電話応対でCS向上コラム
第16回 営業の極意は“聞く”にあり情報伝達手段や販売手段が多様化しています。電子メールが営業の主要ツールになったとしても、声で情報を届ける電話の役割は、決してなくなることはないでしょう。それは、商売の究極は、商品よりも“人間性”に負うところが大きいからです。今回は電話による営業について考えます。
相手にされなかった通販トーク
私の知人に大手企業の営業部長をしている男性がいます。彼の大学生の娘さんが、電話で通販商品の女性の下着を売るアルバイトを始めました。真面目な彼女は、会社から与えられたマニュアルを完璧に覚えて電話に向かいました。ところが、数日経ってもまったく売れません。売れないどころか聞いてももらえません。すっかりめげた彼女は、父親に相談しました。「私、マニュアル通りにちゃんとやっているのに、聞いてもくれないの」。父親はひと言アドバイスをしました。「お前、話してばかりいるだろう。それではダメだ。営業とは話すことじゃない、聞くことだぞ」
営業とは、お客さまの不満、不足を聞くこと
「営業とは聞くことだ」。この父のアドバイスのひと言を、聡明な彼女は必死に考えました。そして、その意味が分かりました。彼女は会社から与えられたマニュアルを、一旦すべて捨てたのです。そして再び電話に向かいました。
「お客さまが今お使いの下着について、何かご不満がございましたらぜひお聞かせください」「『こんな下着があるといいなあ』というご希望がありましたらお教えください」。そのように問いかけますと、お客さまは思いがけず熱心にいろいろ言ってくださったのです。賛同を示しながら聞いているうちに、心が繋がりました。ひとしきり話して収まったところで、「お聞かせくださってありがとうございます。実は、いまおっしゃったご要望にお応えする新商品を、私どもで今回売り出しました」と、マニュアルに戻って説明をしました。すると、ついに売れたのです。
「聞く営業」で売り上げナンバーワンになる
すっかりコツをつかんだ彼女は、その後、「聞く営業」の開発に積極的に取り組みました。人は誰しも、何らかの不平や不満を抱えて生きている。そして、そのことを誰かに聞いてもらいたいのだ。その発見で大きな自信を得た彼女は、お客さまが安心して話してくださる聞き方のスキルの開発にも取り組みました。それから半年ほどして、彼女の父親に会いました。「前に話したうちの娘のこと覚えてる」「電話で下着を売ってる?」「そう、あの娘、会社で売り上げナンバーワンになって表彰されたんだよ」。彼はとてもうれしそうでした。
岡部 達昭氏
日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員会委員長。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。