電話応対でCS向上コラム

第15回 それは事実なの?意見なの?

ビジネスの世界で交わされる言葉を巡って、「それは事実なの?それともあなたの意見なの?」と問われることがあります。この事実か意見かの区分けが実に曖昧なのです。そのために思わぬ誤解を生みトラブルに発展することもあります。その原因は、安易に発したひと言にあることが多いのです。

事実と意見はどう違うのか

辞書的に答えれば、「事実」とは、実際にあった事柄としてだれもが認めること。「意見」とは、ある問題についての個人の考えを言います。推測や願望などもその範疇(はんちゅう)に入ります。ではもう少し身近な具体例で説明いたしましょう。

酒好きのAさんのボトルには、いま酒がちょうど半分残っています。これは事実です。

「先日開けた秋田の地酒があったよなあ」とAさんが夫人に訊きます。夫人が答えます。「ええ、まだ半分はあると思いますよ」。「まだ半分」というのは夫人の意見です。同じ質問に、Aさん以上に酒好きの息子のBさんはこう答えます。「もう半分しか残っていないよ」。この「もう半分しか」というのはBさんの意見です。半分残っているという同じ事実を伝えるのに、ひと言、違う副詞が付くことで、別の意味を持った意見になります。

「思います」を付けると意見になる

「5日までには入荷すると思います」「明日の3時にうかがいたいと思います」。最近は文末に「思います」をつけて、曖昧な意見にしてしまう話し方が蔓延しています。何ごとも曖昧にしておいて責任は持たないという風潮のせいでしょうか。あるいは「思います」と言った方が柔らかい言い回しと思うのかもしれません。何れにしても、「5日までには入荷いたします」「明日の3時にうかがいます」と言い切る方が、明快で信頼感が持てます。

20年ぐらい前から、じわじわと増えてきた半疑問形での物言いも、自信のない自分の意見を、断定的に言わずに半疑問形にすることで、無意識に聞き手を共犯者に仕立てているのです。

「これは私の考えです」などと、はっきり言う

「今日中なら多分間に合うと思います」「平日ですからご予約なしで大丈夫でしょう」などのようなエクスキューズは、簡単に聞き流してしまいます。そして「間に合うと言った」「大丈夫だと言った」と、自分にとって都合のよい情報にしてしまうのです。

ですから、意見を言うときには、「これは私の考えです」「私の感触を申し上げれば」「断定はできませんが途中経過としてお聞きください」などと、しっかりと条件を付けてから伝えてください。「○○さんがこう言っています」「□□にこう書いてあります」など、情報の出どころ、出典などを明確にすることも大事な心配りです。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員会委員長。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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