電話応対でCS向上コラム
-フリー講師-第42回 講師として、私が伝えたい思い
記事ID:C10041
言葉は消しゴムで消せない
私は5年前に主人を亡くしました。葬儀後は、悲しみに暮れる間もなく名義変更などの手続きに追われ、そのほとんどが電話でのやり取りでした。その際、電話のお相手からは「ご愁傷様でございます」という言葉をかけられました。これは、お悔やみの言葉としてマニュアル化している言葉ですが、心からのお悔やみとして発してくださる方もおられる一方で、間髪入れずに用件を述べてくる方もいます。そのような場合、気持ちの伝わってこない、ただの言葉として私の耳を流れていくだけです。
その中でも驚いたのが「それで今回のご用件ですが、私にはイレギュラーなことなので、どう説明していいのか考えているんですが…」と言われた時です。私は一瞬耳を疑いました。「え?イレギュラー?主人の死がイレギュラーということ?こんなことを平気で言う人もいるんだ…」と呆れ、「別の方に代わって」と言いたい気持ちを必死で抑えました。一刻も早くこの電話を終わらせたいという気持ちと同時に、電話応対の講師の立場から、最後までこの方の応対を聞きたいという職業的な思いもあったからです。
私が電話応対の経験を通じて実感したことは、マニュアル通りの言葉では人の心をつかめないということです。一度発した言葉は消しゴムで消すことはできません。相手の言葉の奥にある気持ちを考え、その気持ちに寄り添う言葉だからこそ(その人の人格が表れ)、人の心をつかめるのです。
人は納得しなければ動かない
電話応対の現場では「上手に言わなきゃ」「相手に何を言われるか分からないから電話を取りたくない」などと不安を持つ方が多いです。そのような方へ私は、「相手の言葉をよく聞き、相手の気持ちを考え、そこから出てくる言葉を言ってみてください。その気持ちは必ず伝わるので大丈夫」と伝えています。
私が講師として実践しているのは、伝える言葉の意味や理由を納得するまで教えることです。私自身、恩師から「人は納得しなければ動かない(動けない)」ということを学んできたからです。受講生たちに言葉の意味や理由を納得するまで教えると、まず表情が変わってきます。そして、時間の差はありますが、言動が変わります。それまで納得していなかったから動かなかった(動けなかった)だけであり、人は納得すれば動くのです。
人の気持ちを優しくできる応対
主人を亡くしてから一番心に刺さった言葉は「あぁ…それは大変でしたね」と、相手の気持ちが伝わってくる言葉であり、その後の親身な対応でした。そのような言葉と対応により、私の張りつめていた気持ちは一気に緩み、いつもの私自身に戻れたのです。
電話応対一つで、人の気持ちを優しくすることができるのです。これからも、相手の気持ちに寄り添い、相手の気持ちを優しくできるような人財を育てていきたいです。
長峰 ヒロ子氏
フリー講師。高校生~社会人とキャリア教育研修・企業内研修を実施。日本電信電話ユーザ協会が主催する各種講座、会員企業に出向いての研修、電話応対技能検定(もしもし検定)の指導・審査、電話応対コンクールの音源審査に携わる。電話応対技能検定指導者級資格保持者。