電話応対でCS向上コラム

-株式会社Safari-
第69回 「直そうとするな、わかろうとせよ」という聴き方

記事ID:C10123

宇宙人に狙われている方からお電話です

 家電メーカーのコールセンターで二次対応をしていた頃、少し変わった用件の電話を受けた経験があります。中でも「宇宙人に狙われている方からお電話です」と転送されてきたお客さまのことは、10年以上経った今でも忘れられません。
 その電話が転送された時、履歴には7日連続の入電とありました。お客さまの用件は「テレビに仕掛けられたカメラのせいで宇宙人に生活を覗かれている。とても怖い」、「修理に来てカメラを取り外してほしい」、「何度電話しても取り合ってもらえない」というものでした。一方、オペレーターの対応はと見ると、「テレビに監視カメラは内蔵していないことを繰り返し説明。言葉を変えて説明するも、お客さまは不納得」と、まるで同じメモが7枚ありました。そうして、いざ電話に出てみると、お客さまの声は不安そうで、冗談やイタズラには聞こえませんでした。

テレビに不具合はないか

 お客さまのテレビの液晶パネルの故障によりゴースト障害(二重写り)があるのでしょうか?…そのゴーストのことを「宇宙人が覗いている」と表現されたのでしょうか?…。私には、お客さまのテレビの状態を確認する責任があると思いました。そこで「もう少し詳しく教えていただけますか?」と尋ねてみました。
 すると、お客さまの身の回りで起きている不可解な現象について、宇宙人に生活を覗かれている不安について、また、テレビにカメラが仕掛けられたと思うに至った理由など、お客さまの真実を教えてくださいました。
 さらに、テレビがお客さまの部屋に設置されるまでの経緯を振り返り、何者かがテレビに細工する隙があったかどうかを一緒に考えました。その後、リモコンを操作して電波状況などを点検し、テレビに不具合がないと確認ができた時、お客さまは「監視カメラはテレビの中じゃなかったんですね」と言われました。
 私は説得もせず、ただ聴いただけでしたが、お客さまはテレビの中に監視カメラはないと自ら気づき、これを機に、修理要求の電話は止んだのです。

語り手のストーリーにつながる

 「宇宙人に狙われていて毎日が怖い。テレビの中のカメラを取り外してほしい」という、初めは不可解に思われたお客さまのお話や行動も、お客さまの世界に入り込んで話を聴いてみれば、その文脈の中で「当然の反応」と思えるようになりました。
 この例のように、用件が曖昧で回答が非定型的な二次対応では、聴き方にも人ならではの奥行きと深さが求められるのだと思います。
 今、私の仕事は講師・カウンセラーに変わりましたが、多様な人のお話を聴くことに変わりありません。これからも、相手への理解が深まる聴き方を考えてまいります。

西岡 幸恵氏

株式会社 Safari 取締役。広告業界から転身。クレーム電話応対の経験の後、(公財)日本電信電話ユーザ協会契約講師に。2016年からは電話応対技能検定の実施機関として、その普及に努めています。また、都内の大学でキャリアカウンセリングを実施。人生100年時代の主体的なキャリア形成を支援しています。

「次回の講師は、東京海上日動安心110番株式会社の宇賀神 由美子さんです。優しい声と、誰にも負けない体力の持ち主で、日頃から電話応対技能検定を活用した応対品質向上に努めていらっしゃいます」

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