電話応対でCS向上コラム

第15回 時間を置くことで起きる当事者たちの心の変化

第三者が当事者同士の話し合いを促し、トラブルを解決に導くメディエーション(調停)。前回は、1対複数で調停を行う際に注意すべきこと、柔軟な対応を取るべきケースについてご紹介しました。今回は、2回目の調停において当事者が欠席した場合の対処、そして時間を置くことで起きる当事者の心の変化についてお話ししたいと思います。トラブル収拾の極意を学び、当事者同士の相互理解を促すコミュニケーションの基本を身に付けましょう。

2回目の調停に当事者が欠席した場合

当事者同士が話し合ったものの、双方の合意には至らず、メディエーションが2回、3回と継続するケースがあります。話し合いを重ね、結果的に、双方が納得する結論が出れば良いのですが、時には当事者のどちらかが2回目以降から欠席してしまうケースもあります。その多くの場合、当事者はメディエーターに対して、体調不良などを欠席の理由として挙げます。

しかし、本当にただの体調不良なのでしょうか?場合によっては、その奥に、当事者からのサインが隠されている場合もあります。

欠席した当事者を仮にHさん、相手方をIさんとしましょう。
調停の場にIさんが来ても、一向にHさんが姿を見せないため、メディエーターが連絡をしてみると、「お腹が痛くて出られない。次もいつなら大丈夫とは言えない」とHさんが言います。

もしこの時、あなたがHさんの欠席理由の裏に何かがあると感じるのならば、出席しているIさんに「一緒にHさんの気持ちを考えてみませんか?」と提案しましょう。

IさんはなぜHさんの気持ちを考えなければならないかと思うかもしれません。そのような戸惑いがあるときは、「Hさんの気持ちを考える」を宿題にすると良いでしょう。

Iさんはこの宿題を通して、Hさんが今日来られなかった、あるいは来なかった理由を想像します。
もしかすると、前回言い過ぎたかもしれない、私を避けているのかもしれない、等々です。こうしてHさんの気持ちを深く考えることで、もしかするとHさんを許せるようになるかもしれません。

「相手の気持ちを考える」ことは、対話による解決の第一歩でもあるのです。他方、メディエーターは、Hさんにも働きかけが必要となります。IさんがHさんの気持ちを考えると同時に、メディエーターも考える必要があります。
前回の調停の進め方が強引でなかったのか、等々。その上で、Hさんに、来ていただくように働きかけます。
Hさんの気持ちに配慮するために、なにが必要かを、Hさんの要望を聞きながら提案します。

直接の当事者でない者の関わり

Hさんのように、当事者が対話の席に着くことに対して消極的な場合、その周囲の関係者が業を煮やし、調停以外の場所でトラブルになることがあります。さきほどのケースで言えば、待たされたIさんが同僚JさんにHさんが来なかったと話し、JさんがHさんに苦言を呈するといったことがそれに当たります。

Jさんは、なぜ逃げたのか、卑怯であると言ってHさんを責め立てます。そして、そのままHさんと言い合いに――。

このように直接の当事者以外の人が、紛争に関わると問題は難しくなります。したがって、紛争解決には、周りの者の見守りが必要です。

こうして、様々な問題が起こったとしても、時間を置き、当事者同士がいざ対話を始めると、以前は進まなかった対話がスムーズに進むようになるケースがあります。それはお互いがお互いの立場になって物事を考えることで起きる変化です。

対話は、対話の終了後も、それぞれの心の中で仮想の相手と対話が続けられます。そうすることで、心にも変化が現れます。メディエーターは、「調停の場」と「調停と調停の間」をつないでいく作業が必要となります。その間での当事者の変化を促すこともまた、メディエーターの重要な役割のひとつなのです。

※メディエーションは、「もしもし検定」のカリキュラムに導入されています

稲葉 一人(いなば かずと)氏

中京大学法科大学院教授。東京・大阪地裁判事、法務省検事などを経て、現在本務のロースクールのほか、久留米大学医学部、熊本大学大学院などで教壇に立つ。また、日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会委員・専門委員会委員を務めている。米国に留学し、ADR(裁判外紛争解決)を研究し、メディエーションの教育者・実践者である。JICAを通じた海外の裁判所における調停制度構築のプロジェクトを進め、2012年10月にモンゴル国最高裁から「最高功労勲章」を授与された。

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