、反応が良く、にこやかにうなずいてくれる人を数人マークし、その人に向かって話しかけます。聞き手が良いと、話し手も気持ちを楽にして話せます。
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もし忘れたら堂々とメモを見ようと割り切ってください。間違えたりとちったりしたら素直に謝れば良いのです。その方がかえって自然な応対として好感をもたれます。
数年前のコンクール全国大会で、とても自然で良い応対をしていたのに、途中で忘れて絶句した人がいました。でも彼女は数秒後に立ち直って素直にお詫びを言い、規定時間内に演技を終えました。その素直さこそ大事だと私は思います。上がって失敗することは、日常の応対でも誰にでもあります。大事なことは、如何にリカバリーできるかです。
効果のあるリラックス法
上がると言うのはあくまで意識の問題ですから、上がらないためには先ずは気持ちを楽にすることが一番です。緊張しますと体も堅くなります。そのことを逆に考えて体をほぐして緊張をとる方法があります。腹式呼吸なども有効ですが、私の方法を伝授します。
両肩を首筋まで力を入れて持ち上げ、2,3秒止めてから、ストーンと力を抜いて肩を落とします。これを寸前にさり気なく3回くり返します。そこに意識を集中することで緊張がほぐれます。上がりを押さえて、実力を存分に発揮してください。
岡部 達昭氏
日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員会委員長。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。